カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

詐欺だけど人助け   夢を売る男

2016-03-02 | 読書

夢を売る男/百田尚樹著(幻冬舎文庫)

 自分の本を出版して売りたいという欲求にあわせて、自費出版に毛が生えたような手法で著者に金を出させ急成長する企業、主にその出版社で働く敏腕部長の活躍を描いた作品。まず、文学賞などを設けて原稿を集め、落選した人間に惜しい作品なのでぜひ会社として出版したいが、自己負担もあるということで金を出させるのである。ほとんど詐欺まがいのやり口だが、小説とはいえ、なるほどという説得力がある。そうしていくつかのモデルで出版に至る経緯を描く。しかしライバル会社が登場し、同じような手法でありながら、さらに顧客獲得に容赦が無い実態を知る。そこで起死回生の奥の手を使うことにするのだが…。
 このやり口の汚い敏腕部長は、過去には大手の出版社の編集者として働いていた経緯があり、実は、本に対しての愛情が人一倍強いということも後々明らかにされる。金儲けのために詐欺まがいの商法に手を染めているようでありながら、現状の出版事情の何もかもに精通している。そうして、本当にこの現状を憂いながら、本の出版という夢の事業を、形はどうであれ実現させているということが、段々と分かっていく。基本的にはコメディなのだが、著者自身が置かれている立場も、文中でしっかり皮肉ってみたりしている。つまるところ売れなくて素晴らしい作品というのは歴史的にも存在することは無く、残るものは必ず何か優れたものがある。時々くだらない作品も売れたりはするが、後世に残ることはやはり無いのである。
 面白く読んだわけだが、もちろんこれは僕自身にも言及されていると考えられる文言も多い。昨今の出版事情は、厳しいを通り越して、ほとんど不毛化している。いまどき小説などというマイナーな文化に接しているような人間というのは、実はほとんど存在していないのだ。僕も実はほとんど読まないが、そういう僕であっても、平均的な日本人の数倍は読んでいるかもしれない。そうであるのに、文学賞に応募する人間は、年々増えているのである。読むべき人間は居なくなっているのに、読まれるべきだという作品を書く人は増え続けているのだ。出版まで至らなくても、ブログのようなものに記事をせっせと書くような人間もごまんといる。さらに毎日更新する酔狂さだ。まさに僕のことだが、そういう人間がいるからこそ、このような詐欺まがいの出版社が生きていけるということなのだ。
 批判され揶揄されている立場ながら、まったくその通りだと思う。このような歪んだ社会が日本には存在し、多くの人は指摘すらしないが、放置しているのが現状なのだ。騙される人間が悪いということは必ずしも言えないが、気分良くだましてくれることで、お金はかかることかもしれないが、実は出版が人助けになっているということも言える。まったく妙なコメディだが、創作物語とは言いながら、現在の出版を辛辣に描ききっていることは、それなりに意義深いのではあるまいか。
 さて、このような作品を読んだ後、お前はこれからどうするんだと問われると、まあ書いちゃうんだから仕方ないよな、というのが正直な思いだ。自己顕示欲が強い? まあ、そうだろう。エゴの塊? うーん、ま、そういうこともあるな。でもまあブログがあるのに、自己負担して出版するかと言われたら、フツーにNOなんだけれど。そのあたりは度々ブログには書いてきたとは思うんだけど、たぶんこの本のような見方を一般の人がするとすると、やっぱりちょっと違うのかもしれないとは思う訳だ。当たってるけど違うことも多い。人間というのはそれくらい変で、ちょうどいいと思いますけどね。
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