カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

スマホ世代に理解できるか?   十二人の手紙

2018-09-05 | 読書

十二人の手紙/井上ひさし著(中公文庫)

 十二人にまつわる手紙のやり取りを集めた短編集。厳密にいうと手紙は誰かに宛てられて書かれる場合がほとんどで、実際に考えると少なくとも倍以上の人間が手紙のやり取りをする。ほんの少し解説めいた説明が入る場合もあるようだが、基本的に手紙のみで物語は進む。そうしてそれが小説というか戯曲というか、物語として成立している。さらにミステリとしてもどんでん返しがあったりして面白い。短編集として一つ一つの話は独立しているけれど、最終的につながりを持つような顛末を持つ話もある。二重でお得である。
 手紙は書いているものの独白(モノローグ)である。ものごとは描いている人の視点で描かれる。その人が見た世界がそうであるというのは、別の人が見た場合は違う場合もある。例えばAさんが泥棒したのを見たという話があるとする。ところがAさんに聞いてみると、もともとそれはAさんのものだったのを取り返したのだ、と言うように、語る人によって物語は大きく見方が変わる場合がある。そういうものを多くは利用して、手紙で語られている世界が、読むものに大きく変化をもたらせるような仕組みがあちこちで組んであるわけだ。
 手紙はどういう訳か女の人のものが多い。そして比較的に饒舌である。相手に何かを伝えたいという思いが、文面から伝わってくる。そうしてその内容においても、心を動かされるものがある。いわゆる感情というものが、文字に乗りやすいという事があるのかもしれない。言葉を交わす間柄であっても、改めて手紙で心情を知る場合もあるのではないか。その場では語りえないことが、改めて時間を置いて、手紙で明らかにされることもあるのだろう。そういう意味では手紙は貴重な記録で、録音などでは無い検証材料になり得るものかもしれない。
 今となっては多少時代がかった話も無いではないが、それは今は携帯電話の時代になっているせいかもしれない。メールのやり取りの小説などもたぶんある事だろう。投かんされる手紙を使ったタイムラグのある物語は、既にリアルさが欠けてしまうかもしれない。既に古典になってしまうのかどうか分からないけれど、ギリギリ現代人であれば、楽しめる内容なのではないかと思われるがどうだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする