馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

脛骨骨折のプレート固定

2008-01-25 | 整形外科

11 脛骨骨折。12

脛骨骨幹での斜骨折。

頭-尾方向で見ると(右)骨折線の近位には骨片がある。

粉砕していないのは不幸中の幸いだ。

相談して、プレートとスクリューを使った内固定手術をすることにした。

            -

14 患肢をホイストで吊って、体重を利用して牽引する。

骨折線は簡単には整復できなかった。

この整復のためには骨を持ち上げるリトラクターが不可欠。

そして、整復できたところで、ラチェット式の骨鉗子で骨折線をまたぐように鋏んで固定する(左)。

その状態のまま、骨折線をまたぐようにlag screw (圧迫スクリュー)を入れてずれないようにする。

そして、1枚目のプレートを脛骨頭側外よりに入れる。

                                -

13 もちろんプレートは骨に密着するように曲げておく必要がある。Dscn7455

長い骨の骨折ではできるだけ長いプレートを使って、プレートにかかる力を分散させることがセオリーになっている。

しかし、成長期の骨では骨端にある成長板をまたぐ内固定をすると骨が成長できない。

この場合、骨折線より遠位にはプレートのネジ穴4つ分の長さしかなかった。

だから、近位側に5つ穴が来るようにして9穴のプレートを使った。

               -

15 16 2枚目のプレートを脛骨の内側に入れた。

脛骨の断面は三角形をしていて、頭側内側と外側にプレートを入れ易い。

筋肉の力で骨折線は圧迫されているのでコンプレッションはかけなかった。

プレートを1枚にしてキャスト(ギプス)やトマススプリントを併用する方法も考えたが、脛骨骨折はキャストでは充分に固定できない。

完全な整復ができているので、プレートを2枚使えば術後キャストなしで大丈夫だろうと考えた。

骨片があった部分は、骨が欠損しているが、X線写真ではわからない。骨折の整復とともに骨片の位置も修復されたようだ。

こういう骨片は、あらかじめ大きな骨体にスクリューで留めておくことが推奨されているが、この症例ではアプローチしにくい尾側に骨片があったので放置することにした。

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P1230005 患者さんは5ヶ月齢,、牝の黒毛和種子牛。

体重120kgでした。

肥育素牛として40-50万円で取引されるそうだ。

家畜共済加入畜だし、手間と経費をかけても助かるなら価値があるだろう。

おいしい餌を食べて丸々太る日々をすごしてもらいたい。

   


14 コメント

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まさしく「完全な整復」と思います。素人目にも感... (zebra)
2008-01-25 21:12:25
まさしく「完全な整復」と思います。素人目にも感服いたします。
骨片も大きく斜骨折としましても整復が困難なレベルとお見受けいたしますが、どの程度の体重までならご紹介の術式で対応できると判断されますでしょうか。
差支えなければぜひ御教授ください。

牛といえども繁殖牝は「入魂」であったりしますし、獣医師は生産者に選択肢を示せるだけの技術を持たなければならないと考えます。
繁殖では三年寝太郎もありますが、「牛は外科の優等生」と昔からいわれていると思いますので。
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この部分の骨折は多いのでしょうか? (sutemaru)
2008-01-25 23:02:16
この部分の骨折は多いのでしょうか?
時と場合によるとは思いますが、骨片の小さいものを医療用接着剤でまず一つにまとめ、その後でスクリューで固定すると言う方法をどうお考えになりますか?
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>zebraさん (hig)
2008-01-26 06:17:35
>zebraさん
 牛と馬それぞれの教科書を見てみますと、脛骨骨折は珍しくない。骨幹では斜骨折することが多い。しかし粉砕骨折することも多いので内固定の対象になりにくい。遠位部の骨折以外ではキャストによる外固定は有効ではない。牛についてはトマススプリントは有効かもしれない。というところでしょうか。

 体重についてはきちんと書かれていませんが、橈骨についての文献を参考に考えると300kgを越すと強度の点でも、整復の牽引も厳しいだろうと思います。

 牛は整形外科の患者の優等生ですから、食っては寝てるというそのマジメさに期待しています。
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>sutemaruさん (hig)
2008-01-26 06:26:22
>sutemaruさん
 牛では脛骨骨折は多くはないと思います。馬はわりとあります。

 接着剤は使ったことがないのでわかりません。骨片がアプローチできる位置にればスモールスクリューでとめて、二つの大きい骨体にしておいて内固定する。というのが基本だろうと思います。
 骨に欠損部ができてしまう場合は、自家海綿骨移植や充填剤の使用を検討してみたいと思っています。
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牛の「食っては寝てるというそのマジメさに期待し... (sutemaru)
2008-01-26 09:40:42
牛の「食っては寝てるというそのマジメさに期待しています」この習性はこの様な時は嬉しい事ですね。

自家海綿骨移植や充填剤は今現在どの程度進んでいる事でしょうか?
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>sutemaruさん (hig)
2008-01-26 12:32:19
>sutemaruさん
 馬が目の前で骨折するのを見たり、馬の骨折を治療していると、折れていることを理解してしばらく大人しく寝ていてくれれば治してやれるのに。と思います。
成馬でも大人しくしていれば、体重を支えられないような骨折が治ったこともあります。
 人工充填剤は使ったことはありませんが、自家海綿骨移植はやったこともありますし、欧米でも適応症例では推奨されています。感染があるばあいでも自家海綿骨移植は問題ないそうです。
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ご教授ありがとうございます。 (zebra)
2008-01-26 18:03:29
ご教授ありがとうございます。
大動物の外科医療は負重との戦いでしょうか。
ヒト医療にはない観点ではないでしょうか。

牛は大人しくてよく食べるは人間以上、創傷の治癒の速さはあらゆる動物の中でトップクラスではないでしょうか。
ただ疼痛耐性に関する一般論はどうも違うような気もします。
獣医師としましては患者としての優秀っぷりに任せきりにならないようにしたいです。
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馬かと思って見ていたら、和牛ですか! (豆作)
2008-01-26 23:05:44
馬かと思って見ていたら、和牛ですか!
素晴らしい技術ですね。
私にはまるでできない技です。
馬で鍛えた内固定の技を最初から最後まで
一度拝見したいものです。
十勝の若い獣医師達に見せてほしいものです。
こういう技術を山脈を越していつか十勝に持って来れるといいのですが・・・
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日本中の馬達に持って来て頂きたいです。 (sutemaru)
2008-01-27 00:33:25
日本中の馬達に持って来て頂きたいです。
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>豆作先生 (hig)
2008-02-02 23:13:07
>豆作先生
 器具・消耗品も技術も馬のために用意したものですが、牛にも適応可能です。
用意しておくつもりがあるならお手伝いすることもできると思います。

 しかし、以前そちらいにいる後輩に「そんなのまで助けないで下さい」と言われました(泣・笑)。


 
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