大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年11月24日 | 植物

<2877>  大和の花 (943) イチヤクソウ (一薬草)                      イチヤクソウ科 イチヤクソウ属

          

 林内の半日蔭になるような場所に生える常緑多年草で、葉が根元に集まってつき、根際から花茎を立てる。葉は長さが3センチから6センチの広楕円形で、先は尖らず、縁には細かい鋸歯が見られる。脈が目につき、やや波打つ。花期は6月から7月ごろで、葉の間から立つ花茎は淡緑色で、20センチほどになり、多いもので10個ほどの白色の花をつける。直径1.3センチほどの花冠は5裂し、雄しべは10個。雌しべは1個で、長く突き出し湾曲する。花は花柄を有し、下向きに開く。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国東北部に見られるという。大和(奈良県)では山足から標高1300メートル付近の山地でも見かけられ、標高が高くなるほど花が貧弱になる傾向がうかがえる。全草を薬草とし、一番よく効くとしてこの名がつけられたようで、漢方では全草を乾燥したものを鹿蹄草(ろくていそう)と呼び、煎じて脚気や利尿に用いられる。また、生葉の汁は切傷に効くという。  写真はイチヤクソウ。つぼみと花(平群町の生駒山系ほか)。  百舌鳴けり許容にありて天高し


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2019年11月23日 | 植物

<2876>  大和の花 (942) イヌビワ (犬枇杷)                                         クワ科 イチジク属

           

 暖地の山地や丘陵帯に生える落葉小高木で、よく枝を分け、高さが3メートルから5メートルほどになる。樹皮は灰褐色で、本年枝は無毛。葉は長さが8センチから20センチの卵状楕円形で、先は尖り、基部は心形に近く、縁に鋸歯はない。葉柄は長いもので5センチほどになり、互生する。

 雌雄異株で、花期は4月から5月ごろ。イチジクの仲間で、葉腋に直径9ミリ前後の球形の花嚢を1個ずつつける。花嚢は中に淡紅色の小花が多数詰まっている、雄花嚢には雄花と虫えい花が混在し、雌花嚢には雌花のみがある。雌雄とも花嚢はほぼ同等で、雄花嚢は基部が細長く伸びるので判別可能。雄花嚢の虫えいは花粉を媒介するイヌビワコバチによるもので、独特の共生関係にあることで知られる。熟すと黒紫色になる。

  本州の関東地方以西、四国、九州、沖縄に分布し、国外では韓国の済州島に見えるという。大和(奈良県)では暗温帯下部では全域で普通に見有れる。イヌビワ(犬枇杷)の名は花嚢がビワに似て食べられるが、食用に適さないつまらないものという認識による。

  なお、『万葉集』に登場を見る「ちちのみ」にイヌビワの説があり、定説になっている。これは花嚢が乳首に似て乳汁を出すことによるからで、歌には父にかかる枕詞として用いられている。変哲もない木であるが、万葉植物である。また、イヌビワは古くから利用されていたようで、材を裂いて籠に編んだものが縄文時代の遺跡から出土している。 写真はイヌビワ(吉野山ほか)。繁る樹形の若い個体と花嚢の色々(左から4月の雌花嚢、6月の雄花嚢、11月の雌果嚢)。  冬来たる動じぬものを思ふなり

 


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2019年11月20日 | 植物

<2873>  大和の花 (939) クワガタソウ (鍬形草)                    ゴマノハグサ科 クワガタソウ属

             

 山地の半日蔭になるところに生える多年草で、草丈は15センチから30センチほどになる。葉は上部のものが大きい特徴があり、大きいもので5センチ前後の卵形または長卵形で、先が鈍く尖り、基部はくさび形になる。縁には鋸歯が見られ、葉面にはわずかな毛があり、有柄で、対生する。

 花期は5月から6月ごろで、上部の葉腋から花序を出し、1個から5個の花をつける。花冠は4裂し、基部が合着して開花すると直径1センチ前後になる。淡紅紫色に紅紫色の条がはいるものが普通であるが、個体によって微妙な濃淡の差が見られる。蒴果の実は扁平な三角状扇形で、クワガタソウ(鍬形草)の名はこの実と萼片による形が兜の鍬形に似ることによるという。

 本州の太平洋側に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では金剛山をはじめ紀伊山地で見かけるが、標高1500メートル以上では大台ヶ原山がある。クワガタソウに似るコクワガタ(小鍬形)は全体に小さく、葉の鋸歯が低い違いが見られ、大和(奈良県)でも見られるが、判別が難しい。三峰山で出会った個体は全体に小さく、鋸歯の形などからコクワガタと見た。コクワガタも日本固有種である。 写真はクワガタソウ(左・金剛山、中・大台ヶ原山)とコクワガタ(右・三峰山)。  欠礼の葉書が届く百舌鳴けり

<2874>  大和の花 (940) カワヂシャ (川萵苣)                       ゴマノハグサ科 クワガタソウ属

            

 田の畦や川筋、溝などの湿地に生える2年草で、草丈は10センチから50センチほどになる。茎や葉は無毛で軟らかい。葉は長さが4センチから8センチの披針形乃至は長楕円状披針形で、葉面が波打ち、縁には尖った鋸歯が見られ、茎を抱いて対生する。

 花期は4月から6月ごろで、葉腋に長さが5センチから15センチの総状花序を出し、直径3、4ミリの小さな花を多数つける。花は白色で、淡紅紫色の条が入り、4裂して皿状に開く。蒴果の実は長さが3ミリほどの球形で、先がわずかに凹む。

 本州、四国、九州、沖縄に分布し、朝鮮半島、中国、インド、ネパール、タイ、パキスタン、ラオス、べトナムなどに見られるという。日本国内では帰化植物のオオカワヂシャ(大川萵苣)の繁殖が著しく、在来のカワヂシャが減少し、大和(奈良県)でもその傾向にあり、レッドリストには希少種として名を連ねている。カワヂシャ(川萵苣)の名は川べりに生えるチシャ(レタス)の意で、若葉は食用にされる。 写真はカワヂシャ(大和民俗公園の湿田)。   撮り貯めし花の写真と冬の室

<2875>  大和の花 (941) オオカワヂシャ (大川萵苣)     ゴマノハグサ科 クワガタソウ属

             

 ヨーロッパからアジアにかけて、広い範囲が原産地とされている多年草で、日本では関東地方以西に帰化している。カワヂシャと同じく、川筋や溝、池辺などの湿地に生え、繁殖している。大和(奈良県)でもそこここの湿地に生え出し、在来のカワヂシャを圧倒しているのが見られる。この勢いは害を及ぼすとして特定外来生物にあげられ、駆除の対象になっている。

   カワヂシャよりも全体に大きく、高さは大きいもので1メートルほどになり、茎や葉はカワヂシャと同じく軟らかい。葉は長楕円形から披針形までさまざまで、縁には細かい鋸歯が見られ、無柄で対生する。花期は4月から7月ごろで、葉腋に穂状の花序を出し、直径数ミリの淡紫色から白色の小さな花を多数つける。花冠には濃い紫色の条が入り、4深裂し、皿状に開く。蒴果の実は直径3ミリほどの球形で、先がやや凹み、花柱が残る。写真はオオカワヂシャ(吉野町の吉野川河川敷ほか)。 時雨るるか友の恋歌ありし日の

 

 


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2019年11月18日 | 植物

<2871>  大和の花 (937) アオツヅラフジ (青葛藤)                ツヅラフジ科 アオツヅラフジ属

                

 山野の林縁や道端などに生える落葉つる性の木本で、他物につるを巻きつけて伸びる。枝には淡黄褐色の毛が生え、つるは右巻きになる。葉は長さが3センチから12センチの広卵形であるが、変化があり、ときに浅く3裂するものも見られる。先はやや尖り、縁に鋸歯はなく、両面とも毛が生える。長い柄を有し互生する。

 雌雄異株で、花期は7月から8月ごろ。枝先と葉腋に小さな花序を出し、直径数ミリの小さな黄白色の花をつける。花弁と萼片は6個。雄花では雄しべが6個、雌花では雌しべが6個と仮雄しべが6個ある。核果の実は直径6、7ミリの球形で、粉白を帯びて濃青色になり、房状につくことが多い。核はイモムシが丸まった形になる。

 北海道、本州(関東地方以西)、四国、九州、沖縄に分布し、朝鮮半島、中国南部、フィリピン等に見られるという。大和(奈良県)では道端や林縁などでよく見られる。アルカロイドを含む有毒植物であるが、つるや根を木防已(もくぼうい)と称し、漢方では利尿の薬用とされる。

 また、つるの材は丈夫で、買い物かごや背負い籠を作るのに用いられ、用途が多く、カミエビ(神葡萄)の別称でも知られる。『万葉集』に見える「はまつづら」に本種またはハスノハカズラの説がある。エビはエビヅル(葡萄蔓)に因む。 写真は左から雄花をつけたつるの枝、花にはアリの姿、房状につき、熟した実。       柚子稔る机上に一顆を置いてみる

<2872>  大和の花 (938) ハスノハカズラ (蓮葉葛)                   ツヅラフジ科 ハスノハカズラ属

                   

 海岸沿いの産地に多い常緑つる性の木本で、地表を這ったり、他物に絡んで崖地などを被い尽くして生える。葉は互生し、長さが5センチから12センチほどの三角状卵心形で、先は鈍く尖り、縁に鋸歯はなく、裏面はやや白色を帯びる。長い葉柄を有し、ハスの葉のように葉身へ楯状につく特徴があり、和名に繋がった。

 雌雄異株で、花期は7月から9月ごろ。葉腋の花序に淡緑色の小さな花を多数総状にびっしりつける。花弁は3、4個。雄花の雄しべは6個で、花糸も葯も合着して、円盤状になる。雌花の雌しべは1個。核果の実は直径6ミリほどの球形で、11月ごろ赤く熟す。

 本州の東海地方以西、四国、九州、沖縄に分布し、台湾から東南アジア一帯に見られるという暖地性である。大和(奈良県)は海に面していないが、南端部の十津川村では熊野川水系の北山川の渓谷筋で見受けられる。

『万葉集』に見える「はまつづら」に本種の説があり、万葉植物として捉えられている。「駿河の海磯辺に生ふる浜つづら汝(いまし)をたのみ母に違ひぬ」(巻14-3359)とある。 写真はハスノハカズラ(十津川村の南端部)。雄花の花序が見える雄株のつる(左)、雄花のアップ(中)、熟し始めの核果(右)。    柚子の実の黄に照らされて我が齢

 


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2019年11月17日 | 写詩・写歌・写俳

<2870>  余聞、余話  「冬鳥の飛来」

     また一団西日を受けて鴨来たる

 このところ寒くなり、北国では雪の報。この時期になると、大和地方には冬鳥の飛来が見られ、奈良盆地の一角にある馬見丘陵公園の溜池もカモたち冬鳥でにぎやかになる。一団は立冬前に来て珍客トモエガモがマガモに混じって泳いでいたが、このところの冷え込みで、今度はカンムリカイツブリの珍客がやって来た。見えていると、カイツブリと同じく、よく潜る。首が長く、頭に冠状の黒い毛が生えているので一見してわかる。カモとは別行動を取っているようで、池の端から端まで潜りながら移動している。

         

  渡りの長旅をして来るカモたちは、どうも日が落ちるまでに目的地に着くようにしているのだろう。この間は二十羽ほどが、夕方前西日を受けながらやって来た。安全を確かめているのだろう。池の上空を三、四回飛び回った後、連なる園地の上下二つの池に分かれて着水した。「いらっしゃい」という感じ。無事であったから来られたということではある。 写真は珍客カンムリカイツブリ(左)、西日を受けて飛来するカモたち(右)。では、やって来たカモたちに寄せていま一句。  いらっしゃい無事が何より鴨来たる