goo blog サービス終了のお知らせ 

馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

家畜診療技術全国研究集会2020

2020-02-19 | 講習会

始発の飛行機で羽田へ。

新型コロナウィルス感染症(新・冠・ウィルス)が懸念されているが、空港は落ち着いたものだった。

東京駅で乗降したのは初めてじゃないだろうか?

この集まりには20年以上来ていない。

前回来たときは古びた会場だったが、今回は新しい立派なホールで驚いた。

東京駅から皇居の方へ歩き、有名企業の自社ビルが並んだ中のホール。

1日借りるといくらかかるんだろ?;笑

プロジェクターは明るくて見やすい(明るすぎて出力が低いレーザーポインターは見えない)し、

マイクが高性能なのか、手に持ったり口を近づけたりしなくても声が通る。

北海道の産業動物学会に比べると、内容のレベルは高くない、が認識だったのが、

今回は、全体がレベルアップしているのに驚いた。

興味深い演題が多かったし、完成度が高いのにも感心させられた。

大学や企業や家畜保健衛生所と連携しながら、学術的にもレベルが高く、

それでいて現場に密着した発想で進められ、たいへんな努力をされている調査研究・症例報告が多かった。

会場からの質疑応答はあまり盛んではなかった。

大学の特定の先生の質問やコメントが目立った。

しかし、質疑時間が多めにとられているので、質疑応答も聴衆の参考になる。

座長も大学の先生に務めていただいているので、発表会としての質が保たれていた。

牛や豚(残念ながら馬の発表はなかった)の臨床技術の発表会を東京丸の内でやる必要があるのか?とも思うが、

われわれだって、capital で活動することがあっても良いのかもしれない。

まあ、私は私の分野のcapitalは、”うち”だと思っているんだけどね;笑

           ー

翌日、その立派な会場で講演させてもらった。

とても熱心に皆さん聴いてくれたし、

「面白かった」との感想も聞けた。

狙い通り牛臨床を整形外科分野からinspire できたのではないかと自負している。

 

 

 


NASU2020 3日目 解剖筋学 その3

2020-02-06 | 講習会

筋肉で体幹に固定・運動している前肢とちがって、後肢は寛骨(腸骨、恥骨、座骨)に大腿骨が股関節で骨としてつながっている。

つながりの順番からすれば、骨盤の固定(腰椎と仙椎の関節、仙骨と寛骨の靭帯結合、etc.)を学ぶのが先だろうが、解剖は表面から進めていくしかない。

浅臀筋は、大腿骨の手術でも邪魔になるなら第三転子から剥がしてしまって良いとされている。

そんなことをする可能性がある馬外科医は少ないだろうけど・・・・

大腿二頭筋は後肢の推進力を創り出す強力な屈筋。

臀部の中では中臀筋が強大。

そして犬の中臀筋は腸骨前縁から始まっているが、馬の中臀筋はもっと頭よりから始まっている。

最長筋と重なっていて、腱膜で付着していることで、筋紡錘を刺激しあうことで動きも連動するのだそうだ。

            -

ハムストリングスである半腱半膜様筋は、犬では座骨に始まっているのだそうだ。

しかし、馬はさらに背側まで延びている。

そもそも犬やネコ科動物のように、体幹を曲げ伸ばしして走る動物に比べると、馬は体幹が硬く、しならない。

その違いは腰椎にも現れていて、馬の腰椎は横突起が大きく、年がいくと癒合する。

しかし、腰椎と仙椎は関節面を持ち、可動性がある。

骨盤(寛骨と仙椎を含めて)の運動には、腹直筋(恥骨前縁に付着している)が大事だ、とのこと。

さもありなん。

仙椎と腸骨の付着にはいくつかの大きな靱帯が働いている

          -

腓腹筋はふくらはぎ。人も内外に別れているが、馬も似ている、そうだ。

          ---

夜は若い先生たちが、解剖体でさらに勉強するのを見学させてもらった。

”寛”跛行で、

そちら側の大腿骨大転子付近と、対側の仙椎から尾椎の横側に圧痛があり、対側へ腰をひねって歩く、のが1つのパターンで、

大腿骨大転子の背側へのステロイド筋注に反応する、とのこと。

それは、筋肉痛なのか?中臀筋などの腱炎なのか?そもそも分注されたステロイドは局所で効果を示すのか?

それは、股関節痛だったりしないのか?仙腸関節痛だったりしないのか?

休養はどうするのか?

わからないことだらけだが、”寛”跛行が実にさまざまで、それらを理解するための解剖学的知識が少し増えた。

                -

再生治療について話す機会もあり、若い先生たちは勉強しているな~と感心した。

ネットで情報収集できる時代であり、それに慣れた世代であり、英語力もかつての日本人一般より向上しているのだろう。

         //////////////

夕方から珍しく往診に出たら、ひどく寒かった。

今朝はまちがいなくこの冬一番の冷え込みだ

暖冬だとか、雪少ないとか、冬将軍様なめた口きいてゴメンナサイ。

 

 

 

 

 

 

 

 


NASU2020 3日目 解剖筋学 その2

2020-02-05 | 講習会

前肢帯の筋肉で体幹に張り付けられた肩甲骨から先を動かしているのも、多くの筋肉だ。

肩の後ろ、肘を引き上げているのは強大な上腕三頭筋。

名前のごとく馬でも3つに分かれている。

肩関節と肘関節をまたぐ二関節筋。

肩の前を走るのは上腕二頭筋。

上腕骨の結節が馬では3つあり、腱はW型していて、種子骨の役割をしている。

これも肩関節と肘関節をまたぐ二関節筋。

副手根骨には尺側手根伸筋と尺側手根屈筋が付着して腕節を屈曲させる。

尺側手根伸筋も屈筋であることに注意。

新生子馬で腕節の拘縮にしばしば遭遇する。

助けられる可能性があるならキャスト固定して治療されたりしているが、ひどいものは諦められている。

尺側手根伸筋と尺側手根屈筋を付着部で切ることをもっとやってみるべきだ、とこの研修を受けて思い直した。

            ー

下肢は馬医者の皆さんは詳しく知っている。

障害が多いし、理解しやすいし、解剖体で学ぶこともしやすいからだろう。

to be continued

                                    //////////////////

初夏に雷の夜に怪我をして、ここまでよくなったが、それから皮膚欠損が縮小しない。

皮膚辺縁にPRP(多血小板血漿)を分注した。

何か効果があったらしく、また上皮化が始まったそうだ。

 

 


NASU2020 2日目 腸管手術

2020-02-02 | 講習会

例年そうだったのが、今年も那須の温泉は熱かった!

ほとんど入れる限界の温度。

しかし、ヒートショックプロテインが出ているのだろう。

朝、夕に入るとしゃんとする;笑

           -

私は、行きの飛行機で左の耳が痛くてマイッタ。

耳管が詰まっていたのだろう。

耳抜きをしようとしたがダメだった。

帰りの飛行機では少し違和感があったが、耳管が通って痛みが消えるのを感じた。

温泉療法の効果だと思う。

           -

2日目は腸管手術実習。

1時間ほど講義して、実習。

私達は日本で一番たくさん腸管手術をしている。それも圧倒的に多数。

獣医師が2人で開腹手術することもある。

良いことではない。

しかし、なんとかできる。

百戦錬磨、一騎当千だからだ。

そりゃ疲れるよ。でも、できる。

この研修で開腹手術をするようになって15年ほどだろうか。

すでに那須やほかの施設でも開腹手術で救命された馬もでている。

古い日本語の獣医外科学の教科書には、「馬の腸管手術は現実的ではない」というような記載さえあった。

しかし、それをbreak through することに、この研修は役に立ってきたのではないだろうか。

腹腔探査、空腸-空腸端々吻合、結腸骨盤曲切開をやってもらい、

空腸結腸吻合の説明もした。

夜は、腸管吻合の練習をしたグループも居た。

この研修で言い続けていること、

「外傷縫合を上手に手早くできる獣医師なら、腹腔解剖の知識、腸管の切開・切除・吻合の技術を持てば腸管手術はできます。」

疝痛はどの環境の馬にとっても最大の死因である。

どの環境の馬獣医師も、疝痛馬を助けられるように考えて努力してもらいたい。

それが本当の愛馬精神であり、馬医者としての使命ではないか。

          /////////

ウルトラマンは私が幼稚園児の時。

帰ってきたウルトラマンが、小学生のときかな。

輝く使命を胸に受け♫

 帰ってきたぞ、帰ってきたぞ、ウルトラマン♬

 

 

 

 

 

 


NASU2020 1日目 骨折内固定

2020-02-01 | 講習会

前日、関節鏡手術の後、1歳馬の喉頭蓋下シストのLaser切開手術を終えてから出張に出た。

立位での喉頭laser手術は短時間で終わるにしても神経を使う手術になる。

福島空港の天候不順で仙台に降りるか、引き返すかもしれない、と言われながらも無事行き着くことが出来た。

            ー

1日目は骨折内固定がテーマ。

1時間半ほど講義してから4テーブルに分かれて実技実習。

1テーブルは子牛のプレート固定を練習していただいた。

1テーブルはJRAの先生たちがPIPjointの関節固定と尺骨骨折のプレート固定。

1テーブルは標準的な中手骨・中足骨・第一指骨のスクリュー固定。

1テーブルは学生さんたちの実習になった。

DRテックさんの協力でX線撮影しながら実習を進めることができた。

このDR、値段が画期的に安い。

さっそく何台も商談成立したらしい;笑

しかし!

習作とは言え、狙った位置にscrewを入れるのが難しいことがおわかりいただけると思う。

信頼されて馬の命を任せてもらえるようになるにはもっと練習が必要だ;笑

            ー

第三中手/足骨の球節の縦骨折に入れるscrewの長さについて、過去ログを再紹介しておく。

            ー

第三中手/足骨の遠位にscrewを1or2本入れる手術なら立位でできなくない。

しかし、それは全身麻酔での手術で習熟している馬整形外科医なら、ということであって、

全身麻酔できない環境で、screw固定に慣れていないと厳しい、というジレンマ・逆説がある。

しかし、この記事で紹介したRichardson教授の言葉を嚙みしめたい。

          ///////////////

とうちゃんどこいってたんだ!