shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

33 SINGLES MOMOE / 山口百恵

2009-04-30 | 昭和歌謡
 山口百恵がデビューしてからしばらくの間、私は彼女の良い聴き手ではなかった。ちょうど桜田淳子や森昌子らと共に中3トリオと呼ばれていた頃で、ラジオで聞いてもテレビで見ても何も感じず、言ってみれば “好きでも嫌いでもない” 状態だった。今聴いてみるとそれなりに良く出来た歌謡曲なのだが、当時は洋楽以外まったく眼中になかった。
 そんな私が「あれ?コレってちょっとエエかも(^.^)」と思えた彼女のシングルが「横須賀ストーリー」である。“今日も私は 波のように抱かれるのでしょう ここは横須賀~♪” というエンディングも他の歌謡曲とは一線を画す斬新なものだったし(というか、大仏とシカぐらいしか取り柄のない奈良に住んでる中学生にとって “横須賀” という地名の持つオシャレな響きだけでポイント高かったのかも...笑)、曲も明らかに新境地と言えるようなロック・フィーリングの薫りを湛えていた。それもそのはずで作詞作曲はあの阿木燿子&宇崎竜童の黄金コンビだったのだ。今にして思えばこれは彼女が “単なるアイドル” を超えた存在へと駆け上るターニング・ポイントになった重要な曲だと思うし、阿木宇崎コンビにとっても百恵という唯一無比の素晴らしい素材を得て新たな “歌謡ロック” の創造が可能になったのではないかと思う。
 次に私の耳を捉えたのは更にロック度をアップさせた「イミテーション・ゴールド」で、情事を暗示するような生々しい歌詞のインパクトが強烈だった。特に “くせが違う 汗が違う 愛が違う 利き腕違う ごめんね 去年の人にまだ縛られてる~♪” なんか絶対に阿木にしか書けない斬新なフレーズだと思うし、まるでエルヴィスの「ハートブレイク・ホテル」を彷彿とさせるようなブルージーな導入部からテンポアップして一気に駆け抜け、後半部をたたみかけるような展開でまとめ上げた宇崎の音楽センスもさすがという他ない。
 「乙女座宮」はその1年前に出た「夢先案内人」で先鞭をつけた軽快なファンタジー路線(?)の最高傑作で、こぼれ落ちるようなイントロから、すでに名曲だけが醸し出す品位と風格が漂う。太田裕美の「黄昏海岸」を彷彿とさせるような明るく爽やかなメロディーの奔流にツボを心得た絶妙なバック・コーラス・アレンジと、欠点が一つもない完全無欠のポップスだ。この心がウキウキするようなサウンドは、特に上記のようなロック調の曲の後に聴くと、まるでAC/DCやエアロスミスを聴きまくった直後にカーペンターズを聴いたような(←何ちゅう例えやねん!)清々しさが味わえた。
 そーいえば「プレイバック part 2」も忘れられない。歌詞の “緑の中を走り抜けてく真っ赤なポルシェ~♪” という部分をNHK出演時に “真っ赤なクルマ~♪” に変えて歌わせられた事件(何かめっちゃ違和感を感じてしまうのは私だけ?)が有名だが、確か “あくまでも中立な公共放送としての立場を貫くため1社の宣伝をするわけにはいきません” みたいな趣旨のことをNHKがほざいていたのを聞いて呆れたものだ。アレがポルシェの宣伝になるんか?この曲を聴いてメルセデスやBMWから苦情が来るとでも言いたいのだろうか?(笑) それにそんな事言うとったらスポーツ中継ひとつも出来へんやんけ!話を曲に戻すと、宇崎は歌詞の “真っ赤なポルシェ” のイメージを膨らませてこのスピード感溢れるロック曲を書いたのではないか。周りの景色がどんどん後方へと遠ざかっていくような加速感を見事に表現した音作りが圧巻だ。この曲に関してはまだまだ言い足りないが先に進まなくてはいけない。
 その後もこのツッパリ・ロック路線は更なる激しさを増していく。 “はっきりカタをつけてよ” “やってられないわ” で一世を風靡した「絶体絶命」でも阿木のシュールな歌詞とハードボイルドなサウンド・プロダクションが火花を散らす中を百恵のスリリングなヴォーカルが駆け抜ける。ヘタなロックよりも遙かに高いテンションの歌と演奏が楽しめるこの曲は、もう歌謡曲という範疇を軽く超えてしまっているように思う。
 「愛の嵐」も凄まじい。“狂うと書いてジェラシー~♪”... 女のドロドロとした情念というか、殺気すら感じさせるラインは鳥肌モノで、またもや阿木燿子の天才が爆発だ。百恵の表現力にも更に磨きがかかり、その説得力溢れるヴォーカルに圧倒される。こんなにクールでカッコイイ歌謡曲が過去にあっただろうか?エイジアのジェフリー・ダウンズみたいに上昇下降を繰り返すバックのシンセも絶妙な隠し味になっている。
 「ロックンロール・ウィドウ」はディレクターからの「ゼッペリンの“ロックンロール”みたいな曲を!」という依頼にこたえた職業作家・宇崎が “lonely, lonely, lonely...” を “カッコ、カッコ、カッコ...”というフックで見事に表現し、それだけではまだ足りないとばかりにポールの「ロッケストラ」に70's初期のストーンズが客演しているかのようなノリノリのロックンロール大会に仕立て上げたのだ。結婚を控えた百恵に“ウィドウ”(未亡人)と歌わせ、引退直前のしんみりムードを吹き飛ばすようなこのロック曲をシングルとして切ってきた制作サイドの英断も天晴れという他ない。
 今回ブログで取り上げるにあたってこの「33 SINGLES MOMOE」を一気聴きしてみて改めて阿木燿子、宇崎竜童、山口百恵という “歌謡ロック・トライアングル” の凄さを再認識させられた。単なるノスタルジーとして聴くのではなく、ロック・ファンにはぜひ一度そういう耳で聴いてほしい傑作集だ。

山口百恵 プレイバック part2 (真赤なクルマver)