大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2020年10月30日 | 写詩・写歌・写俳

<3213>  余聞 余話 「第71回奈良県美術展覧会」に寄せて

  第71回奈良県美術展(奈良県展)が二十九日(木)に奈良市の県文化会館で始まり(十一月一日まで)、鑑賞に出かけてみた。展示作品は公募による作品のほか審査員、参与、招待者、無鑑査等合わせて、日本画48点、洋画136点、彫刻34点、工芸62点、書芸123点、写真104点が例年通り部門ごと展示されていた。

 各部門の最高賞である県展賞は次の通り。

▷ 日本画 「川 2020.5-2」 神先智子 (審査員評: 写実性と抽象性は、そのバランスが大切であり、難しい表現上の問題を孕んでいる。箔の仕事、その下の岩絵具の仕事を生かし、見事にそれを解決した魅力ある作品である)。

▷ 洋画 「ガラスの中の風景(梅田)」 井上麻菜 (審査員評: 日常のさりげないビルの一隅を造形としてトリミングし、作品に仕立てています。ガラスの質感を良く表現し、都市の印象を交錯させています。今一つ、欲を言えば手前の空間をやや、暗く表現すれば、より一層、外のテーマである反射した世界が際立つのではないだろうか)。

         

▷ 彫刻 「台地の家」 豊永秀男 (審査員評: 固い素材を使って雄大な台地がうまく表現されています。カッティングの大胆さが繊細な造形をひきたたせています。昨年に続いての県展賞です。今後の作品にも期待します)。

▷ 工芸 「冬の音」 堀野嘉子 (審査員評: おおらかな造形性と器面の繊細なレリーフ状の表現とが力強く、存在感のある作品に仕上がっています。また、陶芸の特性でもある土の面白さも充分に生かされた秀れた作品です)。

            

▷ 書芸 「百人一首」 片岡尚子 (審査員評: 百人一首を一つの作品によくまとめている。似た作品の多い中、安定した美しさが目にとまった。まず、全体の流れが美しい。墨の潤渇も自然にうまれ、何か見てホッとするものを感じます。中央にもう少しの暢(の)びやかさが欲しいとも思います)。

▷ 写真 「凛とした朝」  金池良通 ( 審査員評: 凛とした冬の朱雀門の写真です。手前の色づいた草の色も良く、降霜の朝の冷たさ、太陽の暖かさも伝わり、雄大な写真になっております。歴史的な時の流れも表現されており、県展賞に相応しい作品です。大きくするとより強い作品になるでしょう )。

 新型コロナウイルス禍の状況にあり、訪れた鑑賞者はみなマスク姿であったのが印象的だった。  写真は県展賞の作品。上段左から日本画、洋画、工芸、書芸(部分)、写真。下段左は彫刻、右は鑑賞する人たち。

   絵にも見ゆ明るきものと暗きもの公募展なる一つの世界

 [追記] 県展の公募展を見て思うのであるが、会期が非常に短く、作品の鑑賞がごく限られたものになっている感がある。それでも県展の権威は応募者にとって一つの励みで、例年多くの作品が出される。優れた作品には賞が贈られて顕彰され、応募者には県展の権威によるこの賞が励みになり、賞に与ることが一つの希望のようになっているところがうかがえる。

 しかし、その作品自身はほんのわずかな期間お披露目されるのみで終わる。展覧会とはそうしたものであるが、展示された作品群を拝見するに、これではもったいない気がする。そこで思われるのであるが、各部門で入賞を果たした作品を一般人がよく訪れる公共施設、例えば、病院とか会館のようなところに一年間展示し、次期県展の作品と入れ替えるようにすれば、県展の幅も広がり、作品ももっと意義あるものになり、応募者の励みも増すことになる。いかがであろうか。

 また、思うに、一つの区切りに入選作品の回顧展を開くのも、県展の歩みや奈良県の一般に普及している文化の変遷を辿る意味においても意義あるものとしてみなせる。作品の紛失などが考えられるが、全部揃わなくても、美術による時代の変遷をうかがうことが出来よう。県展の歴史を辿る時代の作品群による回顧展はこうした意味において意義あるものと思える。

 


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