黒潮の恵みなどと言う言葉もあるが、その言葉からは豊かな栄養豊富な海という印象は無いか。黒潮の流れは非常に早く、透明で澄んだ海水である。それはプランクトンの少ない栄養分の少ない水なのである。プランクトンの育ちにくい栄養の少ない水だからこそ、透明度が高くなり、ずいぶん深いところまで光が届く美しさがある。
ところが黒潮の名前の通り、海面から海を見ると、黒っぽい海のように見える。これは光が深いところまで到達してしまうために青い可視光の反射が少なくなり、人間にとっては黒く見えるという事なのだ。
また栄養分の少ない海水であるとはいえ、その流れの影響で、深海からの流れを岸まで運ぶ力も働く。黒潮の流れに乗って、熱帯の沖から海流に乗って流れ泳いでくる生き物もたくさんいる。またそれを追って中型の魚や、さらに大きな魚が集まってくる。結果的に日本近海の海の豊かさに、大きな影響のある流れであることは間違いない。黒潮のおかげで、日本は豊かな海の恵みを享受してきたと言えるのである。
また日本の気候も、この黒潮の影響を受けている。もちろんその他の要因が複雑に絡んでのことではあるにせよ、黒潮の恩恵無しに私たちの暮らしは無いのかもしれない。日本列島の位置する緯度の多くは、砂漠など過酷な環境化が多い。日本列島と大陸の間に日本海があり、日本の陸地には急峻な山々が立ち並んでいる。黒潮の温かい流れが雲を作り、日本海側は有数の豪雪地帯となっている。また雨も多く降る。雨は陸地の栄養を、沿岸の海にもたらす。貧弱な栄養の水は、沿岸部においては多くのプランクトンを育む豊かな海へと変貌するのである。
日本には、資源の少ない国という印象があろうかと思うが、そのような循環の上に、豊かさを享受する仕組みになっているとも考えられるのではないか。なんとなくそこに暮らす人間の考え方にも、影響があるのではないかとも思うのである。