許されざる者/李相日監督
言わずと知れたクリント・イーストウッド監督作品のリメイク。個人的な思いだが、たいていのリメイク作というのは酷くなるものが多く、特に思い入れの強い作品を汚されるのも怖いので、敬遠していた。率直にしかし、それらの思いは良い意味で裏切られた。確かに舞台は日本の北海道に移ってはいるものの、展開自体はかなりオリジナルに忠実で、アイヌ問題以外では、細かいところまで同じといっていいと思う。ではリメイクする必要もないではないかという意見もあろうが、主演の渡辺謙のイメージは、クリント・イーストウッドのそれとはかなり違う。悪役の佐藤浩市においても、ジーン・ハックマンのもともと持っているダーティさというのとも違う。俳優が違うのだから当たり前ではあるが、アメリカの西部の町と、北海道の寒い風景も、かなり違うのは確かである。最初はそれなりに原作と見比べていたところがあったが、段々とそれらが気にならなくなって、本作品自体にのめり込んで楽しむことが出来た。もともとも素晴らしいが、リメイクも素晴らしいという珍しいことが起こったと思う。
原作もそうだが、気分爽快になるような映画ではない。しかしそれでも一定のカタルシスはある。それまでの重っ苦しい展開もあるから、正直言って素直にヒーローがカッコよく立ち回るわけではない。それは分かっていながら、そのカッコ良さがやはり際立つことにもなる。こういう男にしびれるというのはあって、悲しみはぬぐえないし、わだかまりは残るままだが、いい気分にはなる。そうだよな、苦しくても逃げられないなら、このようにやるしかないだろうな、と思う。多くの人間は現実に逃げ出すが、そうしてそれも真実だが、それをとがめるに気にもなれないし、自分自身でもカッコつけてやるより無い。単純な勧善懲悪的な社会に嫌気がさしたら、ぜひともこのような良質なアクション・ドラマを見るべきだと思う。人間社会は残酷でも、そうしてそれは真実かもしれないが、人はそれでもある意味で苦しみながらカッコよくも生きられる。少なくとも僕は、かなり元気になる映画であると思った。