風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「いつか君に出会ってほしい本」

2023-07-05 | 読書

「中学生向けの読書案内」というコンセプトで膝を打ち、
「それでも(表現は)手加減しない」に深く頷いた。
そして読み始めたら、紹介された本以上に本書に夢中になった。
中学生ではなく、いいおっさん(なんなら爺さん)なんだけど😅

自分が小学生〜中学生時代に読んだ懐かしい本が満載。
読もうと思っていて、結局縁がなかった本も。
その存在を忘れていた本などもたくさん紹介されていて
読んだときの、ワクワクしたり、沈み込んだり、泣いたり、
そして考えさせられたりした感情が思い出されてきた。
もちろんここで紹介されているのは
私の年代が親しんだような、ある意味古典的な本ばかりじゃない。
白岩玄さんやドリアン助川さん、又吉直樹さん、西加奈子さんなど
現代の話題作もたくさん取り上げられている。
(今、NHKドラマで話題の中島京子さん「やさしい猫」も)

共同通信のベテラン記者・・・というより
管理職を経て編集委員の
会社幹部とも言える田村文さんが続けてきた連載は
その回数なんと560回を超えるという。
すげぇ😅

子どもの頃や若い頃に読んだ本も
たぶん今読み返すとまた違った感慨を持つんだろうなぁと思う。
自分の世代が子ども〜若者〜壮年〜中年〜爺いと変わり
親になり、孫を持ち・・・と立場も変わってきているので
作品の中で自分を投影する登場人物も変わるのだろう。
もちろん昔とはたぶん視点も違うので
例えばピッピにハラハラすることはないだろう(笑)
(「長靴下のピッピ」が子どもの頃大好きでした)

ページをめくるたびに
再読したい本、新たに読みたい本がどんどん増える。
いやー、困ったなぁ😁

「いつか君に出会ってほしい本」田村文:著 河出書房新社

amazonでのご購入はこちらから。

 
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「グレースの履歴」

2023-06-09 | 読書

NHK-BSPで放送されたドラマが心に残ったので、
原作となった小説を探していた。
結構前に発行されたものだったようだが、
ドラマ人気を受けてこのたび重版となったものらしい。
思いの外厚い本で中身が濃い。

ドラマは主人公と亡くなった彼の妻にフォーカスし
2人をつなぐホンダS800を大きく扱っていた。
主人公が会った人たちの存在感もそれなりにはあったが
ストーリーの軸が太い感じ。
しかし原作の方は、ドラマの主軸が縦糸で
関わる人々が横糸になってストーリーが織り上がっている。
登場人物ひとりひとりの人生もまた濃い。

元々テレビの人気番組のプロデューサーであり、
なおかつ脚本家であり、映画監督であるこの小説の著者自身が
ドラマの方も脚本&演出を行っているのだから
テーマやストーリーのキモももちろんブレはないし
なんなら小説がドラマを補完しているようにも感じるので
(本当なら逆なんだろうけど、原作がエピソード的にも読める)
これはある意味メディアミックス作品なのではなかろうか。
秀作ではある。

ドラマで広末涼子さんが演じた役と主人公とのシーンが
静かに演出されたドラマより小説の方が濃密だと感じたのは
彼女の人生も丹念に描写しているせいだろうな。
彼女も含め、登場人物たちはみんな
それぞれの心の傷や辛さなども抱えながら良い人生を生きている。
自分ももう少ししっかり地に足をつけた人生を歩まなきゃなと
本書まで読み終えてふと思った。
ドラマで宇崎竜童さんが演じた老エンジニアは
ちょっとかっこよすぎだけどね😅

本書には、各各章ごとに
本田宗一郎さんにまつわる「言葉」が取り上げられている。
心に留まった言葉をいくつか自分のためにメモ。

「大体、大人というのは過去を背負っている
 過去を頼って、良い悪いを判断する
 私はこれが一番危険であるとみた」

「『チャレンジ』して失敗を恐れるよりも
 『何もしない』ことを恐れろ
 どだい失敗を恐れて何もしない人間は最低なのである」

「人間にとって『出会い』は大事な条件だ
 しかし出会っても、こっちが好きにならなければ相手はついてこない」

「グレースの履歴」源孝志:著 河出文庫

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「中原中也との愛〜ゆきてかへらぬ」

2023-05-20 | 読書

10年前に読んだ本を再読。
ひとりの女を巡る友人同士の男2人の物語は
エリック・クラプトンとジョージ・ハリソンや
谷崎潤一郎と佐藤春夫などが知られている。
その恋でクラプトンはレイラを書き、
佐藤春夫は秋刀魚の歌を書いた。
それらの話は創作の原動力となったのだが
少なくとも泰子のしたたかに生きる力の前では
純粋な中也など簡単にあしらわれる存在だったのだろう。
本書も泰子と中也との関係はほぼ最初の部分で終わり、
あとは事あるごとにつきまとう
少々めんどくさい男としてしか中也は出てこない。
でもそんな不器用で世間知らずの中也に、
個人的には親近感を覚えるんだよなぁ。

「中原中也との愛〜ゆきてかへらぬ」
長谷川泰子:談・村上護:編 角川ソフィア文庫

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「街とその不確かな壁」

2023-05-09 | 読書

3月末、最近感じたことを岩手日報論壇に投稿したところ
思いがけず3千円の図書カードが送られてきた。
なんというタイミング、なんというドンピシャの金額!
ということで「買うのはしばらく先になるかな」と思っていた
話題の本書をすぐさま買うことができた。
3千円の図書カードを出して買い、残高30円😅

村上春樹さんの作品はほぼ読んできたのだが、
好きな作品群と、読み通すのに苦労した苦手な作品群があった。
前者は「風の歌を聴け」「ノルウェイの森」
「国境の南、太陽の西」「1Q84」「騎士団長殺し」など。
後者は「羊をめぐる冒険」「ねじまき鳥クロニクル」「海辺のカフカ」のほか、
「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」などだ。

「若い頃に書いた『街と、その不確かな壁』の書き直しのつもりで
 『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』を書いた」
と村上さんはあとがきに書いた。
そしてそれとは違うアプローチが本作だと。
でもね、結局理解し切れなかった「世界の終わり・・・」とは違い、
本作は私の心とシンクロした。
「ノルウェイの森」や「国境の南、太陽の西」を思い出させる場面もあり
特に第2部の最後の章から第3部は切なく読んだし、
第3部を読んでいる途中からは
「もしかしたらこれは自分のことを書いた物語かも知れない」
とすら思った。
相変わらず「喪失」を描く作家だと思って読み進めていたが、
本作はもしかしたら「再生」の物語かも知れない。

人は年齢とともに変わっていくことがある。
食べ物の好みも、付き合う友人たちも、
よく聞く音楽も、そして読む本も。
この歳になった今、
もう一度「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を読めば
理解できるようになっているのかな?
再読してみようかな。

「街とその不確かな壁」村上春樹:著 新潮社

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「ネット右翼になった父」

2023-05-03 | 読書

まいった。
ネット右翼の思考や拡がりなどを危惧していたし
そういう人たちは意外に高齢者が多いとも聞いていたので
自分も高齢者カテゴリーに片足を突っ込むものとして
興味があって読み始めた本だったけれど
最後の最後で見事などんでん返し。
この結末は全く想像していなかった。
およそ2/3ぐらいまでは
著者のスタンスも含め、納得しながら読んでいて
なぜネット右翼に?・・・という分析がスリリングだが、
「定食メニュー」のようなネット右翼同様
リベラルもまた「定食」になってはいないか?の問いには
一瞬愕然とし、思わず自省。

私と著者は13歳、そして著者の父親とは14歳違うから
私は双方のちょうど中間世代だからなのか、
どちらの気持ちもよくわかるし、
当時としてはかなりクレバーでインテリジェンスを感じさせる
クリティカルシンキングの父親の考え方だったからこそ
晩年のその姿が高齢者世代同士として物悲しい。
それでもジェンダーや性的マイノリティについては
著者の父親よりは私はまだ柔軟に受け止められていると思う。
週刊金曜日の連載を行ってよかった。
そして最後の著者の悔恨には息子の立場でも泣けてきた。

本書は帯にある通り
「家族再生の道程」なのだが
左右の思想についても、改めて考えさせられる良著。

鈴木大介:著 講談社現代新書

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「光まで5分」

2023-04-25 | 読書

私が作家買いするひとりである著者が書いた
私にとって憧れの地、沖縄を舞台にした作品と知ったならば
これは「読みたい」では済まない。
「読まないければいけない」と急かされるように手に取った。

それまで生まれ育った北海道を舞台とした作品しかなかった著者。
しかしちゃーんとあの南国の空気感が最初から感じられる。
でも不思議なことに暑さは感じないんだなぁ。
本人も何かのエッセイで書いていたけど
沖縄が舞台なのにどこかひんやりとした空気感。
特に主人公が穏やかでいられた「暗い日曜日」での生活は
爽やかな高原の風が吹いて来そうな感じすらある。
奥武島でのお婆との時間も同じような雰囲気なのだが
ここが亜熱帯だと思い出させる暑く湿度があるのは
唯一、南原の存在だけだ。

それにしても、桜木さんの作品を読むと
どうしてこんなに体から力みが抜けるんだろう。
どの作品も全体的に暗く、どんよりしたイメージで
決して元気付けられるような内容でもないのだが
「あ、もしかしてこのままでいいのかな」
と思わせてくれる。
上ばかり見たり、走ったりするばかりが人生じゃない。

「金のやり取りがないと、金より面倒なものに踊らされる」
なるほど。

「光まで5分」桜木紫乃:著 光文社文庫

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「日本語の発音はどう変わってきたか」

2023-04-19 | 読書

バツグンに面白い本を見つけてしまった😁
これまで、興味があった日本語文法、語彙史などのほか
元々の専攻だった方言においても、言語地理学的に
どこか「記号としての言葉」に重きを置いて語ってきた。
しかし、方言の音声学的なアプローチにも
エビデンスを確認できないまま興味は以前から持ってはいた。


本書がそのエビデンスとなった。
原日本語は8つの母音を持っていたという話は
「はじめに」冒頭からいきなり出てくる。
第2の「イ」「エ」「オ」だ。
結論に至るまでの論考は端折るが、
やはり東北や山陰に残る8つの母音の発音は古代日本語だったらしい。

ところで、
奈良時代「h」を「p」、平安以降「f」と発音していたことは
これまで得た知識で知ってはいたが
録音機もなかった時代の発音がどうして今わかるのかという
第1章の冒頭に書かれている疑問の答えが眼からウロコ。
なるほど、面白い。
日本語音声史を研究する者は、
日本語だけ追いかけていてもダメってことね。
そしてそれは発音だけの問題じゃなくなる。
仮名遣いについての藤原定家や契沖、本居宣長たちによる
地道な研究結果が今も生きている。
「あいうえお」の50音図のルーツが
9世紀のサンスクリット学習ツールという話にはひっくり返った。
短歌の字余りの秘密に至っては
全く想像もしていなかった内容で言葉も出ない。

個人的に一番面白かったのは四つ仮名と言われる
「じ/ぢ」「ず/づ」の使い分けと発音。
現代はまったく同じ発音なのだが、中世までは違ったようだ。
詳しくは本書を読んでほしいが、その歴史的経緯が面白い。
そしてなんと「ぢ」「づ」は「じ」「ず」とは違い
最初に軽い鼻音性があったのだという。
はい、東北人はすぐにわかりますね。
「ンぢ」「ンず」「おやじ」→「おやんず」ってやつね。
(「じ」の「ず」への変化は「四つ仮名混同」と言われる由)
奈良時代発音から平安、鎌倉を経て室町時代へ
そして近世に至るまで続いた発音変化が
どうして、どのように行われたかについては
とてもわかりやすく、本書で細かく解説されている。
お読みになる際は、周囲に人がいないことを確認した上で
実際に口を動かしながら発音してみるとよりわかりやすいだろう。
日本語音声史をオーソライズしたと言える本書は、
私的には永久保存版。

「日本語の発音はどう変わってきたか
 〜『てふてふ』から『ちょうちょう』へ、音声史の旅」
釘抜享:著 中公新書

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「エゴイスト」

2023-03-29 | 読書

映画も評判だが、見逃してしまったので本を読んだ。
愛を自分のエゴと考えるほどの優しさと繊細さ。
でもね、そのエゴは相手を思ってのことじゃないかな。
もちろん一緒に居たいという望みのための行為だったとしても
それは相手も同じ気持ちだからこそ甘えられた。
どちらの道を選んでも後悔はきっとある。
ならば身を寄せ合う道を選んで正解だったのだと思う。

震災の時もよく言われたことだけど、
人間、次の瞬間何があるかわからない。
今の正直な気持ちを伝えずに会えなくなる後悔よりは
伝えたいことがある時に、会いたいと思う時に
伝えるべきだし、会うべきだというのが私の考え方。
それが自分のエゴだとしても。

著者の実話に基づいた小説とのこと。
本人は映画化を目にすることなくこの世を去ったという。
奇しくも映画の主人公で著者自身を演じたのは
同じ大学の後輩にあたる鈴木亮平さん。
著者のことを調べ、友人たちにも会って役作りしたとのこと。
映画も見なくちゃ。

「エゴイスト」高山真:著 小学館文庫

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「クリエイティブツーリズム〜『あの人』に会いに行く旅」

2023-03-22 | 読書

数人の著者による実例集だが
編者の友原嘉彦氏の「まえがき」で早くも首肯。

「本書は観光についてまったく新しい視点で書かれました。
 一言で申し上げれば
 『クリエイティブな人が観光資源』だということです。
 景色が美しいとか、料理が美味しい・インスタ映えするだとか、
 そういうことは二の次です。
 『おもしろい人に会いに行く旅』の研究です。
 (中略)
 地域に『いる人』を挙げ、その人が観光資源となる。
 その人に会いたい個人が来る、通う。
 そうした内外の個人の関係を重視します」

もうこの一節だけで100%アグリーだ。
現在私は花巻市の移住ガイドブックとして
電子ブック形式で「花巻ひと図鑑」を作り、毎年更新している。
「ひと図鑑」にした理由はこの「まえがき」のとおりだ。
(本書は観光で「花巻ひと図鑑」は移住が目的だが
 基本的に「人を惹きつけるのは人」というコンセプトは同じだ)
まったく知らない、それまであまり興味がなかったまちでも
そこに会いたい人、興味ある人がいれば行ってみたくなる。
これは現在進行形のプレーヤーでもいいし、過去の人でもいい。
例えば花巻は宮沢賢治が生まれ育ったまちとして知られるが
賢治さんが歩いた道、賢治さんが感じた風を求めて
毎年たくさんの観光客が訪れる。
それもまた「クリテイィブツーリズム」のひとつだろう。

本書でいくつか紹介されている事例はどれも興味深いが
中でも最も興味深く読んだのは
「第6章 下関市におけるゲストハウスの新展開」だった。
サブタイトルとして
「クリエイティブツーリズムのポテンシャルを探る」
と題され、クリエイティブクラスと称されるプレーヤーたちに
サードエリアを提供しているという事例。
もしかしたら今花巻もその途上にあるのではないか?
高校生、大学生たちや20代、30台を中心に、
ここ数年で顕著となってきた花巻のポテンシャルを活かしつつ
本書の事例から学ぶことにより
現在の方向性をさらに推し進めることができれば
もっとおもしろいまちになって行きそうな気がする。
元々花巻は観光資源をありすぎるほどたくさん持っている。
ただそれらがマネジメントされることなく
ネットワークを作ることなくバラバラにプロモートされている。
この新しい波を使ってうまくマネジメントできれば
観光も、関係人口増も、自然に図っていけるようになると思う。

「クリエイティブツーリズム〜『あの人』に会いに行く旅」
友原嘉彦:編・著 古今書院

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「TRY48」

2023-03-07 | 読書

奇想天外、奇々怪々、抱腹絶倒、阿鼻叫喚
場面設定も突飛なら、ストーリー展開も自由奔放。
登場人物たちも奇怪で、読み初めは大いに面食らった。
なにせ寺山修司や東由多加をはじめ、
お腹や首筋に傷が残る三島由紀夫まで出てくるのだから。

でもね、読み進めるとその裏に重いテーマが横たわっていた。
アイドルデビューしたメンバーたちは
現代社会の底辺で様々な理由で苦悩している人々だし、
ドタバタ劇には隠された意味がある。
最後まで読んでそれらがわかる。

それにしても著者が持つ膨大な知識には心から驚いた。
天井桟敷や状況劇場のエピソードからサリンジャー、ワーグナー、
そしてベンヤミン、藤原定家まで。
特に定家の「存在しないものの美学」には得心。
これって本当に三島由紀夫が書いたの?
最後にはジェンダーの問題を読者に突きつけてくる。
本書はとびきりの奇作だ。

「TRY48」中森明夫:著 新潮社

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「細野晴臣と彼らの時代」

2023-02-21 | 読書

伝説のバンドであるはっぴいえんどやティンパンアレー、
そして世界的に活躍したYMO(イエローマジックオーケストラ)など
数々のバンドメンバーであり、プロデューサー、コンポーザーの
細野晴臣さんの評伝を中心としながら
その周りで活躍した仲間たちのことも詳しく取り上げられている
「日本のポップス史の集大成」的書籍。
500ページ超の大冊ながら、一気に読んでしまうほどの内容の濃さ。
実はファームプラスのガッツくんから借りた本だが
自分でも改めて買って、蔵書にしようかとすら考えている。

内容的には驚くことばかり。
これまで勝手に抱いていたイメージとはまるで違う細野さんがいる。
年齢的にも、存在的にも、どのバンドにおいてもリーダーとして
すべてシナリオを描き、方向性を定めてきた方だと思っていた。
根っからのカリスマプロデューサーだと思っていた。
どのバンド、どのアルバムも、計算ずくで
音楽シーンをリードしてきた方だと思っていた。

しかし・・・
小坂忠さんに誘われてザ・フローラルに入り、
エイプリルフールに変名してアルバムを出すも忠さんがいなくなり、
代わりのボーカルとして大瀧詠一さんを入れてバレンタイン・ブルーに。
鈴木茂さんが入ってからそのバンドがはっぴいえんどとなる。
大瀧さんと細野さんが満足してのはっぴいえんど解散後も、
やり切った感がまだなかった茂さんの誘いでできたのがキャラメルママ。
そしてキャラメルママと同じメンバーのままで
バンド→プロデューサー集団となったティンパンアレー。
周辺の雰囲気に流されるままという感じで物事が動いたんだなと。

YMOについても、興味のまま電子音楽とディスコサウンドを組み合わせ
実験的にアルバムをリリースした時にはあまりウケず
アメリカ〜イギリスでコンサートを行い帰国してみるとアイドル扱いに。
それに参った坂本龍一さんが徐々に抜けることとなり散開。
その後の細野さんは環境音楽にどっぷり浸かりながら
スピリチュアルな世界へと手を伸ばしていき、
あるとき目覚めてまたロックバンドの世界に戻ってきたのだという。

なんかさ、音楽ビジネスをどうこうしたいとか、
売れて食べていくミュージシャンを目指すというよりも、
若い頃から次々に好きな音楽が変わっていくたびに
それを追求してきた、ある意味「音楽オタク」的姿が見える。
オールディーズポップスからウエストコーストへ、
ニューオーリンズからワールドミュージックへ、
電子音楽から環境音楽へ、そしてまたポップスへ。
その度に出会い、ともに演奏する仲間たちも
中田佳彦さん、松本隆さんに小坂忠さん、大滝詠一さん、
そして鈴木茂さん、林立夫さん、松任谷正隆さん、ユーミン、
久保田麻琴さん、高橋幸宏さん、坂本龍一さん、矢野顕子さん・・・
そんな「音楽オタク」たちとのコラボによって影響も受けている。
どこか大学のサークル的ではあるよね。

それでもやっぱり大瀧さんとの関係が大きいと感じた。
はっぴいえんどの3年間しか一緒に演奏していないのに
(実際には大瀧さんのアルバムにベーシストとして参加もしている)
ずーっと無意識のうちにお互い意識し合っていたんだろうなぁと。
ところで、上記メンバーのうち、
東京で育ってないのは岩手県出身の大瀧さんと京都の久保田さんだけ。
(矢野さんは青森生まれながら東京で育っている)
あとはみんな都会で生まれ育ち、
立教や青学や慶應など出身の、いわゆるお坊ちゃんたちだ。
とはいえ今のお坊ちゃんたちではない。
世代的に戦後の混沌とした東京を原風景として育ち
高度経済成長とともに原風景が壊されていく喪失感を味わった人たち。
その失われた風景こそが「風街」だろう。
「風街」を心に抱いていない大瀧さんと久保田さん、
心に喪失感を抱え続けてきたその他の人たち。
もしかしたら細野さんと大瀧さんの違いはそこなのかもしれない。

本書を読み終えて、ふと感じたこと。
松本隆さんの宮沢賢治さん好きはつとに知られているが、
それは細野晴臣さんという人こそある意味賢治さんじゃないかと。
世間の評価など気にせず、自分の好きな音楽を追求し続け
その道に迷った時に信仰の世界へと身を投じる。
試行錯誤し、混迷し、戸惑い、手探りしつつ
周囲など気にせずやりたいことをやってきた音楽人生。
その全てが本書に書かれている。

「細野晴臣と彼らの時代」門間雄介:著 文藝春秋

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「月の満ち欠け」

2023-02-01 | 読書


佐藤正午さんを知ったのは、確かまだ私が20代前半の頃。
すばる文学賞を受賞された「永遠の1/2」を読んだ時だった。
それ以来「リボルバー」や「ビコーズ」「恋を数えて」などの
デビューから間もない頃の著作を作家買いして読んだものだ。
その後、しばらく離れていたのだが
最近「鳩の撃退法」が映画でも有名になり、
本書も映画を見る前に読もうと手に取ったもの。
あの年齢とキャリアで直木賞受賞ということにも興味が惹かれて。
東京出張時に、上野駅の三省堂で買い、
帰りの新幹線で一気読みだった。

超常的なストーリーながら
実際に出版されている本なども重要なアイテムとして出ていて
荒唐無稽な物語だとは思うことなく切なく読んだ。
特に最後の方、胸が締め付けられるようだった。
そうだよなぁ。
突然登場した時からやたらキャラが立ってたんだよなぁ😅
時代が行き来するけれど、エンディングもさすが。
私には、死んだ後生まれ変わっても会いたい人はいるだろうか。
というより、それは私だけの感情で、
相手はそう思っているわけではないのではなかろうか。

映画も評判らしいのだが、本書を読んでの印象と
キャストの印象の違いにちょっと当惑したりしている。
あくまで個人的なイメージだが
小山内堅 →(映画)大泉 洋、(私のイメージ)西島秀俊
正木瑠璃 →(映画)有村架純、(私のイメージ)門脇 麦
三角晢彦 →(映画)目黒 連、(私のイメージ)藤原竜也
正木竜之介→(映画)田中 圭、(私のイメージ)山本耕史
小山内梓 →(映画)柴崎コウ、(私のイメージ)黒木 華
緑坂ゆい →(映画)伊藤沙莉、(私のイメージ)佐々木希
どうでしょう。
営業的にはちとキャストが渋すぎるかな?😅
まぁ、まだ映画は観てないから
勝手に判断するのもどうかとは思うけどね。
あくまで個人的なイメージです。

「月の満ち欠け」佐藤正午:著 岩波文庫的

以下はAMAZON

 
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「決壊」上・下

2023-01-29 | 読書


犯罪の裏側にある生育環境の闇。
兄弟間のコンプレックスと、優秀な人間の孤独。
冤罪の被疑者への世間からの攻撃。
老いによる鬱と認知症。
社会が抱える同調圧力と犯罪の連鎖。
たくさんのテーマを内包する問題作だ。
上・下2巻にするほどのページ数があるけれど
描かれる世界が濃いために長く感じない。
そこまでは書かれていないが
死刑制度の是非までも考えさせられる。
ただし、場面によってはちょっと冗長かな。
そう感じるのは長い台詞回しと
章が変わったときの出だし。

「決壊」上・下 平野啓一郎:著 新潮文庫

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「元女子、現男子。」

2023-01-08 | 読書

どんなことでもそうだけれど
当事者でなければわからないことはたくさんある。
例えば左利きの方の不便さ、例えば日本に住む外国出身者の疑問、
例えば男らしさを求められるプレッシャーと女性にとってのガラスの天井。
まして、身を潜めるように生活している性的マイノリティの方々は
出会う機会も少なく、普段ホンネを聴く機会もあまりない。
そう考えて「あなたの身近にもいますよ」ということを知って欲しくて
昨年4月から週刊金曜日で月1度、
「さまざまなわたし〜性的指向と性自認のリアル」を連載してきた。
とはいえ性はグラデーション。
「ゲイの人はこう」「レズビアンはこう」「トランスジェンダーは・・・」
などと定義づけできるわけがない。
トランスジェンダーでゲイという人もいれば
自認の性が特定できない(あるいはしたくない)Xジェンダーもいる。
だから、毎回様々な方を取材もするが
こうやっていろんな人の本も読む。

たくさんの方の話を聞き、いろんな本を読んできたが
そのたびに(というかその人それぞれから)新しい学びがある。
その人それぞれの生育過程があり、思いがあり、苦悩もある。
もちろんそれぞれの考え方も違う。
だから「性的マイノリティ」という言い方をするが
私は「LGBTQ」という表現はしない。
カテゴライズすることに何の意味があるのだろうか・・・
ということも昨年来の取材で学んだ。

人それぞれ・・・
ならばいくら理解しようと思ってもし切れないのではないか?
いや、そんなことはない。
それぞれの方々個人の気持ちを少しでも理解しようと思い、
その人の立場に立って想像し考えることができれば、
少なくとも心を通じ合うことはできるのではなかろうか。
それは性的マイノリティとされる方々ばかりじゃない。
心身の障がいを抱えていたり、辛い生活環境の中にいたり、
何かしらの生きにくさを抱えている人たちみんなに言えることだろう。
もっと身近なことも。
女性はどんな生きにくさを抱えているのか、男性はどうなのか。
こんな仕事の人は?こんな出自の人は?
そんな風に相手を理解しようとする気持ちが
社会の摩擦を少しでも軽減することにつながればと思う。

「元女子、現男子。」木本奏太:著 KADOKAWA

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「日本語からの哲学」

2023-01-03 | 読書

論文で「です/ます」体で書いたら却下されたと嘆く哲学者が
「だ/である」体とは何が違うのかを考察した本。
タイトルはかっこいいけど、ただそれだけを本にしちゃうって
ある意味すごい😅

でも確かに、無意識のうちに使い分けていたけれど
きっちりした法則や規則を考えたことがなかった。
どうやら「です/ます」体は江戸時代に出現したらしいが、
一般化されるまでは「卑しい言い方」とか「田舎者の言い方」とか
現代においては噴飯物の表現である「おんな子どもの言い方」みたいな、
当時としてはかなり蔑んだ扱いを、当時の学者から受けたらしい。
それまでの候文から、言文一致運動を経て
「だ/である」体は演説の文体として定着した明治20年ごろから、
「です/ます」体は同じく明治20年ごろの初等国語教科書から
・・・とのこと。
(それが「子ども向け」と称される原因かと思われる)

本書では「機能」と「効果」に分けて論じられているが
「です/ます」体は主体的、「だ/である」体は客観的な表現という
文献からの引用も行われている。
一方で「です/ます」体は敬語ではないかという論に対しては
「丁寧語ではあるが、丁寧語自体敬語の範疇としては薄い」
という結論を述べている。
最終的には
「です/ます」体は常に読み手を意識する表現で、
「だ/である」体は読み手を意識しない表現とのこと。
主観と客観の違いにも通じる。
なるほど。
でもさ、通常のメディア(新聞、web記事など)は
大抵が「だ/である」体だけど
読み手がいないと成り立たない文章だよね。
考え始めるとなかなか奥が深い問題。

 
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