転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



娘が登山合宿で留守なので、この日なら気軽に夜出かけられる、
というのが主な理由で選んだ演奏会だったのだが、大当たりだった
ご一緒させて頂いた仮装ぴあにすと様が、前半が終わったところで、
「好きでしょ、こういうの、よしこさん凄い好きでしょ!?」
と即座に看破なさった通り、本当に見事にピタリと性に合う、
生理的に文句なくイイ!と感じる演奏だった。
日本の若い演奏家で、こんな私好みの人に出会えるなんて、
道楽の神様はやはりいるんだと思い知った夜だった。

田村響ピアノリサイタル(西区民文化センター)

上記のチラシ写真にもあるように、当初の予定では、
バッハ(イタリア協奏曲)→ショパン(スケルツォ1番)→
リスト(ダンテソナタ)→ベートーヴェン(テンペスト)→
ストラヴィンスキー(ペトルーシュカ)
となっていて、私が心惹かれたのはこの選曲のせいもあったのだが、
最終的に曲目と曲順が若干変更されて、ペトルーシュカは弾かれなかった。

実際のプログラムは、
バッハ:イタリア協奏曲ヘ長調BWV.971
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番ニ短調作品31-2「テンペスト」
ショパン:スケルツォ第1番ロ短調作品20
リスト:<詩的で宗教的な調べS.173>より第3曲「孤独の中の神の祝福」
<巡礼の年第2年「イタリア」S.161>より第7曲ソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」

とにかく、バッハの出だしから大変良かった。
このイタリア協奏曲、私が今まで知っていた演奏というのは、
明るく元気よく流して弾く、という印象のものが多かったのだが、
田村氏のは冒頭から決然と、大変充実した響きをもって開始された。
その見事な、厳格なまでの和音の縦の線の揃い方、
考えて突き詰めて完成させたであろう強固な音楽、
それでいて音を自在に操るスケールの大きさ、等々、
私は音楽の展開につれて目を見張り、もう、内心で、
『凄い!凄い!おおっ、凄い!』の連呼状態だった。

変更されたプログラムは、結果的に、
大変面白かったし見事に成功していたと思うのだが、
というのは、楽曲がきっちり作曲年代順に並べられたことによって、
時代とともにピアノの扱われ方がどのように変化して行ったかが、
田村氏の演奏によってよく伝わってきたからなのだ。
22歳の若い演奏家がそんなことをしている、
というのが私には大変な驚きだった。
この人は、どの年代の作品でもそれに相応しく、
しかも本人流に首尾一貫した造形ができる、ということだからだ。

仮装ぴあにすと様も仰ったのだが、
こういう感覚でピアノを弾く演奏家というのは、
中年以降、どんどんテンポが激遅になりそうな気が、どうも、する。
現在のポゴレリチがその典型だと私は思うのだが、
音のひとつひとつに非常にこだわりを持って、
内声の活かし方は勿論、一瞬の静寂による「無音の響き」にまで耳を澄ませ、
聞き込んで聞き込んで楽曲を追求し続けていると、
しまいには、どれほど時間をかけても足りないようになってしまう。
そのこだわりに深い共感を覚え、ともに追体験するファンにとっては
この世に二人といない演奏家になり得るが、
波長の合わない聴き手にとっては、
意味のない箇所にばかり時間がかかっているとしか思えず、
疲れて辟易してしまう、ということにもなりかねない。

……などと、田村氏の未来に関してよけいな想像をするのは、
いくらなんでもまだ時期尚早だとはわかっているが
つまりポゴ氏の若い頃によく聴かせて貰った方向の演奏だったので、
私は、大変気に入ったのだった。
アンコールは三曲あり、不勉強の私にはよくわからなかったが、
最初のがメンデルスゾーン?の何か(「歌の翼に」みたいな曲調だった)、
二番目がショパンの小犬のワルツ、最後はリストの小品??、
という感じだった。

強靱なテクニックに、若さから来る気力体力の充実、高度な集中力で、
盛りだくさんで言うことのない演奏会だった。
本当に、聴けて良かった。


追記:アンコールの曲目は
メンデルスゾーン:無言歌『甘い思い出』
ショパン:小犬のワルツ
リスト:6つのポーランド歌曲第5番『愛しい人』
でした。仮装ぴあにすと様に教えて頂きました。
ありがとうございました<(_ _)>。

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