カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

脱北者の夢とは

2015-12-16 | 境界線

 脱北者を追ったドキュメンタリーを観た。
 現在はシリアからの難民問題が特にニュースになっているが、北朝鮮から逃げてくる人々は基本的に難民とは言わない。韓国と北朝鮮は事実上休戦している状態であるが、そういうことも背景にあるかもしれない。また政治的に虐げられている状態といえども、切迫した命の危険性が無い場合でも国外逃亡するということも含めて、区別しているのかもしれない。また、日本での難民受け入れの慎重さもあって(難民であれば人道的に国際ルール上は受け入れなければならないと基本的にはされている)あえて難民ニュアンスを避けている可能性もある。議論は待たれるところだが、世論的に日本は脱北者を対岸の火事的に傍観しているということは言えるかもしれない。
 北朝鮮と韓国は地続きである。また北朝鮮と中国東北部も地続きだ。日本的な地理だとイメージしにくいが、そのような国境の状態がまずはある。さらに朝鮮語というのは、当たり前だが北も南も同じ言語だ。また中国東北部には朝鮮語を話す地区もある。朝鮮の歴史から考えると当たり前かもしれないが、飛び地で言語が共有できるという背景がある。言語の壁は人間が生きていくうえでの一つの障害だが、他国に出ても、その障害の一つが無いというのは、動機の一つとは考えられる。
 脱北者の個人にはさらに複雑な事情があろうが、それでも国外逃亡にはかなりにリスクがある。見つかれば命の保証すらない。また事情によっては、北朝鮮に残された家族もどうなるかわからない。いかに自分の存在が分からないまま国内から消えることが出来るか。さらに逃亡後、いかに生きていくか。いつまでも気の抜けない日々は続くのだ。
 人道的な立場から支援している人たちもいるが、脱北をサポートすることを仕事としている人々もいる。北朝鮮のお金の価値から考えると、莫大な借金を背負って逃げてくる人もいる。個人が個人の事情だけで逃げている場合だけではなく、家族や親せきなどから支援を受けて、いわば代表として逃げている人もいるようなのだ。
 レポートでは何人かを取り上げていたが、その中の若い男性は、韓国での単純作業の労働が合わないらしく、不満が募り暴力事件を起こして警察に捕まったりしていた。また再起をかけて頑張り直すという感じではあった。
 一度中国へ逃げた後に韓国へ入国するというのが、やはり一般的という感じではあった。先の言語の問題もあるし、恐らくだが、安い外国人労働力を欲する市場が存在するらしい。習慣も近いものがあろうから、他の外国人労働者よりなじみやすいのだろう。
 しかしながら一番需要があるのは他ならぬ若い女性で、要するに夜の街で働く人が大多数であるようだった。言葉が通じる上にそのような仕事に就くことを、ある程度了解しやすいということがあるのではないか。また脱北者が集団でアパートなどを共同のねぐらにしているということもあるようで、その中でも若い女だけを集めて共同生活させるというのが、トラブルが少ないのかもしれない。共同で自炊して節約生活をしている。男のように暴力事件を起こすとか酒におぼれるとかギャンブルをするとか、まあ、そういう危険が少ないということもあるのではないか。見つかればそれなりにリスクがあるが、お互いにメリットがあるので外に情報が漏れにくい。女性というだけで商品価値があるというのは万国共通だから、若い時代に一定期間文句も言わずに働いてもらえるということに、確かな市場価値が見出されているという感じかもしれない。
 中にはそういう生活から貯金をし、勉強をして学校へ入り直し、就職し直す人もいるようだった。辛抱強く段階を経て努力するような、道筋の一つであるともいえるかもしれない。
 そのようにして韓国社会になじんでゆき、今後はどうするのかという質問を受けると、ほとんどの人はまた北朝鮮へ帰るのが夢だという。だんだんとしあわせな生活を手に入れるようになればなるほど、自分だけがしあわせになることが許されないという気持ちになっていくのだという。今はとにかく働くだけ働いて(たぶん何らかの方法で仕送りをして祖国の家族を助け)、そうしてある程度の役割を果たした後は、また祖国へ戻って家族と暮らしたいというのだった。
 最初はちょっと理解しがたい気分だったが、それはたぶん本心なのだろう。人間の社会が残酷なのは、そのような個人をとりあえず無視できるほどの、別の個人の関心問題かもしれない。もちろんこれを見た個人に何かできるわけではない。だからこそ脱北という選択をしてでも何とか生き抜こうという人がいるのであろう。
コメント
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