弁理士の日々

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上杉隆「官邸崩壊」(2)

2009-09-10 21:11:35 | 歴史・社会
前回に続き、上杉隆著「官邸崩壊 安倍政権迷走の一年」第2回です。

《官邸の能力》
官邸には、閣僚候補の「身体検査」手法を知っている人が皆無でした。
一番の責任者である井上秘書官がこの点で無能でした。秘書経験も浅く、また誰かに相談することもありません。安倍氏の古参議員たちもまだ準備ができていません。安倍氏の早すぎる首相就任がもたらした弊害でしょうか。
この点、小泉政権における飯島勲秘書官の能力と対比して大きな差がありました。

12月、安倍政権の支持率が急降下したのに対応するため、井上秘書官は一計を案じます。テレビ各局に電話を入れ、「今夕、安倍総理のスケジュールが空いた。生出演しても構わない。」と事実上の「放送命令」を出すのです。テレビ番組の編成をそう簡単に変えられるものではなく、当然のこととしてこの申し出は却下されました。


世耕氏と井上氏は、同じ広報担当ということで互いに張り合います。世耕氏と塩崎氏も、お互いが情報を秘匿しあい、個別に安倍首相に報告します。
連繋の取れていない世耕、塩崎、井上各氏がそれぞれ独自の情報を安倍首相にあげます。

従軍慰安婦問題を巡っての対応では、戦犯は他ならぬチーム安倍の広報担当補佐官である世耕氏だったのですね。
米下院で例年の如くホンダ議員が決議案を提出した際、日本の正しい対応は「無視する」ことでした。ところが官邸では、塩崎氏は日米衝突を避けようと模索していましたが、下村氏は「河野談話」の見直しを主張するのです。安倍氏は下村氏を選びました。
世耕氏がワシントンに向かいます。ところが日本の高官である世耕氏がワシントンで動き回ったため、新聞各社が動き始めてしまうのです。
そして3月1日、安倍首相が「強制制を裏付ける証拠はなかったのは事実」と語ってしまい、米国のマスコミと米議会は空気が一変します。

安倍官邸は「少年官邸団」と呼ばれるようになりました。

《官僚の力》
このように支持率が低迷する安倍政権を支えたのは、二人の官僚でした。外務次官の谷内氏と、警察庁長官の漆間巌氏です。

ところが、渡辺行革担当大臣が進める公務員制度改革に対し、漆間氏は猛烈に立ち向かいます。漆間警察庁長官が、渡辺氏の身辺を洗わせている、という噂が駆け巡りました。
そういえば漆間氏は、その後の麻生内閣で官房副長官に就任し、公務員制度改革の「内閣人事・行政管理局」の局長職を官房副長官級から政務官級に格下げしたり、西松建設問題で「自民党には波及しない」とオフレコで記者に語ったりした人物として記憶しています。

前回、フールファイブ(ウィキ)について書きましたが、フールファイブとは以下の5人の内閣総理大臣補佐官を指す、という話もあるようです。
小池百合子、根本匠、中山恭子、山谷えり子(小川惠里子)、世耕弘成


以上、上杉隆氏の「官邸崩壊!」を現時点で読んでみると、これから立ち上がる民主党鳩山政権が留意すべき点が浮かび上がってきます。

《国家戦略局は機能するか》
政策決定に必要な情報のほとんど総ては、霞が関が握っています。必要な情報が上がってこない限り、どのような機構を新設しても機能することはないでしょう。
安倍政権における「的場官房副長官(事務)」は、もし機能すれば官邸による霞が関の制御を可能にしたでしょうが、実際には機能しませんでした。霞が関が必要な情報を副長官に上げなかったからです。
民主党政権における国家戦略局については、安倍政権のこの轍を踏まないように制度設計して欲しいものです。そもそもそのような制度設計が可能なのかどうかもわかりませんが。

《官邸は機能するか》
官邸の情報対応、マスコミ対応が拙劣だと、安倍政権がそうであったように政権はマスコミの餌食になってしまいます。
安倍官邸の悪いところは、官邸団の中に目立ちたがり屋の国会議員がいたことです。官邸はあくまで黒子に徹し、首相を支えるべくお互いに団結しなければなりません。そのような人材を民主党政権は揃えることができるか、気になるところです。


ところで「官邸崩壊」の著者の上杉隆氏ですが、私は「世襲議員のからくり」、「ジャーナリズム崩壊 」、「民主党政権は日本をどう変えるのか」と今回の「官邸崩壊」を読んで知っているのみです。どうも調べてみると、上杉氏は週刊誌での発言が多いようですね。私は週刊誌を読まないものですから、そこでの上杉氏についてはよく知りません。しかし、上杉氏は週刊誌での記事でよく物議を醸しているようです。どのような人物なのか、ちょっと要注意ですね。

この本、発行日が2007年8月25日になっています。安倍首相の辞意表明が9月12日ですから、この本が発行された直後に辞意表明ということです。この本の出版が何らかの影響を与えたのでしょうか。

もう一つ、8月28日のニュースによると、「(民主党政権が)上杉隆氏を報道担当の首相秘書官か補佐官で起用する意向を固めた」とあります。さてこの話の現実味はどれほどあるのでしょうか。
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