先週、金曜は社台ホースクリニック・カンファレンスだった。
症例から学ぼう、という主旨の症例検討会。
もう今年で10年になるそうだ。
素晴らしい機会を与えてもらってきたことに感謝する。
この10年間の発表演題の一覧をもらった。
私は、8回参加し、10回症例発表していた。
たぶん、SHCの先生以外では一番多いだろう。
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今年も2題症例報告した。
1題は、側頭骨舌骨関節症の新たな8症例の経験について。
この病気は、多くの獣医師が思っているより多いのではないか?
なんかへんな馬だと思っていても、獣医師に相談されないままの馬も居るのかもしれない。
獣医師が診せられても、この病気のことを知っていて、この病気を疑わないと、「なんでしょうね」で済まされる症例があるのかもしれない。
Tag先生は、「Hig先生が呼び寄せたんじゃないか」とおっしゃる;笑
たしかに、今まで経験した11症例のうち3例は本州から治療に来た乗馬2頭と競走馬1頭だった。
でも、それ以外は生産地で普通に飼養されていた馬だ。
私、超能力者ぢゃありませんから;笑
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もう1題は、8日齢のサラブレッド雄仔馬の中足骨骨折のLCP固定。
私は、このSHCカンファレンスで、サラブレッドの骨折内固定について何例も報告してきた。
うまく治った例も、うまくいかなかった例も。
そして、今、
販売して競走馬にしなければならないマーケットブリーダーの雄仔馬でも内固定手術の対象になるのではないか。
もちろん確実に治るとか、うまく治るという保証はない。
しかし、骨折治療がうまくいけば競走馬になることもあきらめたものではない。
昨年のAAEPでの講演で、ペンシルヴァニア大学Richardson教授は述べている。
it (euthanasia) should not be done if you are even slightly uncertain about the "fixable" nature of the injury.
その骨折が治療できるのではないかと少しでも思うなら、すぐに安楽殺すべきではない。
また、こうも述べている。
In today's information-rich world, it is both possible and undesirable to have an owner find out after a horse has been euthanaized that there have been other horses with the same injury successfully treated.
今日の情報にあふれた社会では、馬が安楽殺された後になってオーナーが、同じ骨折をした馬たちが治療してうまく治っていることを知る可能性もあり、まずいことになりかねない。
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きのう月曜は、
1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。
午後、Tieback&Cordectomyの再検査。
ついで、競走馬の腕節chip fracture の関節鏡手術。
夕方から、1歳馬の足根骨盤状骨折のスクリュー固定・・・と思ったが、足根骨崩壊があり、骨関節症が進行していたので手術は取りやめた。
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もう赤くなっている葉がある。
今年は、7月前半が一番暑かった。
あれが夏だったんだな・・・・・
馬の側頭骨舌骨関節症という病気は、やはり「はみ」を噛ませるせいで、馬に生じるようになった異常であるように、思えます。
と言うのも、金属はみの歴史をみますと、当初は棒ばみであった、のが、
水勒ばみが発明されて以来、それが世界中に普及して、数千年間いまだに主に使われている、というのは、水勒ばみが、それだけ人馬にとって優れた形状である、ということだと思います。
水勒ばみは、手綱や曳き手綱に、不整で無理な力がかかっても、馬の口を、馬の舌を傷付けない。
また、今でも使われる棒ばみの一種である大勒ばみは、必ずはみ身に凸のカーブがついていて、そのカーブの名もずばり「舌ゆるめ」と言います。
はみの歴史をみますと、効果的かつ馬の舌を傷付けない形状を求めて、人類の工夫と歩みよりの記録である、ように思えます。
それに対して、ハートばみの形状は、水勒ばみや大勒ばみとは正反対で、凹もしくは直で、動かない固定形です。
一昨日、馬運車をしている友人が、2歳の競走馬が、ハートばみで、人の力で舌を切る現場を目撃した、と、状況を詳しく話してくれました。
水勒ばみでは絶対に考えられないような、軽い状況で馬の舌が切れるようですね。
深さ1センチくらいで口の中血まみれだった、そうですが、馬の舌を切った当人も、最初気づかなかったそうです。
(水勒ばみでは、落馬、放馬して馬が手綱を踏んで切ることもよくありますが、そのような非常事態で不整な力がはみにかかっても、馬は無傷です)
まだ舌の柔らかい若い馬は舌が切れて、
おとなになって舌がしっかりしてくると、舌は切れなくても、舌を頭骨から吊り下げて支えている舌骨を傷害することになるのではないでしょうか。
繋駕レースの馬に、側頭骨舌骨関節症が多いというのも、
はみにかかる力の大きさと、その力の方向(繋駕レースでは手綱が乗馬よりも下方向のベクトルである)が、側頭骨舌骨関節症の発症に関わっていることを疑わせると思います。
馬に”きつい”ので制御しやすいから使われるのでしょうね。乱暴に扱ったり、しゃくったりしてはいけない、という注意も一緒に普及されるべきだったでしょう。
しかも、その瞬間、外からは全く分からない。ここがたいへん恐ろしいところだと思います。
当歳や2歳とは、今までにない異常事態だと思います。
20年ほど前に、10歳くらいのジャンピング競技馬でも、半顔面麻痺の1症例がありました。
馬術のはみや調教馬具、調教法をその観点から観ますと、
キツいはみ→馬の顔面麻痺や失明→馬の価値低下、という因果関係が、経験的に蓄積されて、現在のはみや馬具、馬術理論が洗練されてきたように思えます。
例として、ドイツ製の調馬索用頭絡(水勒ばみ)は、たいへん細い革でできており、若馬が放馬して調馬索を踏むと、頭絡がすぐに壊れて、馬は無傷でした。
この1年で経験した8症例(今日9症例を診ました)の中に、当歳馬と明け2歳馬が居ましたが、どちらも内耳炎の症状と所見が主な症例でした。典型的な側頭骨舌骨関節症の症状と経過とは違うと思っています。
骨折や脱臼が発症してすぐには、人が気付かないで、
時間が経過して炎症が周囲の組織、神経等に広がってからしか、異常が人に認知されないから、
異常が人に認知された時点では、骨折や脱臼部は慢性の状態を呈している、
という風に、考えられると思います。
ハートばみと側頭骨舌骨関節症の因果関係は、おそらく、
馬具の歴史から推測される経験知と、発症例からは状況証拠ばかりですが、
角を矯めて牛を殺す、の諺ではないですが、
高価な競走馬の価値を下げることにならなければよいのですが。
(一方で舌の外傷はハートばみとの因果関係がはっきりしていますので、それだけで使わない理由になると思う人は思うでしょうね、現場を目撃した友人たちもそうですが)
この病気で茎状舌骨や角舌骨が折れることがあるのですが、「疲労骨折」だと文献にも報告されています。
側頭骨舌骨関節が脱臼した症例は観たことがありません。
(私はやはりハミだろうと、
乗馬や繋駕馬はキツい調教ハミや馬具で、キツいはみの長時間ほど、危険だろうと思いますが、
ハートばみもかなり危険じゃないだろうか??と思います、
またハートばみで引馬調教も、20~30分くらいはするのではないでしょうか?)
>外傷性に骨折が起これば、症状が見過ごされることはまずないはず
というのは、以前先生ご自身書かれていた「今まで原因不明で"この馬元気がないね"くらいで放置されていた症例がかなりあるのではないか」ということと、矛盾していると思います。
外傷的に骨折が起こったら、と想像しますと、
馬は反抗している状況で負傷するのでしょうから、本人(本馬)は頭の中でボキッ!とかバキッ!と、今までない音と痛みがするでしょう、馬の性格として、びっくりしてますます暴れるか、膠着するか、頭を振って激しく前かきするなど、とにかくますます興奮するでしょう、回りの人がその瞬間、外からは全く見えない負傷を気付くことは、まずできないと思われます。
(先日、友人が見た、ハートばみで舌を切った状況も、曳いている人は、見ていたその友人に「??シャツが血まみれだよ」と言われるまで気付かなかった、そう言われても「あれ?オレ鼻血でた?」と、まさか馬の舌を切ったとは思わなかったそうです。"見えないところを効果的に傷つける"のが、ハートばみの恐いところだと思います)
そういう馬が馬房で興奮がおさまって、慢性のズキズキする頭痛で元気なく消沈していても、外見腫れもないし(下顎骨の奥)、なんだかこの馬元気がないね、と、ビタミン注射や消炎剤ということになりそうです。消炎剤は一時的に効くでしょうね。
実は乗馬でも競技場で一頭だけ、ハートばみを使われている馬(欧州乗用種セン)を見ました、オーナーさんが言われるには
「この馬は若いのになんだか元気がなくて、競技場に行くたびに獣医さんに補液してもらっている」ということでした。
たしかに馬房で他の馬のような朗らかさがなく、暗かったように思います。
関連は不明ですが・・
ヨーロッパでは、ハートばみは強い種牡馬に使うことがある、
若馬や乗馬には使われない、と、ドイツの獣医さんに聞きました。
あとは、加齢。
感染、それによる内耳炎。
みすごされていたかもしれないと言っているのはのは、典型的な側頭骨舌骨症であって、
外傷性に突発的な舌骨の骨折や、側頭骨舌骨の脱臼が起これば、そうそう無症候ということはなく、診療対象となっていて、X線検査や喉嚢内視鏡検査でみつかるはずだ、と書いたのです。
実際、突然の食欲不振や顎が痛いようだ、という繁殖雌馬で新しい茎状舌骨を診断したことが数例あります。それらはハミを着けて扱った経緯はありません。
(「異常が見つかるかもしれない」となると、ますます敬遠される人情もある)
騎乗されない繁殖牝馬での発症は不思議な気がしますが、
生産地では、繁殖牝馬は、ハートばみをつけられることは、全くないのでしょうか?
例えば馬房から放牧地に引いていく間や、馬運車に乗せるとき、種付けの際なども?
馬運車をしている友人の話では、こちらで馬運車に乗せるとき、今の競走馬はほとんどみなハートばみを着けてくる、と言っていました。
乗馬や昔の競走馬も知っている友人は、それは必要ないんじゃないか、と、言っていましたが。
無惨ですね。