使徒の働き 12章18−25節
ここには、使徒ヤコブを殺しペテロを捕えたヘロデ・アグリッパⅠ世の最期が記されています。彼はローマ皇帝のおぼえよろしく当初与えられた領地をさらに拡大することができました。3節に「ユダヤ人に喜ばれたのを見て、さらにぺてをも捕えにかかった」とあるように、人々の人気を得て自分が称賛されるのを喜びとするような領主でした。
ペテロを捕え、人々の前で殺そうとした企てが頓挫した時、アグリッパは神の前に自分を正しく位置づける機会を与えられたとも言えます。しかしペテロを取り逃がした出来事を、兵士の処刑で終わらせてしまったのです。
そして、彼はカイサリアで人生の終焉を迎えます。それは絶頂のすぐ後に訪れました。聖書は、虫に食われて息絶えたと書いています。あっけない終わり方です。改めて人の生きると死ぬとを支配する神をおぼえます。死因は、アグリッパが神に栄光を帰さなかったことでした。歴史家のヨセフスは、この出来事を「ユダヤ古代誌」に記しています。場所はカイサリアの地中海沿いに建てられていた円形劇場。
「アグリッパス(アグリッパ)は銀糸だけでおられた素晴らしい布地で裁った衣装をつけて、暁の劇場へ入場した。太陽の最初の光が銀糸に生えてまぶしく照り輝くその光景は、彼を見つめる人たちに畏怖の念を与えずにはおかなかった。すると突然、各方面から、佞人(ねいじん〜おもねる人々)どもがー本当にそう思ってではないがー『ああ神なるお方よ』という呼びかけの声を上げ、…」[ヨセフス「ユダヤ古代誌」19巻343−350 秦剛平訳 筑摩書房)
高ぶりの結末はえてしてこのようなもの。それでも、神を恐れない人は称賛の美酒に酔いしれようとするのです。このような権力者の高ぶりゆえに、小さなイエスを信じる者たちは、歴史の中で大きなとばっちりを受けました。しかし、いずれも「生き残った」のは小さな者たちでした。本章の最後の2節は、ヘロデの結末と対照的です。