shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

John Lennon / Plastic Ono Band (Pt. 1)

2009-12-02 | John Lennon
 私が音楽を聴き始めた1970年代半ば、ビートルズは既になく、リアルタイムではポールがウイングスを率いて US ツアー中でわが世の春を謳歌していたのに対し、ジョンはベスト・アルバム「シェイヴド・フィッシュ」を出して70年代前半の自らの音楽活動を総括した後、主夫生活に入り沈黙していた。私は後追いの形でビートルズのアルバムを1枚ずつ買いながら、それと並行する形で各メンバーのソロ作品も少しずつ買い集めていった。当時の私は音楽誌のレヴューを参考にしてなけなしの小遣いをやりくりしながら次に何を買うかを決めていったが、ほとんど全てのレビューで大絶賛されていたのがこの「ジョン・レノン / プラスティック・オノ・バンド」で、「ジョンの魂」という秀逸な邦題が付けられていた。
 確かにどのレヴューにも “自らの個人的な苦悩を曝け出したジョンの赤裸々な叫び!” みたいなことが書いてあったように思うが、まだ自分の音楽観が確立していなかった私は何も分からずに“ビートルズの元メンバーのソロ作品中最高のアルバム”という讃辞に目がいき、愚かにもビートリィなサウンドを期待してこのアルバムを購入、初めて聴いた時はそのあまりにも重苦しい雰囲気に満ちた内容に圧倒されてしまった。何と言ってもアルバムの冒頭からいきなり “ゴ~ン、ゴ~ン... ” と重厚な鐘の音が響き渡り“マザァ~ ユゥ ハド ミィ~♪” とジョンの鬼気迫るヴォーカルがスピーカーから飛び出してくる。そこには私の大好きな「レヴォリューション」や「ヘイ・ブルドッグ」といった後期ジョンのへヴィーなロックンロールも、「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」や「アイ・アム・ザ・ウォルラス」のようなサイケなロックとは全く違った、非常にシンプルな形のロックとして提示されていた。
 で、その①「マザー」だが、アルバムのA面1曲目にインパクトの強い曲を配置するというビートルズ由来の手法に則っての大抜擢。シンプルながら一度聴いたら耳から離れないような強烈なメロディーに乗って、パーソナルでへヴィーな歌詞がジョンの切迫感溢れるヴォーカルで歌われるという、耳に心地よいポップスとは対極に位置するような曲で、絞り出すような声でシャウトするジョンの歌声には凄味すら感じられる。歌詞もシンプルながら実に生々しいもので、“母”そして“父”への想いが赤裸々に綴られている。特に後半のリフレインの部分で “mother, father” ではなくまるで子供のように “mama, daddy” と叫んでいるところなんかめっちゃリアルでゾクゾクさせられる。尚、この曲はアメリカではシングル・カットされたらしいが、ヒット・チャート番組で聴くには最も似つかわしくない、凡百のポップ・ソングとは激しく一線を画する名曲名演だと思う。
 ②「ホールド・オン・ジョン」はジョン自らが客観的な視点から当時色々と世間を騒がせていた “ジョンとヨーコ” に対して “しっかり頑張れ!” と励ますという変わった作りの歌。穏やかなメロディーを持ったこの曲、あまり印象に残るようなトラックではないが、あの強烈な「マザー」の後に置けるのはこんな曲しかないだろう。
 ③「アイ・ファウンド・アウト」はシンプルにしてソリッド、そのシャープでエッジの効いたサウンドはこの時期のジョンが書いた極上のロックンロール・チューンだ。ジョンの歌心溢れるリード・ギター、クラウス・ヴアマンのポールを想わせるような躍動的なベース・ライン、そして “ザ・ワン・アンド・オンリー” リンゴの絶妙なドラミング... まるでホワイト・アルバムに入っていても全然おかしくないような、まるで “進化した「ハイパー・グラス・オニオン(笑)」みたいなカッコ良い演奏だ。
 ④「ワーキング・クラス・ヒーロー」も初めて聴いた時から強く印象に残っているナンバーで、アコギの弾き語りで淡々と歌われる歌詞は痛烈そのもの... “fuckin’ crazy”、“fuckin’ peasant” と、“fuckin’” という言葉が2度も使われていたり、“笑いながら人殺しを出来るぐらいでないと奴らのようにはなれないぜ” とか、とにかく切っ先鋭い言葉の刃による波状攻撃だ。メロディーだけでも超一流の名曲だと思うが、歌詞カードを見ながら聴けば、ジョンの感情の込め方etc を含め、この曲を更に深く味わえるだろう。
 穏やかなピアノのイントロで始まる⑤「アイソレイション」は “孤独” を歌った内容がこれまた生々しい(>_<) 曲のメロディー的には②同様やや薄味なのだが、ジョンとしてはとにかく歌詞を聴かせたかったのではないか。ダブル・トラッキングを効果的に使ったジョンのヴォーカルは説得力に溢れている。(つづく)

Working Class Hero - John Lennon