カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

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手に取るべき絶望の書  消費税増税は、なぜ経済学的に正しいのか

2016-07-23 | 読書

消費税増税は、なぜ経済学的に正しいのか/井堀利宏著(ダイヤモンド社)

 副題に「「世代間格差拡大」の財政的研究」とある。副題が内容の考え方の方向を示している。財政問題の先送りは、世代間格差を拡大するものに他ならない。何故なら所得税で税金を納めていない上に社会保障の受益者である立場の人の負担を、公債などの借金で賄うことは、将来的に(今もだが)負担を若者世代に先送りしていることと同義だからである。受益者であっても広く負担を求める消費税で社会保障費を負担することは、ごく合理的であるばかりでなく、受益者のタダ乗りに一定のブレーキをかける効果もあり、財政の健全化の道のりには欠かせない方策である。しかしその分かり切った正しい道を選択すべき政治は、簡単にはその方針の決定が出来ない。本書は、あまりに正しいことが書かれている為に、読者に絶望感を味あわせる内容になっている。絶望的な認識からスタートすべきことは、これもまた事実であるが、だからこそ諦める道ということもある。それは本書の本意ではないが、読んだ人の多くは、やはりその絶望感に唖然とし、結果的にはあきらめの感情を抱くのではあるまいか。しかし、それが事実なのだからことは厄介だ。事実から物事を考えないことには、有効な方策などたてられるわけが無いのだ。本当にダメな日本の真の姿を、多くの人は知るべきであろう。
 内容は三部構成で、第一部では世の中で恐らく一般的な認識となっている財政再建を妨げる誤解が何故生まれるのか、ということを事細かく解いている。これは、過去から現政権に至るまで一貫して語られてきた、いわば嘘のためだが、その結果が膨大な借金であることくらいは誰でも知っていることだろう。だから今後もその嘘のままを信じているだけで、まだまだ借金は膨らむだけの話である。
 第二部は世代間不公平を解消する処方箋として、現在の賦課方式の社会保障を緩やかに積み立て方式に移行すべきことが書かれている。まともだが、まとも過ぎてこれに取り組む政治家がいるようには見えないが…。
 第三部は、このような選択をさせ続けているシルバー民主主義という今の(そして恐らく将来も)状態を解消する方策としての選挙制度改革の提案である。別段極端なことは書いてあるわけではないが、民主主義の実現のための選挙としては、日本の制度は根本的に不公平であることも理解できるはずだ。形だけは民主的にみえはするが、ゆがんだ結果しか生み出せない制度になっていることに多くの人は気付いてもいない。しかし政治家にも既得権があるので(何しろ現行の制度で当選した人々だから、制度を変えると自分に不利になる可能性が高い)、この改革はやはり容易ではない。
 何をとっても絶望度は高いが、これを理解できる人が増えることは悪いことでは無い。そうしてその理解者でなければ、日本の明るい将来は絶対に開くことは出来ない。仲間になるか敵になるか。それは自由だが、仲間が増えなければ、要するに破滅するだけのことだろう。残された時間はあまりにも少ない。そうして、たぶんこの本は、やはりあまりいい評判にはならないだろう。手遅れにならなければ分からない人々には、最悪の結果でしか分かりえない感情があるのだろう。人間と日本人の愚かさを知るのは、この国に暮らす最小限のリテラシーだと思うのだけれど…。
コメント (2)
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