大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2018年03月01日 | 植物

<2253> 大和の花 (450) マンサク (満作)                                         マンサク科 マンサク属

                          

 山地のやや乾燥気味の斜面や尾根筋に生える落葉小高木または低木で、高さは普通2メートルから5メートルほどになる。樹皮は灰色。枝は灰褐色で、皮目が目立つ。葉は長さが5センチから10センチほどの菱状円形乃至は広卵状円形で、左右不相称。基部は少し歪む。先は鈍く尖り、縁には波状の鋸歯が見られ、側脈は6対から8対。葉柄は1センチ前後で、互生する。

 花期は3月から4月ごろで、山岳や渓間に残雪が見られ、風が冷たい早春のころタムシバやバッコヤナギなどとともにいち早く花を見せる。花は前年枝の葉腋から出た柄の先に数個が集まってつく。黄色い花弁は4個。長さが2センチほどの線形で、リボンの紐のように見える。萼片も4個で、赤紫色になることが多い。雄しべも4個で、目立たない仮雄しべも4個という4数性の花の形態的特徴が見られる。蒴果の実は直径1センチほどの卵球形で、褐色の短毛を密生し、熟すと裂けて、黒い光沢のある長楕円形の種子を現わす。

 本州の太平洋側、四国、九州に分布する日本固有の植物で、日本海側に多いマルバマンサク(丸葉満作)と分布域を分ける。大和(奈良県)では紀伊山地でよく見られ、垂直分布では山間の低地から標高1500メートル以上の山岳高所まで見られるが、高所では地勢の関係か、花の少ない個体が目につく。植栽も多く、中には花期にも枯れた葉が枝に残る中国原産のシナマンサク(支那満作)なども見られる。

 なお、マンサク(満作)の名は東北地方の方言「まんず咲く」による説と、マンサクの花がいっぱい咲くことからこの花に豊年満作をイメージしたことによる説があるが、両方が合体してなった名であろう。 写真はマンサク。左から枝木いっぱいに黄色い花を咲かせる個体、花のアップ(天川村北角)、枯れた葉が残る枝木に花を咲かせたシナマンサク(植栽)。  秘めてゐる力の証 芽吹ける芽

<2254> 大和の花 (451) コウヤミズキ (高野水木)                                    マンサク科 トサミズキ属

              

 山地の少し乾燥気味の斜面などに生える落葉低木で、高さは2メートルから5メートルほどになる。樹皮は灰褐色で、若い枝もほぼ同色。葉は長さが6センチから12センチの卵円形で、先は鈍く尖り、基部は心形。縁には浅い鋸歯が見られる。裏面はやや白っぽく、側脈が目につく。

 花期は3月から4月で、葉が展開する前に開花を見るのはトサミズキ(土佐水木)やヒュウガミズキ(日向水木)などの他種と同じ。細い枝ごとに長さが3センチから4センチの花序を垂れ下げ、黄色の花が4、5個つき、下向きに開く。花は長さが1センチほど、雄しべの葯が暗赤色で、花序軸や萼に毛がない特徴が見られ、他種との判別点になる。蒴果の実は直径1センチ弱の広倒卵形で、花柱が角状になって残る。

 本州の中部地方以西、四国、九州に隔離分布する日本固有の植物で、高野山(和歌山県)周辺に多く見られることによりこの名がある。大和(奈良県)では高野山に近い奥高野に当たる野迫川村北部地域一箇所に限られ、山地の林縁などに自生している。個体数が少なく、奈良県では希少種にあげられている。 写真はコウヤミズキ。葉の展開前に黄色い花を咲かせ、雑木林に春を告げる(左)、花を連ねる枝木(中)、花序と花のアップ(右・花序軸や萼に毛がなく、暗赤色の葯が目につく)。 春一番果して春を呼ぶ嵐

<2255> 大和の花 (452) キリシマミズキ (霧島水木)                           マンサク科 トサミズキ属

              

 暖温帯上部から冷温帯の渓谷の岩場や河原などに生える落葉低木で、高さは2メートルから3メートルほどになる。樹皮は灰褐色で、新枝には皮目が多い。葉は長さが3センチから6センチの卵円形で、先は鈍く尖り、基部は浅い心形。縁には歯牙状の鋸歯があり、側脈がはっきりし、裏面は白色を帯びて、コウヤミズキの葉に似る。

 花期は4月で、葉の展開前に開花する。花序は長さが3、4センチで、黄色の花が5個から9個つき、下向きに咲く。トサミズキと違い、花序軸には毛がない。また、コウヤミズキとは成熟した雄しべの葯の色が異なり、コウヤミズキでは暗赤色に対し、本種では黄色になる。蒴果の実は直径7ミリほどの広倒卵形で、2個の花柱が角状に宿存する。

 本州の中部地方(木曽川上流域)、紀伊山地(大峰山地)、四国(四国カルスト)、九州(霧島山地)に隔離分布する日本固有の植物で、個体数が少なく、環境省は準絶滅危惧種に、奈良県でも希少種としてあげている。大峰山地の分布を見ると、その分布域は主に十津川の最上流部に当たっている。五條市大塔町で分岐して西の支流中原川の源流部野迫川村の奥高野の山域にコウヤミズキが見られ、東の支流天ノ川の上流、川迫川の源流部に当たる天川村の大峰山地にキリシマミズキの自生地が分布している。まことに不思議であるが、十津川の川筋を隔てて西にコウヤミズキ、東にキリシマミズキの分布域があり、混生していない。

 写真はキリシマミズキ。春を告げて咲く個体(左)、黄色い花を連ねた枝(中)、花序のアップ(右・葯が黄色い特徴がある)。ここでトサミズキ、ヒュウガミズキ、コウヤミズキ、キリシマミズキの花序の写真から4種の違いを見てみたいと思う。   春よ春下戸に一言桜餅

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 以上4枚の写真は左からトサミズキ、コウヤミズキ、キリシマミズキ、ヒュウガミズキの花序と花。トサミズキは花序軸に毛が密生し、雄しべの葯は暗赤色。コウヤミズキは花序軸に毛がなく、雄しべの葯は暗赤色。キリシマミズキは花序軸に毛がなく、雄しべの葯は黄色。ただし、これは葯が成熟しているときの姿で、時が経ち、花粉を放出した後の花では適用出来ない点も考慮に入れる必要がある。ヒュウガミズキは花序が短く、花数が他種の半分以下で、1個から3個と少ない。なお、トサミズキとヒュウガミズキは公園などでよく見かけるが、すべてが植栽起源で、大和(奈良県)に自生地は見受けない。 

<2256> 大和の花 (453) イスノキ (柞・蚊母樹)                                マンサク科 イスノキ属

           

 暖地の林内に生える常緑高木で、高さは大きいもので20メートルほどになる。樹皮は灰白色で、老木になると、うろこ状に剥がれるようになる。葉は長さが4センチから10センチ弱の長楕円形で、先は鈍く尖り、基部はややくさび形。縁には鋸歯がなく、革質で、表面は滑らか。葉柄は長さが1センチもな短いもので、互生する。

 雌雄同株で、花期は4月から5月ごろ。葉腋に雌雄雑居の花序を出し、上部に両性花、下部に雄花がつく。雌雄とも花弁はなく、両性花では発達した雌しべの柱頭2個が角のように伸び、実になってからも残る。雄しべは5個から8個がつき、紅色の葯が印象的で目につく。雄花は雌しべが退化している。蒴果の実は長さが1センチ弱の広卵形で、黄褐色の毛に被われ、熟すと2つに裂けて、黒い楕円形の種子が現われる。

 本州の静岡県以西、四国、九州、沖縄に分布し、済州島、中国、台湾でも見られるという。大和(奈良県)に野生するかどうか承知しないが、大和高田市三和町の天神社の境内に見られる。植栽起源と思われるが、神木として大切にされ、由緒のある木なので採り上げた。4月17日に行なわれるおんだ祭りのころちょうど花盛りを迎える。

 イスノキの名は古名ユシから転じてユス、ユスノキになり、これがイス、イスノキになったと言われるが、語源については定かでなく、漢字表記の柞及び蚊母樹についてもはっきりしていない。材は堅く緻密で、拭くと光沢が出るので柱、楽器、器具、木刀などに用いられ、殊に櫛に使用されたことにより、古くはクシノキ(櫛の木)の名でも呼ばれた。

  また、この木には、ヌルデ(白膠木)のフシ(五倍子)と同じく、アブラムシの仲間によって葉に虫癭(ちゅうえい)が作られ、この虫癭はタンニンを含み、これによって黒色染料に用いられて来た。この虫癭は虫が出て空洞になることが多く、この空洞になった虫癭の孔に口を当てて吹くと、ひょんひょんと鳴るので、ヒョンノキとも呼ばれて来た。 写真はイスノキ。左から枝木いっぱいに咲く紅色の花、花序のアップ、虫癭(虫瘤)、裂けて種子を散出した後の蒴果(ともに大和高田市三和町の天神社境内)。   朧夜や猫の傍ら三輪車

 

 

 

 

 


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