真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「すけべ妻 夫の留守に」(1995/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:佐藤寿保/脚本:渡剛敏/企画:朝倉大介/撮影:稲吉雅志/照明:小川満/編集:酒井正次/音楽:藤本淳/録音:シネキャビン/助監督:榎本敏郎/監督助手:坂本礼/撮影助手:片山浩/照明助手:一色嘉伸・鏡早智/協力:広瀬寛巳・女池充・徳永恵美子・戸部美奈子/現像:東映化学/出演:貴奈子・吉行由美・川崎浩幸・今泉浩一・大沢涼・小林節彦・いぐち武士・渡剛敏・紀野真人・切通理作・広瀬寛巳・女池充・橋井友和・伊藤清美)。
 離れ小島にタイトル開巻、ミサトニックな洋館。俗世を捨てた富豪のカツジ(川崎浩幸=かわさきひろゆき)と食事を摂る娘のアリサ(貴奈子)が、不意に泣きだす。生の喪失感と同時に、「海の向かうに行つてみたい」と訴へるアリサに対し、カツジは「海の向かうには何もない」、「詰まらない人間達が詰まらないことにうつゝを抜かしてゐるだけだ」と言ひ包めた上で、常なる風情で娘を抱く。早々派手に拍子が抜けるのが、島から目線だと、対岸が思ひのほか近いんだな。そこら辺の港湾的な風景が、競技者ならば泳いだろかといひさうな距離で普通に見える。バルコニーに白いズックを残し、アリサはダイブする。一方、都内のお屋敷。テレビからはアナウンサー(橋井友和しか残らない/アシスタントの女は不明)が光速の減衰だなどと途方もないニュースを伝へ、ハルミ(吉行)が魚を捌くのに悪戦苦闘。和室では、義母のノギエ(伊藤)が「えい!」とかポン刀を抜いてみたりなんかする。
 配役残り今泉浩一は、実家も母も妻も唾棄する、ハルミの夫・ヨシオ。ノギエが固執しハルミが焦る子宝に関しては、等閑視するものかと思ひきや子供は欲しい模様。小林節彦・いぐち武士・渡剛敏は、岸に無事到着したアリサを人魚と見紛ひ、輪姦すレス・ザン・ホームな人等。チンピラ役の大沢涼が、俳優部に於けるアキレス腱。佐々共に若干色をつけた程度の、一応色男に過ぎない割に大仰な大根を悦に入つて振り回す挙句、息を吐くやうに銃を抜くゴミ造形。週に一度婦人会のボランティアで、ノギエが孤児院の夜勤に入る夜、ハルミも街に出て男を漁る。広瀬寛巳は、ヒッチハイクの形で漁られるトラック運転手。ところで婦人会のボランティアといふのはレッドな嘘で、ノギエは役立たずのチンピラを片腕に、VIP相手の秘密クラブを使ひ回すミサトで開いてゐた。本格的に痩せた現在とは体型ごと顔の違ふ、切通理作がVIP客。紀野真人は、ボートで海を渡り、アリサを捜すカツジが頼る占師。諸々を挽回しきるか否かは議論の別れる兎も角、命綱的な女池充は記憶を喪失したヨシオに接近する、下着までフルクロスの女装子。
 国映大戦第二十六戦は、佐藤寿保1995年ピンク唯一作、もう一本はENK薔薇族。この年から佐藤寿保は量産態勢を離れ、1998年に新東宝作とはいへ、九十分弱ある一般映画じみたピンク?と矢張りENK薔薇族を一本づつ発表後、現在に至る。
 役立たずのピラチンにミサトに連れて来られたアリサは、藪蛇な創造力が爆裂するチェーンソーメイドに扮せられ切通理作のお相手。暴走した末ボストンバッグ一杯の札束に、プレイを撮影したVHSを奪ひ逃走したアリサと、ハルミがミーツする。佐藤寿保×渡剛敏の組み合はせにしては、案外ストレートな展開。そして何はともあれ、何はなくとも、尺的に疎かにして済ます訳でも必ずしもない、吉行由美の爆乳の説得力が圧倒的。アリサを追ひ奔走するノギエとピンチラ挿んで、カット跨ぐとハルミとアリサが大輪の百合を轟然と咲き誇らせる繋ぎは一見出し抜けの極みながら、裸映画的には断固として、絶対的に正しい。劇伴からズンチャカな乱交カーが夜明けの果てを目指す爽快なラストを、カツジとヨシオを纏めて救済するアクロバットが側面から補完する。等々ポリアンナばりによかつただけ探すと良質の一作にも思へ、実際にはクライマックスの幽霊ビルを舞台とした、空騒ぎにさへ至らないクソ騒ぎが子供騙し以下に酷い。ノギエとピランチはまだしも、カツジが幽霊ビルに辿り着くのは流石に飛躍が大きく、撮れもしないアクションにむざむざ大惨敗する、ノギエとラピンチの最後―とカツジの乱心―は粗雑の極み。チランピ今際の間際の「まるで、マンガだ・・・・」には、マンガ舐めてんのかと本気で腹が立つた。幽霊になつた二人が踊り明かす屋上も、荒木太郎かよと匙を力の限り遠投するほかない。そもそも、相対性理論が引つ繰り返る超風呂敷を、ものの見事に放置してのけるのには吃驚した。ワルキューレの騎行―とキャンディ・キャンディ主題歌―を、小手先でチョイチョイ改悪もといアレンジした劇伴も癪に障る。一言で片付けるならば、他愛なくすらない出来損なひの娯楽映画。返す刀で筆禍を加速すると、斯くも惨憺たる代物でも、『PG』誌主催の第八回ピンク大賞にあつてベストテン九位と貴奈子の新人女優賞。貴様ら、鈴が鳴ると涎を垂らす犬か。


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