風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「光まで5分」

2023-04-25 | 読書

私が作家買いするひとりである著者が書いた
私にとって憧れの地、沖縄を舞台にした作品と知ったならば
これは「読みたい」では済まない。
「読まないければいけない」と急かされるように手に取った。

それまで生まれ育った北海道を舞台とした作品しかなかった著者。
しかしちゃーんとあの南国の空気感が最初から感じられる。
でも不思議なことに暑さは感じないんだなぁ。
本人も何かのエッセイで書いていたけど
沖縄が舞台なのにどこかひんやりとした空気感。
特に主人公が穏やかでいられた「暗い日曜日」での生活は
爽やかな高原の風が吹いて来そうな感じすらある。
奥武島でのお婆との時間も同じような雰囲気なのだが
ここが亜熱帯だと思い出させる暑く湿度があるのは
唯一、南原の存在だけだ。

それにしても、桜木さんの作品を読むと
どうしてこんなに体から力みが抜けるんだろう。
どの作品も全体的に暗く、どんよりしたイメージで
決して元気付けられるような内容でもないのだが
「あ、もしかしてこのままでいいのかな」
と思わせてくれる。
上ばかり見たり、走ったりするばかりが人生じゃない。

「金のやり取りがないと、金より面倒なものに踊らされる」
なるほど。

「光まで5分」桜木紫乃:著 光文社文庫

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「日本語の発音はどう変わってきたか」

2023-04-19 | 読書

バツグンに面白い本を見つけてしまった😁
これまで、興味があった日本語文法、語彙史などのほか
元々の専攻だった方言においても、言語地理学的に
どこか「記号としての言葉」に重きを置いて語ってきた。
しかし、方言の音声学的なアプローチにも
エビデンスを確認できないまま興味は以前から持ってはいた。


本書がそのエビデンスとなった。
原日本語は8つの母音を持っていたという話は
「はじめに」冒頭からいきなり出てくる。
第2の「イ」「エ」「オ」だ。
結論に至るまでの論考は端折るが、
やはり東北や山陰に残る8つの母音の発音は古代日本語だったらしい。

ところで、
奈良時代「h」を「p」、平安以降「f」と発音していたことは
これまで得た知識で知ってはいたが
録音機もなかった時代の発音がどうして今わかるのかという
第1章の冒頭に書かれている疑問の答えが眼からウロコ。
なるほど、面白い。
日本語音声史を研究する者は、
日本語だけ追いかけていてもダメってことね。
そしてそれは発音だけの問題じゃなくなる。
仮名遣いについての藤原定家や契沖、本居宣長たちによる
地道な研究結果が今も生きている。
「あいうえお」の50音図のルーツが
9世紀のサンスクリット学習ツールという話にはひっくり返った。
短歌の字余りの秘密に至っては
全く想像もしていなかった内容で言葉も出ない。

個人的に一番面白かったのは四つ仮名と言われる
「じ/ぢ」「ず/づ」の使い分けと発音。
現代はまったく同じ発音なのだが、中世までは違ったようだ。
詳しくは本書を読んでほしいが、その歴史的経緯が面白い。
そしてなんと「ぢ」「づ」は「じ」「ず」とは違い
最初に軽い鼻音性があったのだという。
はい、東北人はすぐにわかりますね。
「ンぢ」「ンず」「おやじ」→「おやんず」ってやつね。
(「じ」の「ず」への変化は「四つ仮名混同」と言われる由)
奈良時代発音から平安、鎌倉を経て室町時代へ
そして近世に至るまで続いた発音変化が
どうして、どのように行われたかについては
とてもわかりやすく、本書で細かく解説されている。
お読みになる際は、周囲に人がいないことを確認した上で
実際に口を動かしながら発音してみるとよりわかりやすいだろう。
日本語音声史をオーソライズしたと言える本書は、
私的には永久保存版。

「日本語の発音はどう変わってきたか
 〜『てふてふ』から『ちょうちょう』へ、音声史の旅」
釘抜享:著 中公新書

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「エゴイスト」

2023-03-29 | 読書

映画も評判だが、見逃してしまったので本を読んだ。
愛を自分のエゴと考えるほどの優しさと繊細さ。
でもね、そのエゴは相手を思ってのことじゃないかな。
もちろん一緒に居たいという望みのための行為だったとしても
それは相手も同じ気持ちだからこそ甘えられた。
どちらの道を選んでも後悔はきっとある。
ならば身を寄せ合う道を選んで正解だったのだと思う。

震災の時もよく言われたことだけど、
人間、次の瞬間何があるかわからない。
今の正直な気持ちを伝えずに会えなくなる後悔よりは
伝えたいことがある時に、会いたいと思う時に
伝えるべきだし、会うべきだというのが私の考え方。
それが自分のエゴだとしても。

著者の実話に基づいた小説とのこと。
本人は映画化を目にすることなくこの世を去ったという。
奇しくも映画の主人公で著者自身を演じたのは
同じ大学の後輩にあたる鈴木亮平さん。
著者のことを調べ、友人たちにも会って役作りしたとのこと。
映画も見なくちゃ。

「エゴイスト」高山真:著 小学館文庫

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「クリエイティブツーリズム〜『あの人』に会いに行く旅」

2023-03-22 | 読書

数人の著者による実例集だが
編者の友原嘉彦氏の「まえがき」で早くも首肯。

「本書は観光についてまったく新しい視点で書かれました。
 一言で申し上げれば
 『クリエイティブな人が観光資源』だということです。
 景色が美しいとか、料理が美味しい・インスタ映えするだとか、
 そういうことは二の次です。
 『おもしろい人に会いに行く旅』の研究です。
 (中略)
 地域に『いる人』を挙げ、その人が観光資源となる。
 その人に会いたい個人が来る、通う。
 そうした内外の個人の関係を重視します」

もうこの一節だけで100%アグリーだ。
現在私は花巻市の移住ガイドブックとして
電子ブック形式で「花巻ひと図鑑」を作り、毎年更新している。
「ひと図鑑」にした理由はこの「まえがき」のとおりだ。
(本書は観光で「花巻ひと図鑑」は移住が目的だが
 基本的に「人を惹きつけるのは人」というコンセプトは同じだ)
まったく知らない、それまであまり興味がなかったまちでも
そこに会いたい人、興味ある人がいれば行ってみたくなる。
これは現在進行形のプレーヤーでもいいし、過去の人でもいい。
例えば花巻は宮沢賢治が生まれ育ったまちとして知られるが
賢治さんが歩いた道、賢治さんが感じた風を求めて
毎年たくさんの観光客が訪れる。
それもまた「クリテイィブツーリズム」のひとつだろう。

本書でいくつか紹介されている事例はどれも興味深いが
中でも最も興味深く読んだのは
「第6章 下関市におけるゲストハウスの新展開」だった。
サブタイトルとして
「クリエイティブツーリズムのポテンシャルを探る」
と題され、クリエイティブクラスと称されるプレーヤーたちに
サードエリアを提供しているという事例。
もしかしたら今花巻もその途上にあるのではないか?
高校生、大学生たちや20代、30台を中心に、
ここ数年で顕著となってきた花巻のポテンシャルを活かしつつ
本書の事例から学ぶことにより
現在の方向性をさらに推し進めることができれば
もっとおもしろいまちになって行きそうな気がする。
元々花巻は観光資源をありすぎるほどたくさん持っている。
ただそれらがマネジメントされることなく
ネットワークを作ることなくバラバラにプロモートされている。
この新しい波を使ってうまくマネジメントできれば
観光も、関係人口増も、自然に図っていけるようになると思う。

「クリエイティブツーリズム〜『あの人』に会いに行く旅」
友原嘉彦:編・著 古今書院

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「TRY48」

2023-03-07 | 読書

奇想天外、奇々怪々、抱腹絶倒、阿鼻叫喚
場面設定も突飛なら、ストーリー展開も自由奔放。
登場人物たちも奇怪で、読み初めは大いに面食らった。
なにせ寺山修司や東由多加をはじめ、
お腹や首筋に傷が残る三島由紀夫まで出てくるのだから。

でもね、読み進めるとその裏に重いテーマが横たわっていた。
アイドルデビューしたメンバーたちは
現代社会の底辺で様々な理由で苦悩している人々だし、
ドタバタ劇には隠された意味がある。
最後まで読んでそれらがわかる。

それにしても著者が持つ膨大な知識には心から驚いた。
天井桟敷や状況劇場のエピソードからサリンジャー、ワーグナー、
そしてベンヤミン、藤原定家まで。
特に定家の「存在しないものの美学」には得心。
これって本当に三島由紀夫が書いたの?
最後にはジェンダーの問題を読者に突きつけてくる。
本書はとびきりの奇作だ。

「TRY48」中森明夫:著 新潮社

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「細野晴臣と彼らの時代」

2023-02-21 | 読書

伝説のバンドであるはっぴいえんどやティンパンアレー、
そして世界的に活躍したYMO(イエローマジックオーケストラ)など
数々のバンドメンバーであり、プロデューサー、コンポーザーの
細野晴臣さんの評伝を中心としながら
その周りで活躍した仲間たちのことも詳しく取り上げられている
「日本のポップス史の集大成」的書籍。
500ページ超の大冊ながら、一気に読んでしまうほどの内容の濃さ。
実はファームプラスのガッツくんから借りた本だが
自分でも改めて買って、蔵書にしようかとすら考えている。

内容的には驚くことばかり。
これまで勝手に抱いていたイメージとはまるで違う細野さんがいる。
年齢的にも、存在的にも、どのバンドにおいてもリーダーとして
すべてシナリオを描き、方向性を定めてきた方だと思っていた。
根っからのカリスマプロデューサーだと思っていた。
どのバンド、どのアルバムも、計算ずくで
音楽シーンをリードしてきた方だと思っていた。

しかし・・・
小坂忠さんに誘われてザ・フローラルに入り、
エイプリルフールに変名してアルバムを出すも忠さんがいなくなり、
代わりのボーカルとして大瀧詠一さんを入れてバレンタイン・ブルーに。
鈴木茂さんが入ってからそのバンドがはっぴいえんどとなる。
大瀧さんと細野さんが満足してのはっぴいえんど解散後も、
やり切った感がまだなかった茂さんの誘いでできたのがキャラメルママ。
そしてキャラメルママと同じメンバーのままで
バンド→プロデューサー集団となったティンパンアレー。
周辺の雰囲気に流されるままという感じで物事が動いたんだなと。

YMOについても、興味のまま電子音楽とディスコサウンドを組み合わせ
実験的にアルバムをリリースした時にはあまりウケず
アメリカ〜イギリスでコンサートを行い帰国してみるとアイドル扱いに。
それに参った坂本龍一さんが徐々に抜けることとなり散開。
その後の細野さんは環境音楽にどっぷり浸かりながら
スピリチュアルな世界へと手を伸ばしていき、
あるとき目覚めてまたロックバンドの世界に戻ってきたのだという。

なんかさ、音楽ビジネスをどうこうしたいとか、
売れて食べていくミュージシャンを目指すというよりも、
若い頃から次々に好きな音楽が変わっていくたびに
それを追求してきた、ある意味「音楽オタク」的姿が見える。
オールディーズポップスからウエストコーストへ、
ニューオーリンズからワールドミュージックへ、
電子音楽から環境音楽へ、そしてまたポップスへ。
その度に出会い、ともに演奏する仲間たちも
中田佳彦さん、松本隆さんに小坂忠さん、大滝詠一さん、
そして鈴木茂さん、林立夫さん、松任谷正隆さん、ユーミン、
久保田麻琴さん、高橋幸宏さん、坂本龍一さん、矢野顕子さん・・・
そんな「音楽オタク」たちとのコラボによって影響も受けている。
どこか大学のサークル的ではあるよね。

それでもやっぱり大瀧さんとの関係が大きいと感じた。
はっぴいえんどの3年間しか一緒に演奏していないのに
(実際には大瀧さんのアルバムにベーシストとして参加もしている)
ずーっと無意識のうちにお互い意識し合っていたんだろうなぁと。
ところで、上記メンバーのうち、
東京で育ってないのは岩手県出身の大瀧さんと京都の久保田さんだけ。
(矢野さんは青森生まれながら東京で育っている)
あとはみんな都会で生まれ育ち、
立教や青学や慶應など出身の、いわゆるお坊ちゃんたちだ。
とはいえ今のお坊ちゃんたちではない。
世代的に戦後の混沌とした東京を原風景として育ち
高度経済成長とともに原風景が壊されていく喪失感を味わった人たち。
その失われた風景こそが「風街」だろう。
「風街」を心に抱いていない大瀧さんと久保田さん、
心に喪失感を抱え続けてきたその他の人たち。
もしかしたら細野さんと大瀧さんの違いはそこなのかもしれない。

本書を読み終えて、ふと感じたこと。
松本隆さんの宮沢賢治さん好きはつとに知られているが、
それは細野晴臣さんという人こそある意味賢治さんじゃないかと。
世間の評価など気にせず、自分の好きな音楽を追求し続け
その道に迷った時に信仰の世界へと身を投じる。
試行錯誤し、混迷し、戸惑い、手探りしつつ
周囲など気にせずやりたいことをやってきた音楽人生。
その全てが本書に書かれている。

「細野晴臣と彼らの時代」門間雄介:著 文藝春秋

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「月の満ち欠け」

2023-02-01 | 読書


佐藤正午さんを知ったのは、確かまだ私が20代前半の頃。
すばる文学賞を受賞された「永遠の1/2」を読んだ時だった。
それ以来「リボルバー」や「ビコーズ」「恋を数えて」などの
デビューから間もない頃の著作を作家買いして読んだものだ。
その後、しばらく離れていたのだが
最近「鳩の撃退法」が映画でも有名になり、
本書も映画を見る前に読もうと手に取ったもの。
あの年齢とキャリアで直木賞受賞ということにも興味が惹かれて。
東京出張時に、上野駅の三省堂で買い、
帰りの新幹線で一気読みだった。

超常的なストーリーながら
実際に出版されている本なども重要なアイテムとして出ていて
荒唐無稽な物語だとは思うことなく切なく読んだ。
特に最後の方、胸が締め付けられるようだった。
そうだよなぁ。
突然登場した時からやたらキャラが立ってたんだよなぁ😅
時代が行き来するけれど、エンディングもさすが。
私には、死んだ後生まれ変わっても会いたい人はいるだろうか。
というより、それは私だけの感情で、
相手はそう思っているわけではないのではなかろうか。

映画も評判らしいのだが、本書を読んでの印象と
キャストの印象の違いにちょっと当惑したりしている。
あくまで個人的なイメージだが
小山内堅 →(映画)大泉 洋、(私のイメージ)西島秀俊
正木瑠璃 →(映画)有村架純、(私のイメージ)門脇 麦
三角晢彦 →(映画)目黒 連、(私のイメージ)藤原竜也
正木竜之介→(映画)田中 圭、(私のイメージ)山本耕史
小山内梓 →(映画)柴崎コウ、(私のイメージ)黒木 華
緑坂ゆい →(映画)伊藤沙莉、(私のイメージ)佐々木希
どうでしょう。
営業的にはちとキャストが渋すぎるかな?😅
まぁ、まだ映画は観てないから
勝手に判断するのもどうかとは思うけどね。
あくまで個人的なイメージです。

「月の満ち欠け」佐藤正午:著 岩波文庫的

以下はAMAZON

 
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「決壊」上・下

2023-01-29 | 読書


犯罪の裏側にある生育環境の闇。
兄弟間のコンプレックスと、優秀な人間の孤独。
冤罪の被疑者への世間からの攻撃。
老いによる鬱と認知症。
社会が抱える同調圧力と犯罪の連鎖。
たくさんのテーマを内包する問題作だ。
上・下2巻にするほどのページ数があるけれど
描かれる世界が濃いために長く感じない。
そこまでは書かれていないが
死刑制度の是非までも考えさせられる。
ただし、場面によってはちょっと冗長かな。
そう感じるのは長い台詞回しと
章が変わったときの出だし。

「決壊」上・下 平野啓一郎:著 新潮文庫

ネット購入は下記から

 
 
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「元女子、現男子。」

2023-01-08 | 読書

どんなことでもそうだけれど
当事者でなければわからないことはたくさんある。
例えば左利きの方の不便さ、例えば日本に住む外国出身者の疑問、
例えば男らしさを求められるプレッシャーと女性にとってのガラスの天井。
まして、身を潜めるように生活している性的マイノリティの方々は
出会う機会も少なく、普段ホンネを聴く機会もあまりない。
そう考えて「あなたの身近にもいますよ」ということを知って欲しくて
昨年4月から週刊金曜日で月1度、
「さまざまなわたし〜性的指向と性自認のリアル」を連載してきた。
とはいえ性はグラデーション。
「ゲイの人はこう」「レズビアンはこう」「トランスジェンダーは・・・」
などと定義づけできるわけがない。
トランスジェンダーでゲイという人もいれば
自認の性が特定できない(あるいはしたくない)Xジェンダーもいる。
だから、毎回様々な方を取材もするが
こうやっていろんな人の本も読む。

たくさんの方の話を聞き、いろんな本を読んできたが
そのたびに(というかその人それぞれから)新しい学びがある。
その人それぞれの生育過程があり、思いがあり、苦悩もある。
もちろんそれぞれの考え方も違う。
だから「性的マイノリティ」という言い方をするが
私は「LGBTQ」という表現はしない。
カテゴライズすることに何の意味があるのだろうか・・・
ということも昨年来の取材で学んだ。

人それぞれ・・・
ならばいくら理解しようと思ってもし切れないのではないか?
いや、そんなことはない。
それぞれの方々個人の気持ちを少しでも理解しようと思い、
その人の立場に立って想像し考えることができれば、
少なくとも心を通じ合うことはできるのではなかろうか。
それは性的マイノリティとされる方々ばかりじゃない。
心身の障がいを抱えていたり、辛い生活環境の中にいたり、
何かしらの生きにくさを抱えている人たちみんなに言えることだろう。
もっと身近なことも。
女性はどんな生きにくさを抱えているのか、男性はどうなのか。
こんな仕事の人は?こんな出自の人は?
そんな風に相手を理解しようとする気持ちが
社会の摩擦を少しでも軽減することにつながればと思う。

「元女子、現男子。」木本奏太:著 KADOKAWA

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「日本語からの哲学」

2023-01-03 | 読書

論文で「です/ます」体で書いたら却下されたと嘆く哲学者が
「だ/である」体とは何が違うのかを考察した本。
タイトルはかっこいいけど、ただそれだけを本にしちゃうって
ある意味すごい😅

でも確かに、無意識のうちに使い分けていたけれど
きっちりした法則や規則を考えたことがなかった。
どうやら「です/ます」体は江戸時代に出現したらしいが、
一般化されるまでは「卑しい言い方」とか「田舎者の言い方」とか
現代においては噴飯物の表現である「おんな子どもの言い方」みたいな、
当時としてはかなり蔑んだ扱いを、当時の学者から受けたらしい。
それまでの候文から、言文一致運動を経て
「だ/である」体は演説の文体として定着した明治20年ごろから、
「です/ます」体は同じく明治20年ごろの初等国語教科書から
・・・とのこと。
(それが「子ども向け」と称される原因かと思われる)

本書では「機能」と「効果」に分けて論じられているが
「です/ます」体は主体的、「だ/である」体は客観的な表現という
文献からの引用も行われている。
一方で「です/ます」体は敬語ではないかという論に対しては
「丁寧語ではあるが、丁寧語自体敬語の範疇としては薄い」
という結論を述べている。
最終的には
「です/ます」体は常に読み手を意識する表現で、
「だ/である」体は読み手を意識しない表現とのこと。
主観と客観の違いにも通じる。
なるほど。
でもさ、通常のメディア(新聞、web記事など)は
大抵が「だ/である」体だけど
読み手がいないと成り立たない文章だよね。
考え始めるとなかなか奥が深い問題。

 
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「文藝春秋 創刊100周年 新年特大号」

2022-12-29 | 読書

いつぞや、新聞に抜粋が掲載された
「平成の天皇皇后両陛下大いに語る」の記事が面白そうで
何年ぶりかで文藝春秋を購入してみた。
著者の保坂正康さんの昭和史書籍を何冊か興味深く読み
深く学ばせてもらっていた経緯もあったのだが
両陛下も保坂さんの書籍を読んでいたこと、
そればかりか、半藤一利さん、磯田道史さんらとともに
保坂さんも何度か皇居に呼んで語り合っていたこと、
昭和史、特に満州事変の歴史に興味を抱いておられたことなど、
驚きの話が満載だった。
「早く風呂に入れ」という家人からの言葉に生返事をしながら
この記事を一気読みしてしまった。

ところが、さすがに創刊100周年特別号。
他の記事も興味深く面白い記事ばかり。
そうか、ネットで話題になっていた「SMAPのいちばん長い日:という
鈴木おさむさんによるSMAP解散の裏話は本書の記事だったか。
松本清張の「日本の黒い霧」と「昭和史発掘」も
ちょうどNHKで帝銀事件を取り上げる番組の宣伝を見たので
我が家的にもタイムリーな記事だった。
林真理子新理事長による「私は日大をこう変える!」も
このタイトルを先に知っていたら
この記事を読むだけでも本書を買っていたかもしれない。
先日最終回を迎えたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」についての
「鎌倉殿vs朝廷」や小栗旬さん、三谷幸喜さんによる裏話も
とても興味深いものだった。

そして本書の1番の目玉記事は「101人の輝ける日本人」という
明治、大正、昭和、平成を彩った人物の、身近な方々からの裏話。
昭和天皇から伊藤博文、宮沢賢治、坂本九、山口百恵、瀬戸内寂聴、
辻政信や麻原彰晃、江川卓に羽生結弦、ビートたけしまで。
よくもまぁこれだけの証言を集めたものだと感服した。
しかもちゃんとひとりひとりの人となりがわかる、
知らなかったエピソードばかり。
昭和天皇や井伏鱒二、力道山、王貞治の話は
知られざる素顔が垣間見える話だった。

ひとつひとつを1号あたりの目玉特集にしてもいいぐらい
キャッチーで深い記事が並んでいる。
それを1冊に詰め込んであることを考えると
これで1500円はとんでもなく安い。
買って呼んだ本の満足感は、本書が今年間違いなくNo.1。

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「ロシアパン 」

2022-12-28 | 読書

子どもの頃、親父の友人に「まさすけさん」がいた。
親父よりも少し年上、身なりに気遣っているようには見えない。
一体何をやっている人かわからない感じの人だった。
時々ふらりと家にやって来て、
しばしお茶を飲みながら親父と語り合って帰ってゆく。
ある時などは、呼び鈴を鳴るので出てみても誰もおらず、
小1時間ほど経ってから「ちょっと散歩していた」と
改めてやって来たりもする自由な人だった。
母のことも、私たち子どものことも目に入っていない感じで
親父との話もなんだか禅問答のように聞こえたものだ。

高校生ぐらいの頃だったか
「まさすけさんは童話作家なのだ」と親父に聞いた。
「『ロシアパン』という物語が代表作」だと。
その時は「不思議な題名だ」と思い、記憶していた。
親父の文学仲間に高橋知足さんという、
障害児教育に力を注いだ教員だった方がいて、
親父が死んだ後作った親父の遺稿集にも寄稿してもらったが
どうやら「まさすけさん」は知足先生のお兄さんとのことだった。
変わり者で知られていたらしい。

先日、ふと「まさすけさん」のことを思い出した。
知足先生の兄弟なら名字は「高橋」だろうと
ネットで「たかはしまさすけ ロシアパン 」で検索してみた。
そこで見つけたのが写真の本。
なんと国語の教科書に、
高橋正亮(せいりょう):著「ロシアパン 」が載っているという。
(本書は2006年発行の本なので、現在も掲載されているか不明)
古本だったが、さっそく買って読んでみた。

舞台は「まさすけさん」が子どもの頃の花巻(と思われる小さな町)。
恐らく大正半ばごろが舞台なのだろう。
ロシア革命で祖国を追われたらしいロシア人一家が
主人公の家の近所に引っ越してきて
「オイシイ オイシイ ロシアパン カイマセンカ」
と売り歩いていた。
主人公がロシア人の子どもたちとも仲良くなって来たころ 
まちの中で「あいつらはスパイだ」という噂が。
結局彼らはパンも売れなくなり、どこかへまた移って行ってしまった。
そんな思い出を、大人になった主人公は思い出す。
「あのロシア人たちがおそろしい大きな戦争のあらしをとおりぬけて
 いまも世界のどこかで、生きているだろうかとおもうのである」
「アパートへかえってきてパンをたべながら
 あのロシアパン はこの日本のパンより、
 もっともっとおいしかったような気がするのであった」

「ロシアパン」が発表されたのは
1972年、童心社の「月見草と電話兵」という本だったらしい。
ということは、私が親父から「ロシアパン 」のことを聞いたのは
本になって世に出たすぐの頃だったのだろう。
そしてこのお話は「まさすけさん」が
子どもの頃に実際に体験したことじゃないか?
戦前や戦後のことを覚えている人たちがいなくなった現代こそ
リアルなこんなお話がより貴重だと思えるのだ。

本書にはほかに、宮沢賢治さんの「やまなし」をはじめ、
いぬいとみこさん、星新一さん、立松和平さん、小川未明さんなど
有名な方々の作品も掲載されているが
「ロシアパン 」とともに心に響いたのは
今西祐行さんという方の「ヒロシマの歌」だった。
たぶんこれも実話じゃないだろうか。
涙が出てくるお話だったのだが
現代の小学校6年生がこのお話を読み、どう感じるのだろう,

「教科書に出てくるお話 6年生」西本鶏介:監修 ポプラ社

古本になるが、amazonで購入の際は↓から。

 
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「すべてのことはメッセージ〜小説ユーミン」

2022-12-22 | 読書

ドキュメンタリーではない、
小説の形をとったことが成功している。
その時々のユーミン自身が感じたことを詳細に描写し
読者も身近で同じ体験をしているような気にさせられる。
あの曲も、この曲も、そうやって書かれたのか、
これはそんなに早い時期に書かれた曲だったのかと
それは結構驚き。
東京で開催されている「ユーミンミュージアム」を観て
それとセットで読むとより感じるものがあるんじゃないか?

「荒井由実」の曲は少女時代の内面を歌ったもの。
「松任谷由実」の曲は都会で暮らす女性の生活を歌ったもの。
だから「荒井由実」の曲は普遍なのだと思う。
「松任谷由実」の曲は
地方に住む人たちからはちょっと距離あるかな。

ユーミンがデビューした直後までの物語だが
この続きも読みたくなる感じ。
ただし、章が変わるたびに話があちこちに飛ぶ。
それがちょっと気になったかな。

「すべてのことはメッセージ〜小説ユーミン」
山内マリコ:著 マガジンハウス

amazonからの購入は↓から

 
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「地図から消えるローカル線〜未来の地域インフラをつくる〜」

2022-12-09 | 読書

SL銀河や釜石線の存続を考える過程で本書を知り
矢も立てもたまらず購入し、読んでいる途中の本を脇に置いた。
「座して待つのか?次の世代に何を残すのか?」
というキャッチコピーが刺さった。

現在、全国に広がる鉄道網がいかにしてできたのか。
それが今なぜ次々に廃線となっているのか。
廃線になった後、どのように公共交通を整備するのか。
BRTやコミュニティバス、デマンドバスなどなど。
それらのことがらが順番に語られる。
しかし、果たして鉄道は
利便性だけで語られる交通インフラだろうか。
その疑問に対する著者たちの考えは後半に語られる。

鉄道はもはや単なる交通機関ではなく、文化だ。
故郷の景色であり、有力な観光コンテンツだ。
交通網や水、通信、電気やガスなどのエネルギーなどのインフラは
民営による効率性や利益性で左右されてはいけない。
そうでないと、利益性が低い地方はどんどん切り捨てられる。
金融機関は郵便局だけという過疎地においても
その郵便局が姿を消しつつあるのが現状だ。
これも郵政民営化の弊害だろう。
日本の人口はどんどん減っている。
これからも切り捨ては様々な場面で顕在化するだろう。
果たしてそれでいいのか?

今のシステムの中でいかに鉄道を生かしていくのか。
そのヒントが本書の中にある。

「地図から消えるローカル線〜未来の地域インフラをつくる〜」
新谷幸太郎:編 日経プレミアシリーズ

 
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「明治大正風俗語典」

2022-12-05 | 読書

亡父の書棚から見つけた本。
なかなか面白い。
ドロンケンや街鉄、目ばかり窓、活歴みたいに
見たことも聞いたこともない言葉や、
カフェー、山高帽、アッパッパ、ご新造さんのように
「昔の言葉」として知ってはいるものの
今はもう使うことがない言葉、
ビヤホール、人力車、ビリケンみたいに
若い人でもだいたいわかる、今も生きる言葉もある。
(レトロな響きはあるけど)

一方で、権妻、しもた家、露西亜麵麭みたいに
私自身は以前から言葉は知っていたものの
本書で意味を知ったものもある。
見越しの松とか、小股の切れ上がった女とか、
あるいはお煙草盆、インバネスなど
昔は風流な表現、言葉があったとつくづく思う。
出歯亀なんて言葉、何十年かぶりに見た😅

ところで「最近は荷物の運搬はトラックやライトバンだが」とか
「週休2日という会社も現れてきているが」など
文章もやたらと古臭い。
奥付をみたら、昭和54年の初版本だった。
著者は大正15年生まれの新聞記者〜短大教授。
なるほどその当時だと確かに上記のような古臭い表現になる。
・・・というか、
刊行された年は私が大学に入った年😵
やばい💦自分自身も表現に気をつけなきゃ😅

「明治大正風俗語典」槌田満文:著 角川選書

 
コメント
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