弁理士の日々

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上杉隆「世襲議員のからくり」

2009-08-11 20:09:07 | 歴史・社会
数日前の地震、最初の余震から本震までの時間が長く、かつ本震が大きかったので(震度4)、「結構遠くで大きな地震があったな」と思ったのですが、結局震度4が最大でした。震源地が370kmと極めて深く、それが原因でした。
今朝の地震は東京で同じ震度4でしたが、恥ずかしながら気付かずに寝ていました。今回は震源が20kmと浅く、震源の近くでは大きな被害が出たようです。お見舞い申し上げます。

上杉隆氏の著作については、以前「ジャーナリズム崩壊 (幻冬舎新書)」について紹介したことがあります。マスコミの「記者クラブ制度」を批判した書物でした。

今回、同じ上杉隆氏の以下の本を読んでみました。
世襲議員のからくり (文春新書)
上杉 隆
文藝春秋

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私も以前から、国会議員の中に跋扈する世襲議員が、日本の政治を悪くしているのではないかと危惧していました。10年近く前に高校の後輩が民主党から立候補すると聞いたときも、「二世候補でないだけでも賞賛に値する」と考えてパーティー券を購入したものです。
“世襲議員はどのようなからくりで政治を悪くしているのか”という点についてあやふやな知識しかなかったのですが、今回、頭の中を整理することができました。

著書のあとがきによると、上杉氏は週刊文春の編集部と共に1年前からこの話題で取材を進めており、週刊文春誌上でもだいぶ記事になっているようです。昨今の世襲議員批判のブームも、上杉氏の功績が大きいかも知れません。

《地盤・看板・カバン》
世襲議員の強みは、「三バン」と呼ばれています。
・地盤=親から受け継いだ後援会組織
・看板=親の七光り
・カバン=親から無税で受け継いだ選挙資金

一応、“三バン”を全部受け継いだ議員が“世襲議員”、“三バン”のうち、少なくとも後援会組織は引き継いでいない候補を“二世議員”として区別するようです。

《地盤=親から受け継いだ後援会組織》
特に大きいのが、地盤=後援会組織と思います。
先代は、長い期間をかけて地元に後援会組織を育ててきています。先代が引退するに際し、後援会組織をどうするのか。後援会組織は、すでに組織として自己保存本能を有しています。組織としては、先代の子供が跡を継いでくれることが最もありがたいのです。
後継者が先代の秘書だったりすると、跡目争いや分裂が深刻になります。しかし先代の子供であると、納まりがよく、担ぎやすいのだそうです。

上記著書には福田康夫前総理の事例が紹介されています。
福田赳夫が政界を引退するとき、「後継は後援会で決めてくれ」と言います。まわりには、後援会顧問や秘書など、出馬してもおかしくない人物はいましたが、後援会の結論は「康夫がいい」ということでした。
「こうして、会社員なら総務部長止まりとも言われた福田康夫が、一国の首相を目指す道が開けたのだ。」

上杉氏の著書には書かれていませんが、親が作った後援会組織に担がれた世襲議員の最大の問題点は、「目的と手段の倒錯」と私は思っています。
本来、国会議員の目的は“良い政治を行うこと”であり、選挙で当選することはそのための手段に過ぎません。ところが世襲議員の場合、“次の選挙で当選すること”が後援会組織の目的となり、担がれている議員本人もそれに引きずられてしまいます。そのため、国会で行う自らの政治活動も、“次の選挙で当選すること”を目的とした手段に堕してしまうのではないか、というのが私の心配です。

《カバン=親から無税で受け継いだ選挙資金》
「政治家の世襲が行われるとき、驚くべきことに子どもは、その親の政治資金を非課税で相続できるのである。」
「政治資金管理団体を子供に相続させるには2つの方法がある。1つ目は、子供が新たな政治資金管理団体を作り、そこに資産を移す方法。それは、政治団体間の寄附なので課税はされない。
2つめは、政治資金管理団体をそのまま引き継ぐ方法。形式は違うが、いずれにせよ課税はされない。
特にこうした行為を禁止する規定がないため、そのままになっているのだという。たしかに阿部も福田も、その政治資金管理団体を親から無条件で『相続』している。」

2000年に小渕恵三元首相が急逝し、小渕優子氏が世襲しました。そのときの資金の流れが紹介されています。
恵三氏が死去したとき、恵三氏の資金管理団体には2億6千万円の残高がありました。このうち1億6千万円が寄附されます。そのうちの1億2千万円が、恵三氏関連の政治団体を経由して、最終的に優子氏の資金管理団体に無税で相続されているのです。

《看板=親の七光り》
これについては、私は大目に見ています。


先進諸外国と比較し、日本における二世議員(少なくとも看板を得ている)の占める比率は異常に高いようです。上記定義による“世襲議員”(三バンを全部世襲した議員)がどの程度かは不明ですが。
特に、閣僚級となると二世議員の比率はさらに増大します。

私は、二世議員が当選しやすくなる問題もさることながら、「二世議員の方が閣僚級に上り詰めるのが容易である」という現状により大きな問題があるように思います。
この点については、上杉氏の上記著書では明らかにされていません。
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