<1036> 川 辺 の ギボウシ
あなたを見ていると
耐えるということも
生きる力だと思えてくる
平成二十三年(二〇一一年)の台風十二号の豪雨によって紀伊半島では甚大な被害に見舞われた。まだ、記憶に新しいところであるが、被災現場では復興が進められている。そんな光景を目にしながら紀伊山地を訪れると、植物というのは不思議なほど復元力があって、川筋でも以前と同じように生え出しているのが見られる。これは私たち人間にも言えることであるが、生きるということは一つの逞しさであるように思えて来る。そして、その逞しさは、単に逞しいだけでなく、苦しいときの経験に基づく知恵がそこにはプラスされてあるような感じを受ける。
大きな岩の隙間に根を差し入れてその岩に貼りつくように生えるギボウシは、濁流に洗われる経験を何度も味わっているはずである。そこで、そのギボウシにはこの濁流に負けないだけの体力である茎や根の強さを養って来た。想定外のこともあるだろうが、巨岩に寄り添うその知恵と強靭さによって、大洪水のピンチにも耐えて凌ぐことになる。これは、川辺に生えるほかの植物にも言える。アワモリショウマも同じような岩場に生えるが、岩を頼みにしている。茎はそんなに太くないが、針金のごとく強く、その先に花を咲かせ、実をつける。
ツツジの仲間であるサツキにも言える。サツキにはイワツツジの別名があるように、川岸の岩場を生育地にしている。ギボウシやアワモリショウマと同じく、増水すれば、濁流に洗われるような場所であるが、やはり、岩の隙間に根を下ろし、貼りつくように生えている。言わば、岩が押し流されない限り、これらの植物には安泰である。今年はどのような夏になるのだろうか。エルニーニョ現象が影響しそうな予報も出ているが、果たしてどうだろうか。写真は左から濁流に洗われるギボウシの花、川の岩場に咲くアワモリショウマとサツキ(いずれも、天川村の川迫川で)。