元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

靴ができた

2012-11-13 | 仕事について

きっと昨日持ってきて下さると思っていました。

「そろそろ出来上がるんとちがうかな」と冷静を装っていましたが、実は楽しみで仕方なかった。

店の前に久内さんの車が停まり、イル・クアドリフォリオの商品と木箱を抱えて降りてきた時にすぐに持ってきてくれたと分かりました。

嬉しそうなのは私だけでなく、久内さんもとても嬉しそうでした。

その人のために作った自分の作品を披露することが何よりもの喜びだというような笑顔で、サービス精神旺盛な久内さんらしいところだと思いました。

久内さんを知るほどにこの人はイタリア人ではないのかと思うほどに、私たち日本人がイメージするイタリア人の身も心も持っている。

髭や髪型、服装と私たちをいつも笑わせる面白い話。

私と違い、沈黙が何よりも気まずく思えて、自分がしゃべらないといけないと思う宿命を背負っているそうです。
確かにいつも場の空気や周りの人を実はよく見ていて、タイミング良く小話を挟んでくる。

逆にトリノに住むイタリア人の友人は、間を長く取るタイプで、髪はいつもきれいに刈り揃えています。
日本で20年以上も暮していたためか、私が知る中で最も日本的な心も持っています。


靴に関して、私はやはりパリッとした都会的なものよりもザックリとしたカントリー的な要素のものが好きだし、日頃の服装もそういうものばかりなので、合うものにしたいと、注文をお伝えしていました。

コバは多少張り出した方がいい、ソールとアッパーの間にウェルトを挟んで欲しい、メダリオンを入れて欲しいなどのカントリー靴的要素を内羽でストレートチップの靴に盛り込むというややこしい注文でしたが、そこに全体のシルエット、メダリオンのユリの紋章など久内さんが専門とするイタリア靴らしさも盛り込んで作り上げてくれました。

最初、あまりのカッコよさに自分にはカッコよすぎるのではないかと気恥ずかしさを感じましたが、しばらく履いていると自分の雰囲気に馴染んでくるような気がしました。

アッパーの革は名門ホーウィン社の馬スエードでティロレーゼ製法というイタリア靴の伝統的な製法で作られています。

久内さんの靴は基本的にフルオーダーになり、ご希望のデザイン、革質で作ってくれます。
頑ななところがなく、柔軟に話を聞いてくれて、実はポリシーもあって、信頼できる職人さんです。

シューツリーと片方ずつ入れるネル生地の袋、木箱もついています。

自分で言うのも何だけど、自分らしく、でも少しだけ特別な感じのする良いものができたととても喜んでいます。

今回靴を久内さんにお願いしたのは、自分の小さくて幅の狭い、甲の低い足に合った靴が欲しいということと、単純に靴が好きだということが理由ですが、久内さんの作るものを当店のお客様方に知ってもらって、久内さんに靴をオーダーする人が出てくだされば、という想いが強くあります。

久内さんの工房を訪ねてその作品を見せていただいて感激したことと、久内さんの人柄や生き方がいいなと思ったからでした。

今日早速家から履いてきましたが、下ばかり向いて歩いてしまう。靴を買ってもらったばかりの子供ような心境。

そういえば靴を買ってもらった夜は、家の中でずっと履いていた。母親はとても嫌な顔をしていたけれど。


出来上がった靴は、履いているか、展示するかしています。
ぜひ見に来てください。