植生を語ること

2007-03-27 | 読書
●図説 日本の植生/沼田眞、岩瀬徹/講談社学術文庫/2002年2月10日発行/1100円
 植生の研究家というのは凄いなというのが、第一の感想である。個々の樹木や樹種のことをあれこれ言うことは素人でもそれなりに出来る。しかし、本書のように日本の植生を語るとなると、専門的知識と経験がないと手も足も出ない、素人の遠く及ばぬ域のことと思われた。
 気象(寒暖、風雨、雪・・・)、地形(山、谷、崖、平野、川、湖、湿地、海、砂・・・)、山の大小・高低・種類(火山・・・)、土質(石、砂、土、塩分・・・)、緯度、時の流れ、季節、人間・動物による影響、それから、植物自体のもつ性質、遷移のこと、あまたの要素がからまりあっての植生の実態である。しかも、それぞれの現地に足を運ばなくてはならない。それには自然、植物が好きでなくてはならない。しかも、若いうちから時間をかけて知見を集積しないと駄目である。私には、既に出来ないことだと思った。
 群れとしての植物の生態が、豊富な写真・図表をともなって語られている。見たことのあるような風景写真を、「そういうことなのか」と、改めて、見つめる。 後半には、多くの草が登場する。草への関心と知識があったら、もっと実のある読書になったのにと思った。
 「都市の緑」について述べられている箇所に、千葉県市川市の旧市街地のことが記されていた。「過去の砂州の上に発達したものであるが、古いクロマツ林をそのままとり込んで、住民と共存した形となっている。道路の方がマツを避けているため曲がりくねっていて不便さはあるが、いまなおみごとな緑の景観を保っている」とある。そして、その風景写真が載っている。私たちの暮らし方のことが思われる。人間による自然破壊のことは、ありのままの実際が、たんたんと述べられている。そんな本である。

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