大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年11月12日 | 植物

2865>  大和の花 (932) ヤマウルシ (山漆)                                    ウルシ科 ウルシ属

                               

 山地や丘陵に生える落葉小高木で、高さは3メートルから8メートルほどになる。樹皮は灰白色で、縦に褐色の条が入る。葉は長さが20センチから40センチの奇数羽状複葉で、卵形または楕円形の小葉が4対から8対つく。葉軸は軟網が密生し、赤褐色を帯びる。葉は互生し、枝の先に集まって傘状になる。

 雌雄異株で、花期は5月から6月ごろ。上部の葉腋から円錐花序を出し、黄緑色の小さな花を多数密につける。花序は長さが15センチから20センチほどになり、花序軸には粗い毛が密生する。花弁は5個で、長さが2ミリほどの長楕円形。雄花の花弁は反り返り、雄しべは花の外につき出る。雌花の花柱は花の外につき出し、柱頭が3裂する。核果の実は直径数ミリの扁球形で、秋に黄褐色に熟す。剛毛(刺毛)に被われた外果皮は剥がれやすく、剥がれると縦条のある白い蠟質の中果皮が現れる。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、南千島、朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では全域的に自生し、普通に見られる。ヤマハゼ(山黄櫨)やハゼノキ(黄櫨)によく似るが、葉が太めで、実に剛毛があるので区別出来る。樹液に触れるとかぶれるので注意が必要。その名は山に生えるウルシ(漆)の意によるが、樹液は少量であるため、利用されていない。  写真はヤマウルシ。花期の姿(雄花群・左)と果序いっぱいについた核果の実(剛毛が見える・右)。 

  齢とは常に身に添ひ身に負ひてゆかねばならぬ生の原則

 

<2866>  大和の花 (933) ハゼノキ (黄櫨)                                            ウルシ科 ウルシ属

                                                        

 山野に生える落葉高木で、高さは7メートルから10メートルほどになる。樹皮は灰褐色から暗赤色で、滑らかであるが、老木になると縦に細かな裂け目が出来る。枝は灰褐色から赤褐色で、突出した小さな皮目がある。葉は枝の上部に集まり互生し、長さが20センチから30センチの奇数羽状複葉で、4対から8対の小葉がつく。小葉は長さが大きいもので12センチほどの広披針形乃至は狹長楕円形で、先が長く尖り、縁に鋸歯はなく、裏面は粉白色となり、秋にはみごとな紅葉を見せる。

 雌雄異株で、花期は5月から6月ごろ。葉腋に長さが5センチから20センチの円錐花序を出し、黄緑色の小さな花を多数つける。花弁は5個で、反り返る。核果の実は直径1センチ前後の扁球形で、秋になると淡褐色に熟す。外果皮に剛毛はなく、剥がれると、縦に条のある白い蠟質の中果皮が現れる。実からはが採れるので、古くから栽培されて来た。

 本州の関東地方南部以西、小笠原諸島、四国、九州、琉球列島に分布し、リュウキュウハゼ(琉球黄櫨)の別名でも知られ、国外では韓国の済州島、中国、台湾、マレーシア、東南アジアなどに見られ、日本のものは、栽培されていたものが、野生化した可能性もあると言われる。山地に生えるヤマハゼに酷似するが、本種には葉や葉軸、冬芽などに毛がないので区別出来る。

 なお、ハゼの名は古名のハジから来ていると言われ、ハジはヤマウルシやヤマハゼを指した名で、『万葉集』に弓材として見えるハジ(梔)はヤマハゼ(山黄櫨)と目されている。実の蠟は和蠟燭の原料にされ、現在は軟膏に用いられているという。黄色を帯びる材は器具や細工ものにされる。 写真はハゼノキ。紅葉した個体(左)、紅葉と実(右)。

    悲喜苦楽の諸相にありて息づける命の仕儀を生とは言へる

 

<2867>  大和の花 (934) ヌルデ (白膠木)                                     ウルシ科 ウルシ属

           

 山野に生える落葉小高木で、高さは5メートルから10メートルほどになる。樹皮は灰褐色。葉は長さが30センチから60センチの奇数羽状複葉で、互生し、葉軸に翼があり、他種との判別が出来る。小葉は3対から6対つき、長さが5センチから12センチの長楕円形乃至は卵状長楕円形で、先が鋭く尖り、基部はくさび形か円形。縁には粗い鈍鋸歯が見られる。葉の紅葉には定評がある。

 雌雄異株で、花期は8月から9月ごろ。枝の上部に円錐花序を出し、淡黄白色の小さな花を多数つける。花序の長さは15センチから30センチで、花序軸には淡褐色の毛が密生する。花弁は5個あり、雄花では反り返り、雄しべが長く突出する。雌花では反り返らない。核果の実は直径4ミリほどの扁球形で、秋から冬にかけて熟し、外果皮には茶褐色の細毛が密生する。

 北海道、本州、四国、九州、沖縄に分布し、朝鮮半島、中国、台湾、インドなどに見られるという。大和(奈良県)では全域で普通に見られる。ヌルデ(白膠木)の名は白い樹液を器具などに塗ったことによるという。ほかにも諸説がうかがえ、別名、地方名が多く、これはヌルデが昔より身近にあって親しまれたからであろう。古名はカヅノキで、『万葉集』等に登場を見る。所謂、万葉植物である。

 このカヅノキについては『日本書紀』の崇峻天皇紀に蘇我馬子が物部守屋と戦ったとき、馬子軍の厩戸皇子(聖徳太子)が白膠木(農利泥・ぬりで)の木を四天王像の象に削って采配を作り、これを頂髪に置いて戦ったところ、勝利することが出来たとある。これによってヌルデ(白膠木)を勝利の木とし、カツノキ、サイハイノキと呼ぶようになり、このカツノキが転じてカヅノキになったという。また、ヌルデの木を男根に削って門口に立てる祭りがあり、この門の木からカヅノキの名が生まれたとも考えられている。

 葉にはヌルデシロアブラムシの仲間が寄生し、これを五倍子(ふし)と言い、タンニンを含み、五倍子(ごばいし)の生薬名で知られ、歯痛や切り傷、腫れ物に粉末を、下痢や咳止めに煎汁を用いる。薬用のほかには、染料やインクに利用される。昔、お歯黒にしたことはよく知られるところである。材は軽くて軟らかく、細工物、下駄、シイタケの榾木などにされる。 写真はヌルデ。左から花期の姿、雄花がいっぱいの花序のアップ、青空に映える紅葉、垂れ下がる果序。

  命より命は継がるそのほかにあらずこの世の生の展開

 

<2868>  大和の花 (935) ツタウルシ (蔦漆)                                          ウルシ科 ウルシ属

               

 山地の落葉樹林内に生える落葉つる性の木本で、つるから気根を出し、他の樹木の幹に這い上がり、日当たりのあるところで枝を広げる。樹皮は黒褐色で、新枝には褐色の毛が密生する。葉は3出複葉で、小葉は長さが3センチから15センチの卵形乃至は楕円形で、先は尖り、成木では鋸歯がないが、幼木では粗い鋸歯が見られる。

 雌雄異株で、花期は5月から6月ごろ。葉腋から総状花序を出し、淡黄緑色の小さな花を多数つける。花序の長さは3センチから5センチ程度。5個の花弁を有し、花弁は長楕円形で、雌雄とも反り返り、雄花の雄しべ5個は長く突き出る。雌花には3裂する花柱がある。核果の実は直径数ミリの扁球形で、8月から9月ごろ黄褐色に熟す。その後、外果皮が剥がれ、白い蠟質の中果皮が現れる。

 北海道、本州、四国、九州に分布し、南千島、サハリン、朝鮮半島、中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)では、暖温帯域から寒温帯域まで、人工林・自然林の別なく、登山道などで、普通に出会えるが、紅葉が美しいので秋になるとよく目を引く。大台ヶ原を歩くとよく見られる。

その名はツタに似たウルシの意による。ウルシ属の中で3出複葉は本種だけで、わかりやすい。ウルシ科の特徴で、葉にラッコ―ルというウルシ成分を含み、触れるとかぶれるので注意が必要。(『奈良県樹木分布誌』森本範正著)は、本種について「かぶれやすいということで、この植物の標本をとる人が少ないようである」と言っている。  写真はツタウルシ。左から雄しべが花から突き出る雄花、8月の若い実、秋の熟した実、真っ赤に色づいた紅葉(いずれも大台ヶ原山)。

  我といふ一個の個体ここにあり大大宇宙の微粒の微粒子

 

<2869>  大和の花 (936) ヤマハゼ (山黄櫨)                                    ウルシ科 ウルシ属

          

 山地や丘陵に生える落葉小高木で、高さは5メートルから8メートルほどになる。樹皮は褐色で、赤褐色の皮目が目立つ。老木では縦に剥がれる。新枝には多数の隆起条がある。葉は長さが20センチから40センチの奇数羽状複葉で、4対から6対の小葉がつく。小葉は4センチから13センチほどの卵状長楕円形で、先は尖り、縁には鋸歯がなく、裏面は緑白色。

 雌雄異株で、花期は5月から6月ごろ。葉腋に長さが8センチから15センチの円錐花序を出し、黄緑色の小さな花を多数つける。花弁は5個で、雄花の花弁は反り返り、雄しべは花の外に突き出る。雌花は柱頭が3裂する。核果の実は、直径7、8ミリの扁球形で、秋から冬にかけて黄褐色に熟す。実には毛がない。

 本州の関東地方以西、四国、九州、沖縄に分布し、朝鮮半島、中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)では中・北部で普通に見られる。「ハゼノキに似ているが、ハゼノキがほとんど無毛であるのに対し、ヤマハゼは葉柄、葉軸、葉裏、冬芽に毛が多い」違いがある。『万葉集』に弓材として登場する「はじ」はヤマハゼだと言われる。材は器具、寄木細工、染料等に用いられて来た。 写真はヤマハゼ。雄花序のアップ(左)、多数の実をつけた果序のアップ(中)、紅葉(右)。

 毀誉の旅褒貶の身にあるとして果たして我に我の人生