真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「変態芸術 吸ひつく結合」(2016/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/監督・脚本:山﨑邦紀/撮影:小山田勝治/撮影助手:宮原かおり/撮影応援:山川邦顕/照明:ガッツ/録音:山口勉・廣木邦人/助監督:小関裕次郎・高田芳次/編集:有馬潜/音楽:中空龍/整音・音響効果:若林大記/録音スタジオ:シンクワイヤ/ポスター撮影:MAYA/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:アクアショップ マリンキープ・桃子・ラブピースクラブ/出演:東凛・酒井あずさ・ダーリン石川・津田篤・荒木太郎・卯水咲流)。照明のガッツは、守利賢一の変名。
 ガード下を通過する車列を一時捉へて、尻尾から白いウーパールーパーを舐める。全裸の主演女優を、全身抜く自室のロング。ルーパー嬢(東)がパンティ・ブラの順で下着を着け、チャイナドレスに体を通すと、水槽のウーパールーパーに「私は変つた」と語りかける。ルーパー嬢の、薬科大に通つてゐた過去。取り憑かれたかのやうに乳鉢で薬物を擂るルーパー嬢あるいはタリウム女が、カッと目を見開いてタイトル・イン。静かなアバンながら、溜息が漏れるほどに均整の取れた東凛のプロポーションを、丹念に堪能させるカットの数々には確実な力が漲る。
 男女の等身大人体模型が並び、背景には鉄格子も見切れる見るから怪しげな一室。和洋といふか和フラワー折衷な扮装の卯水咲流が、模型胴体のカバーを外し腸に頬擦りした上で、ちやうどディルド―程度の大きさの小ぶりな人体模型でオナニーに耽る。そこに現れたルーパー嬢に、完遂したグル(卯水)は手を差し伸べる。
 種々雑多な奇人変人が入れ替り立ち替り登場する、山﨑邦紀十八番の展覧会的な序盤は今作も健在。配役残り、バサッとマントを広げての疾走で飛び込んで来るダーリン石川は、自らをドラゴンの化身と目するサラマンデル。ウーパールーパーことメキシコサラマンダー繋がりのルーパー嬢の彼氏で、後にルーパー嬢は巷間を騒がせた事件に触れ、自身も人に毒を飲ませてしまふと薬科大を中退、ウーパールーパーとの出会ひによつて救はれたと語る。サラマンデルに話を戻すと、真のドラゴンと化すには通過儀礼として、亡夫の遺産で全身整形を繰り返す母親・整形ママ(酒井)とのファックが必要だと常々息巻くも、いざといふ段となると何時も息苦しさに見舞はれ果たせずにゐた。浜野佐知に丸グラサンを借りた―凄い与太―荒木太郎は、実質的には整形ママの間男といつて差支へあるまい、家内に逗留し整形ママの自伝を口述筆記する三文文士。誰のためにもならない、何の役にも立たないことこそ芸術の宿命とする、よくいへば一切の下心を廃した純粋な、直截には諧謔的な芸術観の持ち主。それで社会生活はどうしてゐるのかホワイトカラーの癖に髪までツンツンに立てた津田篤は、この人は自らを機械仕掛け、しかも壊れたと目するエレキ君。一見バラエティ豊かに見せて、拗らせた自意識だらけでもある。とまれエレキ君、キーだのカシャンだのロボット風のSEがなければ、傍目的な症状は単なるチック症と大差なかつたりもする。大腸を脳を上回る最重要な器官と位置づけ、入り口である口腔の舌と出口である肛門の同時刺激とにより、要は一本の管を成すその間の消化器官の活性化を説く。正しく独自の説を提唱し、助手をルーパー嬢が務める、グルのラボに窮したエレキ君が相談に訪れる。
 神は細部に宿るとばかりに、個人的には2015年ベストの肛門探偵で華麗なる復活を遂げて以降、加速してモチーフ勝負を嬉々と続けてゐる様が窺へる、山﨑邦紀の2016年第一作。肛門探偵をより理論的に整備したグルの大腸要諦主義を軸に、類が友を呼ぶが如く集つた“失敗した芸術家”達が繰り広げる下へより下への大騒ぎ。といふと、例によつて風呂敷を拡げるだけ拡げておいて畳みもせず散らかしたまゝ映画が終る。終つてのける危惧は、どうかしたのかと驚かされるくらゐの完璧な形で大回避。サラマンデルが頑なに固執する母子相姦に関し、グルは脳の過大視と同列の子宮幻想に囚はれてゐると指摘、大腸に繋がるべきと主張。母のヴァギナではなくアナルとグルが述べるや、ユリイカと鳴り始める安いハードロック調の劇伴が絶品。点の奇想が線に繋がるドラマティックなカタルシスが満開に咲き乱れ、続く実際に上のグルと下のルーパー嬢による、サラマンデルの舌と肛門の同時刺激。絶頂に達したサラマンデルが上げる「オーオー大腸!」なるスッ惚けた歓声が、厭世的には人間そのものを糞袋とも看做し得る、人体を貫く一本の管を快感が駆け巡る劇中体験を観客にも実感させる大いなる映画的魔術!
 とこ、ろが。サラマンデルが整形ママのアナルに挿入しつつ、ルーパー嬢の肛門を舐める。舌肛同時刺激があたかも秘蹟の領域にすら突入せんかに思へた、否、その時は確かに突入した荘厳なまでの濡れ場を経て、グル曰くの“聖なるトライアングル”が完成した瞬間。嗚呼俺は、何て素晴らしい映画を観たんだと、心の底から感動した、のに。一見意味不明な件なりショットが、魚雷のやうに命中する伏線はパンドラの箱じみた蓋が開いてみれば理解に難くもないとはいへ、斯くも完璧にテーブルコーディネートしておいて、したにも関らず卓袱台を豪快に引つ繰り返すどころか木端微塵に原子に還す、変りも救はれもしなかつたのかよ!な無体なエンディングには呆然とするのも通り越し度肝を抜かれた。綺麗に等閑視されるエレキ君や、前作前々作の充実ぶりからするとヤマザキ組荒木太郎が比較的大人しい点も特筆しようと思へばし得なくもないものの、この際取るに足らない些末。山﨑邦紀が大御大・小林悟に連なりかねない、貴様等の望む映画など撮るものかといはんばかりのダンディズム溢れる一作である。

 何処で触れたものか逡巡してゐる内に最後まで機を失してしまつたが、徒に仰々しくもなければ、稚拙の結果の素頓狂といふ訳でもない。山﨑邦紀映画のヒロインにしては案外目もとい耳新しい東凛の至つて普通といふ意味でのフラットな口跡は、奇矯な世界観が雲散霧消するのを防ぐ、アンカーの役割を果たしてゐるやう効果的に聞こえた。


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