shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

甲斐バンド・シングル・コレクション Vol. 1

2009-04-25 | J-Rock/Pop
 私が物心ついてからこれまで聴いてきた音楽はそのほとんどがビートルズを始めとする洋楽なので、日本のロックといってもメジャーなグループしか知らないのだが、そんな私の乏しいJ-Rock 体験を語る上で絶対に外せないのが甲斐バンドである。ロック・バンドといってもキャロルのようなロッカーズ・スタイルでもなければ、サディスティック・ミカ・バンドのような“時代の先を行く”バンドでもない、例えるなら“日本人の心の琴線を震わせる昭和歌謡的要素をロック・フォーマットでカッコ良く表現した”バンドだったと思う。特に74年のデビューから80年の「地下室のメロディー」あたりまではその傾向が強く、他のどのバンドも持ち得なかった“究極の歌謡ロック性”と彼らがライブで魅せる“迸るようなエネルギーの奔流”が私を含めた若者の心をとらえたのではないか。又、音楽だけでなく、当時NHK-FM で夜10時から放送されていた「サウンドストリート」(甲斐さんは確か水曜日担当やったと思う...)でのざっくばらんなスタイルで人生を語るトークが大好きで毎週ラジオにかじりついて聞いたものだったが、この番組も確実に彼らの人気に寄与していたと思う。甲斐バンドの音楽には甲斐よしひろという一人の男の美学、生き様がさりげなく投影されていたのだ。
 私が初めて彼らの音楽に接したのはAMラジオから流れてきた彼らのセカンド・シングル②「裏切りの街角」で、もろ昭和歌謡な泣きのメロディーを奏でるギターのラインと “しとしと さみぃだぁれぇ~♪” のこそばゆいようなバック・コーラスが耳に焼き付いて離れなかった。続く④「かりそめのスウィング」は大きくフィーチャーされているヴァイオリンのヒステリックな高音が中学生だった私には珍しく感じられたものだったが、今の耳で聴いてみるとリズム・ギターのカッティングといい、間奏部のギター・ソロといい、弦をブンブンいわせながらリズム・キープに大活躍するアコースティック・ベースといい、バリバリのマヌーシュ・スウィングではないか!これには本当に驚いた。
 ⑤「ダニーボーイに耳をふさいで」はまるで甲斐バンドの魅力を凝縮したような名曲で、特にサビの “いつものように 灯りを消して~♪” の部分で噴出する哀愁は甲斐さんにしか出せない味わいだ。⑧「氷のくちびる」ではスローな前半部から一転テンポアップして一気にたたみかけるような後半部分がたまらなくカッコ良い。ストリングス・アレンジも見事だし、低音部を激しく埋めるベースのプレイも圧巻だ。⑨「そばかすの天使」では女性の視点から語られるストーリー展開が斬新な歌詞が甲斐さんのハスキーな声で歌われると何かゾクゾクするほどリアリティーがあって、まるでドラマを見ているかのように情景が浮かんでくる。この表現力は尋常ではない。甲斐さんのヴォーカルに寄り添うような “ダッ ドゥダァ~♪” というバック・コーラスも絶妙のアレンジで名曲度数を更にアップさせている。なぜこの曲が人々の口に上らないのか不思議なぐらいの名曲だと思うし、個人的には甲斐バンドの曲の中で一番好きかもしれない。
 ⑬「HERO(ヒーローになる時、それは今)」はCMタイアップ効果もあってか甲斐バンド初のチャート№1に輝いた彼らの代表曲で、当時は気付かなかったが今聴くとかなりスプリングスティーンの影響を感じさせる演奏だと思う。 “あんな~ぁ~♪” という有名な女性コーラスで始まる⑯「安奈」は上記の「そばかすの天使」と並ぶマイ・フェイヴァリット・ナンバーで、“日本屈指のストーリーテラー” 甲斐よしひろの才能が全開だ。特に0分51秒からの“そんな時 お~まえがぁ よこした たぁよりぃ~ ただ一言だけ 淋しいって綴ってた♪” のパートは何度聴いても鳥肌モノだ。尚、1980年の武道館ライブ盤「100万$ナイト」に収められたこの曲のライブ・ヴァージョンは、この「シングル・コレクション」収録のスタジオ・ヴァージョンを凌駕する素晴らしさなので是非ご一聴を!

【音】甲斐バンド「安奈」1980武道館