大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2019年09月20日 | 植物

<2813> 大和の花 (896) ゴンズイ (権萃)                                    ミツバウツギ科 ゴンズイ属

                                 

 日当たりのよいやや乾燥した二次林の林縁などに生える落葉小高木で、高さは3メートルから8メートルほどになる。樹皮は若木で灰褐色。老木になると黒褐色になり、縦に白く細かい条が入る。葉は長さが10センチから30センチの奇数羽状複葉で、5個から11個の小葉がつき、長い柄を有して互生する。小葉は長さが5センチから9センチの狹卵形で、側小葉が頂小葉よりやや大きく、先が尖る。縁には芒状の鋸歯が見られ、表面はやや光沢のある濃緑色で、裏面には脈上に毛が生える。

 花期は5月から6月ごろで、本年枝の先に長さが15センチから20センチの円錐花序を出し、黄緑色の小さな花を多数つける。花は花弁、萼片、雄しべ各5個、雌しべは1個で、柱頭が3裂する。花弁も萼片もほぼ同等で、ともに平開しない。袋果の実は長さが1センチほどの半円形で、秋になると鮮やかな赤色に熟し、裂開して黒い光沢のある種子を1、2個露わにする。赤色の果皮と黒色の種子がよく目につく。

 本州の関東地方以西、四国、九州、琉球列島に分布し、国外では朝鮮半島、中国、台湾に見られるという。大和(奈良県)ではほぼ全域的に見られるが、どちらかと言えば、暖地性で、標高のたかいところでは見かけないようである。

   ゴンズイ(権萃)とは奇妙な名であるが、一説に材の異臭により利用価値がないことから同じく役に立たない海水魚のゴンズイの名を借用してつけられたという。別名のショウベンノキ(小便の木)は春先に枝を切ると、樹液が溢れ出ることによるという。若芽は山菜として救荒のため用いられて来た経歴がある。 写真はゴンズイ。花(左)と実(右)。    虫の声なぜか宇宙が思はるる

<2814> 大和の花 (897) ヤブサンザシ (薮山櫨子)                              ユキノシタ科 スグリ属

             

 日当たりのよい山野に生える落葉低木で、株立ちし、高さが1メートル前後になる。樹皮は紫褐色で、縦に裂けてはがれる特徴がある。若枝は灰白色で、はじめ軟毛が密生するが、その後無毛となる。葉は長さが2センチから6センチの広卵形で、掌状に浅く3裂から5裂し、基部は切形乃至は浅い心形。裂片の縁には欠刻状の浅い鋸歯が見られる。質は薄く、両面に短い軟毛が生える。葉柄は長さが3センチほどで、互生する。

 雌雄異株で、花期は4月から5月ごろ。前年枝の葉腋に黄緑色の小さな花を1個から数個つける。花は花弁、萼片、雄しべ各5個。花弁は小さく直立して目立たず、萼片が平開して反り返り花弁のように見える。雌花にも雄しべはあるが、小さく稔性はない。雌しべは1個で、花柱は短く、柱頭が2裂して皿状になる。液果の実は直径8ミリほどの球形で、秋から冬にかけて赤く熟す。

 本州、四国、九州に分布し、国外では朝鮮半島、中国に見られるという。大和(奈良県)では自生の状況が定かでなく、『大切にしたい奈良県の野生動植物』(2016年改訂版)は「奈良市、五條市西吉野町、平群町、黒滝村などで、野生株が見つかっているが、本種は花木として栽培されるので、現時点では自生か逸出かの判断は難しい」とし、情報不足種にあげている。  写真はヤブサンザシ(いずれも雌花。天理市の山の辺の道付近。自生か植栽起源かはっきりしない)。 虫もまた地球生命鳴いてゐる

<2815> 大和の花 (898) ヤシャビシャク (夜叉柄杓)                            ユキノシタ科 スグリ属

         

 ブナなど深山の樹上に着生する落葉小低木で、長さが50センチから1メートルほどになる。葉は直径3センチから5センチの腎円形または5角状円形で、掌状に浅く3裂から5裂し、欠刻状の鋸歯が見られ、柄があって、短枝の先に2個から5個互生する。

 花期は4月から5月ごろで、短枝の先の葉腋に淡緑白色の花を1個から2個つける。萼片5個が花弁のように開き、花弁は小さく、萼片に隠れて目立たない。子房には針状の腺毛が密生する。液果の実は直径1センチ弱の球形乃至は卵球形で、秋から冬に熟す。実には子房の腺毛が残る。

 草木の和名にはゴンズイ(権萃)のような奇妙な名がときに見られるが、このヤシャビシャク(夜叉柄杓)にも言える。この名は一説に、樹上に着生するところから、天を翔る夜叉が置いて行った柄杓と考えたことによると言われる。奇異な名であるが、それゆえか、忘れ難い名である。なお、別名のテンバイ(天梅)、テンノウメ(天之梅)、キウメ(樹梅)は高い樹上で咲かせる花がウメの花に似るからという。

本州、四国、九州に分布し、国外では中国に見られるという。大和(奈良県)では深山の冷温帯域に野生しているが、個体数が極めて少なく、昨今、園芸採取によると見られるところから、絶滅の危険度が増しているとして、レッドデータブックは希少種(準絶滅危惧種)から絶滅危惧種に危険度がランクアップされ、現在に至っている。全国的にも個体数が少なく、環境省も準絶滅危惧にあげている。  写真はヤシャビシャク。花と実(花にも実にも針状の腺毛が目につく。    そも命そも命また虫の声

<2816>  大和の花 (899) ズイナ (瑞菜・髄菜)                                   ユキノシタ科 ズイナ属

             

 林縁などに生え、林道や登山道で出会う落葉低木で、高さは2メートル前後。よく分枝し、枝が横に広がる。葉は長さが5センチから12センチほどの卵状長楕円形乃至は楕円形で、先が鋭く尖り、基部が円形に近く、縁にはやや不揃いの鋸歯が見られる。脈は裏面に突出し、表面は凹む。葉柄は長さが1センチ前後で、互生する。

 花期は5月から6月ごろで、枝先に長さが10センチから20センチの穂状の総状花序を出し、小さな花を節ごとにつけ、多数に及ぶ。花序軸には白い開出毛が密生し、果柄は花序軸にほぼ直角につく。花は萼片、花弁、雄しべともに5個。雌しべは1個。花弁は長さが3ミリから5ミリの狹披針形で、やや平開する。花は全体に白色で、花盤が黄色でよく目立つ。実は蒴果で、長さが3ミリほどの広卵形。秋に熟す。

 本州の近畿地方南部、四国、九州に分布する日本の固有種で、襲速紀要素系植物として知られ、大和(奈良県)では南部の紀伊山地に集中的に見られる。学名はItea japonicaで、Iteaはヤナギの意。ズイナの名は別名のヨメナノキ(嫁菜の木)と同様、若葉が食用にされて来たことによる。 写真はズイナ。花期の姿と花序のアップ(川上村、上北山村)。     虫の声はたして命を燃やしゐる

 

 

 

 


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