shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Wlalls And Bridges / John Lennon

2009-12-07 | John Lennon
 ジョンは前作「マインド・ゲームズ」がリリースされた1973年秋以降しばらくヨーコとの別居生活に入るが、この “失われた週末” と呼ばれる時期にレコーディングされたのがソロ通算5作目にあたる「ウォールズ・アンド・ブリッジズ」だった。
 私が音楽を聴き始めたころ目にした音楽誌のこのアルバムに対するレビューは “今までのジョンの作品の内で間違いなく最高のプロジェクト” だとか、 “「イマジン」に充分に匹敵しうる最高のロックンロール・アルバム” だとか、どれも判で押したように大絶賛の嵐で、“ここからシングル・カットされた②がジョンにとってソロ初の全米№1に輝いた” こともあって “英米日ともに久々のマンモス・セラー(笑)を記録” とまぁこれ以上ないくらいの美辞麗句が並んでいた。今では音楽評論家の提灯記事など全く信用していないが、まだ素直だった当時はこれらのレビューを信じ、速攻でこのアルバムを買ってきて絶大なる期待感を持ってターンテーブルに乗せた。しかし、スピーカーから流れてきたのは私が期待したのとはかけ離れた音楽だった。 “えっ?コレが最高のロックンロールってか?” 正直、私は失望した。何度聴いてもこのアルバムのどこが良いのか分からなかった私はこの盤を一旦レコード棚の奥深くしまい込んだ。そして様々な種類の音楽を聴いて経験を積みながら時々取り出して聴いてみて昔よりは幾分その良さが分かるようになってきたが、やはり他のアルバムほどには馴染めない。私が特に苦手なのは①「ゲット・ダウン・オン・ラヴ」、③「オールド・ダート・ロード」、⑥「スケアード」といった曲たちで、いくらジョンの声で歌われてもメロディーが薄すぎて楽しめない。きっと私の感性がこのアルバムについていけてないのだろう(>_<)
 全米№1になった②「ホワットエヴァー・ゲッツ・ユー・スルー・ザ・ナイト」はエルトン・ジョンとのデュエット曲だが、私にはゴテゴテと装飾過多なアメリカン・ロックにしか聞こえない。そもそもこのエルトン・ジョンと言う人、「ユア・ソング」や「キャンドル・イン・ザ・ウインド」といったスロー・バラッドではいかにもイギリス的な抒情味溢れる素晴らしい曲作りをするのに対し、アップテンポなナンバーはアメリカ的な薬にも毒にもならないようなものが多くて好きになれないのだ。ジョンのこの曲もどちらかというとそんなエルトン色が強いように思うのだが、それでもジョンが単独で歌っているパートにだけは耳が吸いつく。 “腐っても鯛” じゃないが、これこそまさにジョン・レノンのヴォーカリストとしての底力だろう。
 ⑤「ブレス・ユー」はストーンズの「ミス・ユー」の元ネタになったっぽいサビのメロディーが哀愁を誘うが、エレピのサウンドが軽すぎるのが玉にキズ。しかし70年代半ばのアメリカン・アダルト・コンテンポラリー・サウンドが好きな人なら気に入りそうなサウンドだ。当時の恋人メイ・パンのことを歌った⑧「サプライズ・サプライズ」は曲そのものよりもエンディングで炸裂する「ドライヴ・マイ・カー」そのままのコーラスが嬉しい。⑫「ヤ・ヤ」は当時10歳だった息子ジュリアンとのお遊びセッションで、和やかな雰囲気が伝わってきて微笑ましいのだが、1分ぐらいでフェイド・アウトしてしまうのが残念だ。
 このアルバムで一番好きなのはシングル・カットされて全米9位まで上がった⑦「#9・ドリーム」だ。タイトル通り夢見心地といった感じのジョンのアンニュイな歌声が何とも心地良い浮遊感を感じさせるサウンド・プロダクションと絶妙にマッチした名曲名演だだと思う。 “ア~バワ カゥワ ポッセポセ~♪” という夢言葉みたいなフレーズはジョンお得意の造語で、この曲に更なる神秘性を与えているようだ。④「ホワット・ユー・ゴット」は何となくスティーヴィー・ワンダーの作風を連想させるファンキーなナンバーで、A面はこの曲があることによって救われているような気がする。
 ⑨「スティール・アンド・グラス」はビートルズ解散の一因となった悪徳マネージャー、アラン・クラインをあらかさまに攻撃した内容で、曲想からバックのストリングス・アレンジに至るまで、ポールを皮肉った「ハウ・ドゥー・ユー・スリープ」そっくりだ。そういえばこの頃ジョンはポールと仲直りし、過去を水に流して再会セッションまでしているが、そのこととこのクライン攻撃は無関係ではないだろう。⑩「ビーフ・ジャーキー」はジョンには珍しいインスト・ナンバーで、一説によるとブッカーT & ザ・MGs の「グリーン・オニオン」をイメージして書いたという。不思議なグルーヴを醸し出すこの曲に続くのが⑪「ノーバディ・ラヴズ・ユー」で、それまでの曲とはジョンのヴォーカルの質感がガラリと変わる。 “大人のヴォーカル” とでも言えばいいのか、適度に肩の力の抜けた、実に懐の深い歌い方だ。曲そのものもまるでスタンダード・ナンバーのような気品を備えており、「ジェラス・ガイ」を彷彿とさせる口笛によるエンディングもカッコイイ(^o^)丿 こーやって聴いてくると地味ではあるが中々味わい深いアルバムかもしれない。

John Lennon - # 9 Dream