shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Doris Day's Greatest Hits

2009-04-02 | Jazz Vocal
 女性ヴォーカルの歴史において1930年代後半から1940年代にかけて “バンド・シンガー” というスタイルが隆盛を極めていた。女性シンガーはまずそのキャリアをビッグ・バンドの専属歌手という形でスタートするというのが一般的だったのだ。ベニー・グッドマン楽団のヘレン・ウォード、マーサ・ティルトン、ペギー・リー、アーティー・ショー楽団のヘレン・フォレスト、ジミー・ドーシー楽団のヘレン・オコネルと、挙げていけばきりがない。紅一点とはよくいったもので、彼女達は持ち前の美貌と小気味よくスイングする見事な歌いっぷりでバンドそのものの人気をも左右するほどの重要な存在となり、やがてバンド・リーダーよりも人気が出てソロとして独立、というパターンも多かった。
 ドリス・デイもそんなバンド・シンガーの1人で、ちょっとハスキーな声とクセのない素直な歌い方が大衆にウケていた。特に1945年にレス・ブラウン楽団をバックに歌った「センチメンタル・ジャーニー」はちょうど第2次大戦終戦と共に帰還する兵士たちの賛歌として爆発的にヒット(9週連続全米№1!)、ポピュラー音楽史に残る屈指の名曲として人々の記憶に深く刻み込まれた。今でもドリス・デイといえば「センチメンタル・ジャーニー」であり、「センチメンタル・ジャーニー」といえば松本伊代、じゃなかったドリス・デイなのだ。
 ソロとして独立後は映画にも出演しながらミリオン・ヒットを連発し、“アメリカ最高の女性ポピュラー・シンガー” と言われるまでになった。あのジョン・レノンが「ディグ・イット」の中で「ドリス・デイ!」と叫んだり、桑田佳祐師匠が「いなせなロコモーション」の中で「あ~なたとドリス・デイ♪」と歌詞に盛り込んだりと、ロックの世界においてもそのポピュラリティは微動だにしない。そんな彼女のソロ独立後のヒット曲を集めたのがこの「ドリス・デイ・グレイテスト・ヒッツ」である。
 全14曲、歯切れの良い1人二重唱がかっこいい①「エヴリバディ・ラヴス・ア・ラヴァー」、歌詞の1語1語の微妙なニュアンスを見事に表現しながら軽快に歌う③「ガイ・イズ・ア・ガイ」、ほのぼのとした雰囲気が彼女にピッタリな⑤「ティーチャーズ・ペット(先生のお気に入り)」、ロジャース&ハートの名バラッドを情感豊かに歌いこなす⑥「ビウィッチド(魅惑されて)」、アップテンポのリズムに乗って溌剌とした歌声を聴かせる⑦「ピロー・トーク(夜を楽しく)」、ヒッチコックの「知りすぎた男」でアカデミー主題歌賞を受賞した名唱⑧「ケ・セラ・セラ」、アップテンポで気持ち良さそうにスイングする⑩「上海」、ナット・キング・コールの名唱に迫る素晴らしさの⑪「ホエン・アイ・フォール・イン・ラヴ(恋に落ちた時)」、ハリー・ジェイムズをフィーチャーしたヴァージョンじゃないのが玉にキズながら彼女のヴォーカルは文句なしに素晴らしいわが愛聴曲⑫「ララバイ・オブ・ブロードウェイ(ブロードウェイの子守唄)」、アップテンポな解釈が多い中スローでしっとりと歌い上げる⑬「ラヴ・ミー・オア・リーヴ・ミー(情欲の悪魔... って何ちゅう邦題つけるねん!)」、レス・ブラウン時代のリメイクながらそのオリジナル・ヴァージョンを超えた究極の名唱⑭「センチメンタル・ジャーニー」と、どこを切っても“女性ヴォーカルかくあるべし”といえる歌声が楽しめる。
 ③を江利チエミが、⑩を美空ひばりが、⑫をザ・ピーナッツがそれぞれカヴァーしたことでもわかるように、彼女が昭和歌謡の大歌手たちに与えた影響は計り知れない。又、ジャネット・サイデルを始めとする多くのコンテンポラリー・シンガーたちも彼女をリスペクトしてやまない。ドリス・デイ、その歌声は単なるノスタルジーではなく、どんなに時代が変わろうともエヴァーグリーンな輝きを放ち続けるだろう。

Doris Day - Sentimental Journey (remastered)
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