馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

めたぼ IR

2008-01-24 | 馬内科学

  メタボリックシンドロームが急に注目された要因には、男性ではウェスト85cm以上。というスクリーニングの基準に自分が該当する人が多かったからではないだろうか。

とくに日本では、内臓脂肪が悪者だと考えられている。内臓脂肪は腹囲と相関するので、ウェストが大きいのはイカン!ということらしい。

内臓脂肪の害では、例えば腸間膜の脂肪は肝臓へ脂肪酸として流れて、肝臓での中性脂肪合成につながり、これが高脂血症を引き起こし、それが動脈硬化の要因になる。ということらしい。

内臓脂肪によらず、肥満による脂肪の蓄積は脂肪組織の炎症を引き起こし、炎症性サイトカインが放出され、全身の脂肪組織へのマクロファージの遊走が起こり、これが動脈硬化につながる。ということらしい。

内臓脂肪を悪者にするは日本でその傾向が強く、世界的には皮下脂肪も問題だと考えられている。

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 メタボリックシンドローム(代謝症候群)と呼ばれるのは、肥満、高血糖、高血圧、高脂肪血症から糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞、脳出血につながっていくからだが、この状態の基本にはインスリン抵抗性 IR と呼ばれる状態がある。

インスリン抵抗性というのは、糖尿病の治療やコントロールにインスリンを用いても血糖を下げにくい状態のことだ。

インスリンは血糖値を下げるために膵臓から分泌されるホルモンだが、標的臓器である骨格筋・脂肪組織・肝臓で、その感受性が低下してしまう。

インスリン抵抗性が引き起こされる要因には肥満があると考えられている。

その仕組みはよくわかっていないが、肥大した脂肪細胞からの遊離脂肪酸、炎症性サイトカインTNF-αの分泌過剰、そして脂肪細胞からのアディポサイトカイン(生理活性蛋白質)分泌が低下することなどがしくみとして考えられている。

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 馬は糖尿病はほとんどない動物だ。

しかし、最近は馬でもインスリン抵抗性と考えられる状態があるとされている。

馬がインスリン抵抗性状態だと、蹄葉炎をおこすことがあると考えられている。

また、育成期に血糖値が不安定になるような飼料をあたえすぎると、離断性骨軟骨症をはじめとする成長期の整形外科的疾患(DOD)の要因になると考えられている。

過度の肥満や、それに伴うインスリン抵抗性は馬にとっても望ましくないわけだ。

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 脂肪乳剤を静脈内投与することで馬にインスリン抵抗性状態を実験的に引き起こすことができることが報告されている。逆に、1週間毎日30分軽度の運動をさせることで、インスリン抵抗性が改善されることも報告されている。

よういにインスリン抵抗性状態に陥るし、改善することもそれほど難しくない。ということだろう。

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カロリー摂取も、体脂肪も、運動も「適度」が大切ということではないか。

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P1230001お尻に「頭(HEAD)」って書くのは止めた方がいいんじゃないの?


9 コメント

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ヒト医療でマグネシウムがインスリン抵抗性に関連... (zebra)
2008-01-24 22:31:34
ヒト医療でマグネシウムがインスリン抵抗性に関連があるという話題が出てきた際
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2006/04/002686.php
草食動物はどの程度影響があるのだろうと考えたことがあります。
草地の管理が不十分だとマグネシウムは欠乏する元素の先鋒と思います。
卑近に思い当たる節があるので勉強しなければなりません。
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>zebraさん (hig)
2008-01-25 06:20:30
>zebraさん
 紹介いただいた記事の元になっている調査は、Mgを多く含むような食品をたくさん食べている人はメタボ発症が少ない。というだけで、Mgが直接メタボに効くことにはならないと思うんですが・・・・・どうなんですかね?

 Mg欠乏は牛では身近な問題のようです。馬はどうなんでしょう?
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仰る通りMgを摂取したからといってメタボがどうこ... (zebra)
2008-01-25 07:30:24
仰る通りMgを摂取したからといってメタボがどうこうなるのではないと思います。
ただ、過肥や極端な摂食の変化により生じるであろう高脂血症高血糖からインスリン抵抗性の糖尿病等に移行するリスクをMg欠乏が上げているとしたらこれは無視できないと考えています。
馬の場合は今時そこまで粗悪な粗飼料を摂取していないと思いますが、草地の疲弊も今時の問題でして頭を抱えています。
金さえあればの世界ですね。。
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こんにちは。 (ペーパードクターK)
2008-01-25 09:02:22
こんにちは。

めたぼ、がどう続くのかワクワクしていましたが…

乗馬の肥満は、蟻洞、や、蹄葉炎、など、蹄にくる、と感じておりました。

ところで蟻洞と蹄葉炎についてですが、私は全く違うもの、と感じていましたが、一度不安になり、Pollitt先生に質問したことがあります。(英語は苦手ですが、その時は通訳の方がいたので助かりました)

Pollitt先生は、全く違う、White line diseaseは嫌気性微生物が蹄壁中層を浸食するもので、蹄葉構造が破壊される蹄葉炎とは異なるものだが、ただし蹄葉炎で変形した蹄壁が二次的にWhite line diseaseになることはある、ということでした。
また、レントゲン像で、White line diseaseでも蹄骨がローテーションを起こしているようにみえる場合もあるが、その際、蹄壁中層に亀裂が見られる場合もあり、ラメラーウェッジが形成される蹄葉炎とは病態が全く異なり、White line diseaseは装蹄治療でもとの蹄形に良好に治癒する、と言われました(と思います)。

私の感じていたものと先生の説明が矛盾しなかったので、ほっとした事をおぼえています。

乗馬やポニーは、太り過ぎの弊害が競走馬や育成馬にくらべてすぐに分かりにくいので、太らせてしまう事が多く、蹄に害が現れるのかもしれませんね。
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>zebraさん (hig)
2008-01-25 20:14:15
>zebraさん
 グラステタニーの発症要因は高K施肥、あるいは飼養頭数過剰による堆肥の過剰投入でしょうか。改善方法はあるように思うのですが。
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>ペーパードクターKさん (hig)
2008-01-25 20:20:45
>ペーパードクターKさん
 ワクワクさせて・・・・・期待を裏切りましたか?(笑)
蟻洞と蹄葉炎は同じ。と極論する人もいるようですが、境界を引き難い症例があるというだけで、まったく同じと考える人はいないでしょう。
 
 先日、久々に馬にまたがりに行きましたが、デブでした。いや、私じゃなくて馬が。
 要は、毎日の安定した運動量かなと思います。馬は閉じ込めておくと、歩かずに食べ過ぎます。閉じ込めておいて、食べさせないとストレスがたまります。放牧できない事情は、競走馬でも、乗馬でもわかりますが・・・・・
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たびたび長くなりまして申しわけありません。 (zebra)
2008-01-25 20:37:23
たびたび長くなりまして申しわけありません。
当方の直面している問題はレアケースでして、非施肥草地の疲弊?です。
高NKといいますより純粋なMgCa欠が根本的な原因として存在していると思われます。
グラステタニーとインスリン抵抗性が結びついたりすると興味深い所です。

どこに行っても「金がなくても苦土石灰!」を連呼してますが現実はぁ~です。
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hig先生こんにちは。 (ペーパーK)
2008-02-01 13:53:05
hig先生こんにちは。

一足お先に帰りました、とても勉強になりました、ありがとうございます。

IRの記事ですが、期待通り、大変おもしろく、小躍りして読みました、舌足らずですみません。

糖尿病は人、犬、猫、ラットマウス、ウサギ、豚、牛、、と、色々な動物種に見られるのに、馬はほとんどない、というのは不思議です、蹄がネックになっているのでは?と、つい短絡的に勘ぐりたくなります。。。

余談ですが、昔みた慢性蹄葉炎の雌馬が、被毛がぼうぼうと伸びて(毛刈りをしていたので分かりづらかったのですが)エサを減らしてもなかなか瘠せない、というクッシング病のような感じを呈していました、検査してみればよかったです。

またまた余談ですが、乗馬の肥満は蹄にくるような気がする、蟻洞、蹄葉炎、に、navicular diseaseも付け加えたいと思います、それぞれ角質、表皮ー真皮、骨(蹄関節)と、蹄の構成要素なのがなんとなくおもしろく思います(あまり意味のない感慨ですが)。

でも、人と馬、こうも動物種として違う生き物を分かるためには、思いやりだけでは不足で、理性的に勉強しないといけないのだなあ、と、学生時代の後悔をふまえて思った事があります。

勉強の機会をいただけて、ありがとうございました、北海道ではこれから春になるとお仕事がお忙しくなるそうですが、どうぞお気をつけてください。



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>ペーパードクターKさん (hig)
2008-02-02 23:30:59
>ペーパードクターKさん
 お疲れ様でした。

 日本人は極度の肥満になる前に糖尿病になってしまうという話を聞いたことがあります。馬は糖尿病になる前に蹄葉炎で駄目になってしまうのかもしれませんね。
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