角田光代 『タラント』(中央公論新社)読了しました。
角田さんは大好きな作家さん、読売新聞朝刊で小説の連載が始まると知った時には、
とても嬉しくて、2020年7月から毎日楽しみに読んでいましたが、
面白いのに少しずつしか読めないことが苦痛になり始め、書籍化されるまで読むのを我慢していました!
2021年7月に掲載が終了して先月出版されましたが、当初思っていたのと違う展開になっていて、
一気に物語に引き込まれ、深い感動を覚えました。
寡黙な片足の祖父、不登校中学生の甥、意義ある仕事に邁進する周囲とは反対に無気力な中年のみのり、
今は、とても生き生きと毎日を送っているようには見えない3人には、
こうなったそれぞれの過去があり、特に片足を失った祖父の過去を知ることで物語は動きます。
タイトルの「タラント」は聖書に出てくる言葉で、〈才能〉〈賜物〉、
そしてこの作品の中では〈使命〉といった意味合いを持っています。
心に深傷を負い、あきらめて打ち捨てたような人生に新たな「使命」は宿るのか?
大きく褒めたたえられるような使命ではなくとも、少し動くことで何かが変わるかもしれない。
祖父の過去には戦争、みのりの過去には国際NGOの活動が、現在に大きく関係していて、
読みながら今のウクライナの状況も考えずにはいられませんでした。
戦争は悲劇しか生まないし、とても長い間、人の身体にも心にも悪い影響を残します。
ウクライナの方々が国のために何とか頑張っている状況にも、
ウクライナのために動いている多くの方々の善意にも、強く心を動かされます。
そして、今日のうららかな春の一日を、大きな不自由もなく過ごせていることに感謝し、
平和のありがたさが身に沁みて、反戦の思いをさらに強くしています。