転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



歌舞伎関連でメールを下さる方もいらっしゃるので、
私が音羽屋の旦那(尾上菊五郎)のどこに惚れ込んだか、
端的にわかるお勧めDVDとして、下記のものをあげておきたいと思う。

歌舞伎名作撰 白浪五人男 浜松屋から滑川土橋の場まで [DVD](amazon)

弁天は音羽屋のお家芸で、菊五郎は若い頃からこれを得意としていたが、
この昭和62年歌舞伎座の公演はまさに「脂の乗り切った」時期の名演で、
歌舞伎入門者の方にも十分楽しんで頂ける、秀逸な出来映えになっている。
弁天はただ若いだけでは演じられない役だった、ということが、
菊五郎が年齢を重ねてきて非常によくわかった舞台だった。

また、相棒役の南郷力丸を演じているのが
私がよく名前を出す初代尾上辰之助だというのも最高の配役だ。
辰之助はこのとき既に病身で、公演の数ヶ月前に退院して来たばかりで、
おそらく万全とは言えない状態での舞台だったと思うが、
そのようなことは全く感じさせない、
研ぎ澄まされたような舞台姿、冴え冴えとした口跡が素晴らしい。

菊五郎と辰之助は幼い頃からともに育ち、修行し、襲名も同時、
新之助(今の團十郎)と一緒に三之助として鳴らした仲でもあった。
『そのうち警察が来るのではと思った』
と近しい人が冗談にするほど、やんちゃな時代も共有した。
二人の間に漂う長い友情が、この舞台を成功させた一因だったと思う。

『(贔屓の役者は)尾上辰之助でございましょう?』
と浜松屋の番頭に店先で図星を指され、
『お、い、のぅ!』と扇で顔を隠して恥じらう振り袖姿の音羽屋が、
私はファンとしては、かなりツボだ。その横で、
『そのような役者は大嫌いじゃ』と言う辰之助も、あまりにも、イイ。
ちなみに(『べらぼうに長い返事』の)子役は、多分、現・松緑だ。
父・辰之助との貴重な共演の機会だったであろう、
と、これまた今にして観ると限りなく切ない。

*********************

さて、それはともかく、もうひとつ、先日買ったのが、これ↓。
歌舞伎名作撰 勧進帳 [DVD](amazon)

昭和18年、太平洋戦争中の映像なのだが、キャストが物凄いのだ。
弁慶が七代目松本幸四郎(今の幸四郎と吉右衛門の祖父)、
義経が六代目尾上菊五郎(今の菊五郎の祖父)、
富樫が十五代目市村羽左衛門(信じられないほど美形!!)
それに亀井六郎の役で十一代目市川團十郎が出ている。

伝説の名優と言われる人達がどれほど大きな存在だったか、
戦後60年余を経た今になって映像で目の当たりに出来るとは
なんという有り難い世の中なのだろう。
収録年代を考えると、映像が荒いのはやむを得ないが、
解説にある『国宝級の映像』というのはまさにその通りだと思う。

Trackback ( 0 )