<1039> 追憶の記 (1)
鴨足草(ゆきのした)その白花に誰が住む少年に亡きたらちねの母
写真は花を咲かせるユキノシタ(左)、夏雲(中央)、花盛りの楝(あふち)ことセンダン(右)
瑠璃の蝉追って伝説峠越え少年すでに少年の父
黄金に靡くたてがみ獅子父王午睡の夢の空を翔けたり
半身を午後の日差しに暖めて冬のピアノが纏ふ郷愁
舞ひ落ちる木の葉を蝶と見間違ひ 目線の先に少年の声
足を埋め手を埋め五体埋めたるは蓮華畑の永久(とは)の花園
含羞と矜持を灯す遺歌集に夏の歌なつかしくほのかに
九月(ながつき)の雨の日の午後 一篇の絵物語に母のやさしさ
今は亡き人との会話 駅までの歩道に見ゆる夏雲の空
百日紅見ゆる築地のなつかしさ カーブミラ-に映る町角
海よりの風にはためく旗の鳴り 灯すべくある青春の歌
あの町のあの川原(かははら)のよしきりの囀るこゑの季節とはなる
大人びて来しころ恋の字を用ふ 楝(あふち)花咲く海沿ひの道
帆綱鳴る風の五月の港町 窓には沖を恋ふる眼差し
青春の憂ひとともにありけるをフォトは語れり松風の丘
初恋は告げ得ざるまま 少年が抱き来たりし海の風景
人買ひの男を恐れ家(や)に潜みゐたりし夏の日の幼年期
真裸でトロッコ腕押す男らの力の時代がありし遠き日
湧きあがる雲の高さに向日葵は花をかざせり瑞々しくも
あるは花あるは微笑みもてあるに 含羞のその美(は)しき青春
~ 次 回 に 続 く ~