shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Bossa'n Beatles / Rita Lee

2009-04-08 | Beatles Tribute
 ボサノヴァは元々アントニオ・カルロス・ジョビンやジョアン・ジルベルトといったブラジル音楽界の猛者たちが50年代後半に確立した音楽ジャンルで、クラシック・ギターを指でつま弾きながら呟くようなヴォーカルで抑制されたメロディーを歌うというスタイルが大きな特徴だった。しかし時が経ちそのグローバル化に比例するようにより洗練された聴きやすいサウンドへと変化するにつれて、誰もがそのメロディーを知っているような有名曲をゆる~いヴォーカルで歌った心地良い脱力系サウンドの総称として広義に解釈されるようになった。そういった新感覚ボッサは日本ではカフェなどで流れるお洒落感覚のBGM、いわゆるラウンジ・ミュージックとして定着しつつある。以前アルゼンチンのレーベルが仕掛けたストーンズ・ナンバーのボサ・ノヴァ・カヴァー集「ボッサン・ストーンズ」を取り上げたことがあったが、その後も「ボッサン・ローゼズ」や「ボッサン・マーレイ」といったいわゆる「ボッサン」シリーズが次々と作られ、そのどれもがヒット。一方本家ブラジルも負けじとボサ・ノヴァ界の巨匠ロベルト・メネスカル・ファミリーを中心とした“アルバトロス・ミュージック”レーベルが「ビートルズ・イン・ボッサ」や「カーペンターズ・イン・ボッサ」といったコンピレーション盤を続々発売、他にも大小様々なレーベルがまるでアホの一つ覚えのように既製の名曲の数々をボッサ化し、世はまさに“ボッサ・ウォーズ”の様相を呈してきた。そんな中、“単独アーティストによる” 一味も二味も違うビートルズ・ボッサ・カヴァー集としてリリースされたのがヒタ・リーの「ボッサン・ビートルズ」である。
 彼女は大のビートルズ・ファンで、パーカッシヴなボサ・ノヴァ、すなわちボッサン・ロールというスタイルを確立した“ブラジル・ロック界のクイーン”的なシンガーである。そんな彼女が念願叶って吹き込んだこの盤には彼女のビートルズ愛が溢れており、同じビートルズ・ファンとして彼女の悦びがダイレクトに伝わってくる。彼女はティーンエイジャーの頃から慈しんできたビートルズ曲のメロディーを崩すなどという勿体ないことはしない。リラクセイションに満ちたボサ・ノヴァのリズムをバックに珠玉のビートルズ曲を気持ち良さそうに歌うヒタ・リーの抑制されたヴォーカルには小賢しいアレンジなど必要ない。①「ア・ハード・デイズ・ナイト」はボサノヴァではなくまさにボッサン・ロールそのもののユルいロックアレンジが斬新だ。名刺代わりの1曲といったところか。②「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ」から本格的なボサ・ノヴァ・スタイルに突入、リンゴが歌った呑気な曲が信じられないくらい見事にボッサ化されている。囁くようなヴォーカルがたまらない③「イフ・アイ・フェル」、力の抜き具合が絶妙な④「オール・マイ・ラヴィング」、曲がニッコリ微笑んでいるような素敵なボッサ⑤「シー・ラヴズ・ユー」、パリのエスプリがそこはかとなく漂うフレンチ・ボッサ⑥「ミッシェル」、曲を慈しむように歌う姿勢に心打たれる⑦「イン・マイ・ライフ」、辛口バラッドを旨口ボッサに昇華させた⑧「ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア」と、もう名曲名演のアメアラレである。アコーディオン入りでウキウキするようなボッサン・ロール⑨「抱きしめたい」、透明感溢れるヴォーカルが心に染み入ってくる⑩「ルーシー・イン・ザ・スカイ」、そして③⑦⑧のポルトガル語ヴァージョンが続き、ラストが⑭「キャント・バイ・ミー・ラヴ」でこれもポルトガル語で歌われている。“トゥド ポラァ~モ~ォ~♪”って、ポルトガル語で聴くビートルズも中々おつなものだ。
 だんだん暖かくなってきて陽射しが柔らかく感じられるこの時期、ヒタ・リーの素敵なボッサに浸りながら(←コレが言いたかった...笑)テラスで過ごすブリリアントな午後というのもエエんじゃないでしょうか?

Em minha vida (In my life - Beatles by Rita Lee)