転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



昨夜は『東芝グランドコンサート2009』を聴きに行った。
昨年秋に聴いて惚れ込んだ田村響がソリストだったからだ。
オケはケルンWDR交響楽団、指揮はセミヨン・ビシュコフ。

プログラムは次の通り。
ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲
モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番
ドヴォルザーク:交響曲第8番

期待に違わぬ、きめ細かく重厚な音色のモーツァルトだった。
『よしこさんはやはり、ガタイがよくて指も太く、
テクニックはほかのツイヅイを許さず、
でもってシツコイ系がたまらなくていらっしゃるのですね』
と昨夜友人に看破され、その慧眼と表現力に畏れ入ったが、
まことに彼女の言う通りで、私は恰幅の良い演奏家が、
その体に似合う深く太い音と安定したテクニックでもって、
コクのある演奏を展開してくれると、即座に虜になってしまう。
田村響は若いけれども、既に間違いなくこの路線の演奏家だ。

昨夜のモーツァルト、流麗で楽しい曲想の第一楽章アレグロも、
田村氏の手にかかると決して浮ついたものにならず、
緻密に制御された音楽が展開され、私には本当に心地よかった。
第二楽章アダージョは粘っこいほど丁寧に一音一音が繰り出され、
その瞬間瞬間に描き出される風景を、時間をかけて楽しませて貰った。
第三楽章アレグロ・アッサイは、的確に抑制は利いていたけれども、
奥底には現在の田村氏の潜在的なパワーが見え隠れする演奏で、
終楽章に相応しい推進力と風格とがあった。

欲を言えば、昨夜は私が前方席に座ったのがかえって失敗だった。
勿論、ダイレクトにタッチや息づかいを観察できる場所であり、
その臨場感は素晴らしかったのだが、音に関する田村氏の照準は、
当然のことながらホール全体に響かせるところに置かれていただろうから、
恐らく音響面では一階中央や二階前方が最高だっただろうと思われた。
私は前に寄りすぎた席だったので、彼の音の到達点を捉えることには、
やや、失敗したとあとで反省した。

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