伝説のバンドであるはっぴいえんどやティンパンアレー、
そして世界的に活躍したYMO(イエローマジックオーケストラ)など
数々のバンドメンバーであり、プロデューサー、コンポーザーの
細野晴臣さんの評伝を中心としながら
その周りで活躍した仲間たちのことも詳しく取り上げられている
「日本のポップス史の集大成」的書籍。
500ページ超の大冊ながら、一気に読んでしまうほどの内容の濃さ。
実はファームプラスのガッツくんから借りた本だが
自分でも改めて買って、蔵書にしようかとすら考えている。
内容的には驚くことばかり。
これまで勝手に抱いていたイメージとはまるで違う細野さんがいる。
年齢的にも、存在的にも、どのバンドにおいてもリーダーとして
すべてシナリオを描き、方向性を定めてきた方だと思っていた。
根っからのカリスマプロデューサーだと思っていた。
どのバンド、どのアルバムも、計算ずくで
音楽シーンをリードしてきた方だと思っていた。
しかし・・・
小坂忠さんに誘われてザ・フローラルに入り、
エイプリルフールに変名してアルバムを出すも忠さんがいなくなり、
代わりのボーカルとして大瀧詠一さんを入れてバレンタイン・ブルーに。
鈴木茂さんが入ってからそのバンドがはっぴいえんどとなる。
大瀧さんと細野さんが満足してのはっぴいえんど解散後も、
やり切った感がまだなかった茂さんの誘いでできたのがキャラメルママ。
そしてキャラメルママと同じメンバーのままで
バンド→プロデューサー集団となったティンパンアレー。
周辺の雰囲気に流されるままという感じで物事が動いたんだなと。
YMOについても、興味のまま電子音楽とディスコサウンドを組み合わせ
実験的にアルバムをリリースした時にはあまりウケず
アメリカ〜イギリスでコンサートを行い帰国してみるとアイドル扱いに。
それに参った坂本龍一さんが徐々に抜けることとなり散開。
その後の細野さんは環境音楽にどっぷり浸かりながら
スピリチュアルな世界へと手を伸ばしていき、
あるとき目覚めてまたロックバンドの世界に戻ってきたのだという。
なんかさ、音楽ビジネスをどうこうしたいとか、
売れて食べていくミュージシャンを目指すというよりも、
若い頃から次々に好きな音楽が変わっていくたびに
それを追求してきた、ある意味「音楽オタク」的姿が見える。
オールディーズポップスからウエストコーストへ、
ニューオーリンズからワールドミュージックへ、
電子音楽から環境音楽へ、そしてまたポップスへ。
その度に出会い、ともに演奏する仲間たちも
中田佳彦さん、松本隆さんに小坂忠さん、大滝詠一さん、
そして鈴木茂さん、林立夫さん、松任谷正隆さん、ユーミン、
久保田麻琴さん、高橋幸宏さん、坂本龍一さん、矢野顕子さん・・・
そんな「音楽オタク」たちとのコラボによって影響も受けている。
どこか大学のサークル的ではあるよね。
それでもやっぱり大瀧さんとの関係が大きいと感じた。
はっぴいえんどの3年間しか一緒に演奏していないのに
(実際には大瀧さんのアルバムにベーシストとして参加もしている)
ずーっと無意識のうちにお互い意識し合っていたんだろうなぁと。
ところで、上記メンバーのうち、
東京で育ってないのは岩手県出身の大瀧さんと京都の久保田さんだけ。
(矢野さんは青森生まれながら東京で育っている)
あとはみんな都会で生まれ育ち、
立教や青学や慶應など出身の、いわゆるお坊ちゃんたちだ。
とはいえ今のお坊ちゃんたちではない。
世代的に戦後の混沌とした東京を原風景として育ち
高度経済成長とともに原風景が壊されていく喪失感を味わった人たち。
その失われた風景こそが「風街」だろう。
「風街」を心に抱いていない大瀧さんと久保田さん、
心に喪失感を抱え続けてきたその他の人たち。
もしかしたら細野さんと大瀧さんの違いはそこなのかもしれない。
本書を読み終えて、ふと感じたこと。
松本隆さんの宮沢賢治さん好きはつとに知られているが、
それは細野晴臣さんという人こそある意味賢治さんじゃないかと。
世間の評価など気にせず、自分の好きな音楽を追求し続け
その道に迷った時に信仰の世界へと身を投じる。
試行錯誤し、混迷し、戸惑い、手探りしつつ
周囲など気にせずやりたいことをやってきた音楽人生。
その全てが本書に書かれている。
「細野晴臣と彼らの時代」門間雄介:著 文藝春秋
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