真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「義姉と弟 禁断不倫」(1991『痴漢と覗き 義姉さんの寝室』の1998年旧作改題版/製作:新映企画《株》/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:亀井よし子/企画:伊能竜/撮影:千葉幸夫/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:青柳一夫/音楽:レンボーサウンド/撮影助手:古川俊/照明助手:北明夫/監督助手:杜松蓉子/スチール:田中スタジオ/現像:東映化学/録音:銀座サウンド/出演:小泉あかね・たまき美香・英悠奈・石神一・芳田正浩)。企画の伊能竜は、向井寛の変名。音楽のレンボーサウンドは、天衣無縫な本篇クレジットまゝ。何か凄く斬新通り越してアバンギャルドな選曲しさうな気がする、別にしないけど。
 夜の荒川家、タダシ(芳田)が兄夫婦のハネムーン土産を開ける。先走るとこのタダシが酒を飲めば煙草も呑むととつくに成人してゐると思しき割に、平日昼間に堂々とかのうのうと家でホケーッとかしてゐやがる、イズイズムばりに頓着ない造形。さて措きグラスを準備すべく階下に下りたタダシは、大絶賛お盛んな夫婦生活の嬌声に誘はれる。左右が狭められた、即ちタダシの覗き視点による後背位のハモニカにタイトル・イン。荒川(石神)の妻にしてタダシにとつては義姉の由美子(小泉)は、元々タダシの級友だつた。そんな二人のそこそこアクロバティックにも思へる馴初めも、ものの見事にスルーして済まされる。
 とまれ翌朝、荒川が新聞を広げようとすると、中から由美子との結婚を中傷する怪文書が現れる。追撃するかの如き無言電話も頻発、仕方なく恐らく自営の荒川が出勤してみると、職場の郵便受けにも乱暴な退職願を兼ねた怪文書が。横恋慕を拗らせてゐるのは、由美子以前に荒川とは男女の仲にもあつた、部下の沢村(たまき)だつた。一方タダシもタダシで、高校時代からの岡惚れをこの期に燻らせる。「人の気も知らないで」といふが、知らんよな、そりや。英悠奈はタダシの彼女、彼氏の由美子に対する想ひも知る、矢張り二人とは同級生。かうして書くとトライアングルにやゝこしさうにも見えて、実際は一幕限りを鮮やかに駆け抜ける、煌びやかな絡み要員。
 未見×未配信の新田栄旧作が、地元駅前ロマンの正月番組に飛び込んで来た1991年第九作。純正「痴漢と覗き」全十三作中、第八作に当たる。
 祝賀を装つた花束に、剃刀を仕込むほどの苛烈な沢村の横恋慕も、終に一線を超えもせず惰弱に地団太を踏むタダシの岡惚れも、兄貴と兄嫁はといふと綺麗に何処吹く風。のほゝんと夜毎の営みに終始、物語も展開もあつたものではない。例によつて由美子と荒川が励む締めの濡れ場は、臍に完遂。した後(のち)に被さる、「でも俺は矢張り、由美子ちやんが好きだ」なる芳田正浩の性懲りもないか往生際の悪いシャウトに叩き込まれる“終”が、何ッ一つ完結してゐないにも関らず、兎にも角にも満ちたか尽きた尺を強制終了。素面といふ意味での裸の劇映画としては、抜けるだけの底さへ見当たらない一方、三番手が―比較的―最も美人、二番手に至つては焼きそば頭の草加煎餅であつたりもするものの、とりあへず三人とも首から下はそれなりにプリップリで、裸映画的には辛うじてよりは幾分マシな程度で安定する。

 そんな他愛なさしか窺へない始終にあつて、結局モノにはし損ねつつ千載一遇がなくもない。相も変らずエッサカホイサカな荒川と由美子を、再度荒川家に来襲した沢村が窓越しに覗きながら、限りなく往来にしか見えない隣家との隙間でワンマンショーをオッ始める無防備な現場。に、英悠奈の部屋から帰宅したタダシが遭遇する神懸かり的に豪快なシークエンス。そこでタダシが沢村に手を出してゐれば、覗きは兎も角痴漢が出て来ない例(ためし)の多いシリーズではあれ、“覗き”に“痴漢”する変則的な形で珍しく“痴漢と覗き”が揃つてゐたのに。空前の好機をみすみす逃した時点で、雌雄は決せられてゐた一作ではある。


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