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弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

テポドン2号発射誤報事件

2009-06-04 22:54:18 | 歴史・社会
北朝鮮がテポドン2号を用いた多段ロケットを打ち上げたのは4月5日、あれから2ヶ月近くが経ちました。あのときは日本国中、本当に大騒ぎでしたね。

この騒動においては、実際の打ち上げ前日である4月4日に、日本政府は「北朝鮮から飛翔体が発射されたもよう」という誤報を発表してしまう不始末をしでかしました。一体なぜこのようなことになったのか。

月刊誌“世界”6月号で、東アジア安全保障研究会著「PAC3『アリバイ配備』の茶番 露呈した危機管理体制の破綻」という記事が載っていたので、こちらにメモしておきます。

最初は、防衛省技術研究本部飯岡支所(千葉県旭市)の航空自衛隊レーダーが飛翔体を検知したことに始まります。
この情報が航空総隊司令部(東京都府中市)に入り、そこから防衛省地下にある中央指揮所に「飯岡探知。SEW(米軍早期警戒衛星)入感。発射。」と流れます。
「SEW入感」は完全な事実誤認です。同司令部の連絡担当者が、日々練習していたためについ口に出てしまいました。

さらに同司令部で連絡を受けた内局運用企画局幹部が、「SEW入感」を「発射」とアナウンス。この音声は官邸でモニターされていたことから、緊急情報は「Em-Net」システムで自治体へ送信、そして報道機関にも流れた結果、誤情報が世界にも駆け巡る羽目になりました。

米軍の早期警戒衛星による探知が事実なら、中央指揮所にも知らされているはずです。ところが前述の内局幹部はこれを確認せずに航空総隊連絡をうのみにした上に「発射」と誤りを上乗せしたのです。チェック機能と冷静さを欠いたミスの連鎖が、深刻な不手際を引き起こしました。

さらに問題なのは、中央指揮所の情報が確認されることなく、モニターを介して官邸に垂れ流しになる手順を採ったことです。情報は本来まず、防衛省が真偽を含めて価値を判断し、官邸や他省庁に連絡する手順だったにもかかわらず、4月3日夜に急遽変更されてしまったのです。しかもこの重大なルール変更、浜田防衛相にも報告されていなかったという、致命的な事務方のミスがありました。
浜田防衛相は誤情報事件の発生後に、徳地秀士運用企画局長から「報告手順を官邸(旧安危室)の指示で3日に変更した」と訊いて唖然とするとともに、徳地らに対する抜きがたい不信感を抱きました。もはや防衛相は大臣を頂点とする国防組織としては機能せず、官邸への中継地点と化していたばかりか、その中継のための伝言さえも満足にできなかったのです。

イージス艦「あたご」衝突事故の際、首相官邸や防衛相への報告が遅れたことが関係者のトラウマとなり、防衛省や官邸では「速報病」が蔓延しているそうです。伝達過程でだれが情報を滞留させたのか「犯人探し」が始まるのだといいます。こうしたムードが「速報重視 チェック欠落」という失態を招いたのです。
この倒錯した風潮を招いたのは石破茂防衛相当時の責任回避と部下への責任転嫁と処分、更迭の結果だそうです。

ところで、防衛省-自衛隊の指揮命令系統に占める運用企画局長の位置づけを知りたいと思ったのですが、よく分かりませんでした。なお、現運用企画局長の徳地秀士氏は1979年東京大学法学部卒です。

運用企画局とは、2006年に以前の運用局から改組されたようです。
1998年8月にテポドン1号が発射されて日本上空を通過したとき、運用局がどのような位置づけだったのか、別の機会に報告します。
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3 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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危機管理能力 (星海風太)
2009-06-06 17:39:40
こんにちは!テポドンについては、個人的に恐怖感を持っていません。何故なら、意図的であろうと、偶然であろうと、日本の国土や韓国、北の友好国の中国やロシアにでさえ、もしテポドンが着弾したら、どうなることでしょう。世界中の殆どの国家は、想像を超える制裁を与えると思います。何のメリットもないやぶれかぶれの戦略です。軍事的な暴力の脅しでしか、国益の為の国際交渉のカードを持てない、北の権力者達は、もはや末期症状と言えます。核を一切放棄することで、彼らの未来の平和は、大幅に約束されることが、全く理解されていないようです。核を持たないキューバのフィデルは、この問題に対してどう考えているのでしょう。インタビューしてみたいですね。また、発射誤報の防衛省の対応のまずさにも、驚いてはいません。責任を取ることよりも、現実的な対策をとって欲しいと思います。2003年の手元資料によると、防衛費は、自衛隊と在日米軍を含めると、世界第3位の444億ドルでした。ちなみに、世界一の米国が、2947億ドル。北朝鮮は、20億ドルで、韓国が、125億ドル。キューバは7億ドルと概算されています。平和の代償は、これほど高くつくものなのか?私には、納得できない事実なのです。
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自衛隊の実力 (ボンゴレ)
2009-06-06 21:58:32
星海風太さん、こんにちは。

北朝鮮の現在の内部状況は窺い知ることができないので、「北朝鮮といえどもこんな損なことは絶対にやらないだろう」という見通しを立てることは困難でしょう。
ただし、日本を狙うとしたらテポドンではなくノドンですから、テポドンで騒いでも仕方ない点は同意です。

自衛隊の実力が投資した防衛費実績から推し量れるかどうかについて。
第1に、自衛隊の装備には相当のムダ遣いがあるように思います。
第2に、自衛隊の第一線部隊は別にして、防衛省内部の組織は「実際には戦争ができない組織」になっていると推測しています。
以上を考えると、日本の自衛隊を費用対効果で評価しようとしたらバカらしいことになるのではないでしょうか。
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自衛隊の士気 (星海風太)
2009-06-07 03:01:06
こんばんは!また、おじゃまします。自衛隊の装備の莫大な無駄や隊員の実戦能力については、おっしゃる通りですね。私も同じ疑念を持ちます。自衛隊は、そもそもマッカーサーが設立したはずです。当初は、警察予備隊と呼ばれました。設立理由は、朝鮮戦争でした。ここで、マッカーサーは、戦後の歴史に大問題を残す決断をしました。自ら草案させた新憲法の第9条、“戦争の放棄”に対する、矛盾した決断です。あくまで自衛目的の部隊とは言え、明らかな武装集団を準備させたほど、マッカーサーは、当時のソ連と中国の共産主義勢力の朝鮮半島拡大化に慌てたのでしょう。しかし、敗戦のショックと廃虚での生活で精一杯の日本人に、闘う力も気力も無かったはずです。私が思うに、マッカーサーは日本本土にも戦火が拡がる可能性に備えたのでしょう。戦争に負けたばかりの国民に、新憲法で武器を完全に放棄させたのに、また隣国の戦争の為に、武器をとれという命令は、士気を高めさせる思想が欠如しています。マッカーサー唯一の誤算が、朝鮮戦争と自衛隊の設立でした。後に大統領になったニクソンは、第9条はマッカーサーの失敗だったと声明を出しています。護憲派の私には、何を今更って感じですね!!
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