真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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若妻 しとやかな卑猥/素のDMM戦
さ行
/
2019年12月09日
「
若妻 しとやかな卑猥
」(1990/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/脚本・監督:佐野和宏/企画:朝倉大介/撮影:斉藤幸一/照明:加藤博美/音楽:伊藤善之/編集:酒井正次/助監督:ついよし太/演出助手:山村淳史/撮影助手:片山浩/照明助手:野村敦/効果:協立音響/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学工業/出演:岸加奈子・佐野和宏・一ノ瀬まみ・伊藤清美《友情出演》・荒木太郎・小林節彦《友情出演》・吉沢健)。
ミサトスタジオ
二階の寝室、荒木太郎と眠る岸加奈子が目覚め、窓際まで歩く。小林節彦に捨てられた、伊藤清美が路上にへたり込んで泣くありがちな修羅場を目撃した杏子(劇中での読みはあくまでヨーコ/岸加奈子)は、自分達で呼んだにも関らず、手の平返して荒木太郎を追ひ出さうとする。到底納得行かない荒木太郎が何故か今泉浩一のやうな口跡で荒れ始めたエマージェンシーに、杏子の夫・早瀬(吉沢)が介入。金の力で言ひ包め、どうにか荒木太郎を送り帰す。「何時までこんな生活を続ければいいの?」、「自分が嫌で嫌で自分を殺したくなるまでだ」。脚本家のマユミ?―吉沢健の発声が不明瞭で上手く聞き取れない―進次(佐野)が寝てゐると、打算で進次に接近する女優部(一ノ瀬)が書きかけのシナリオを勝手に朗読する。未だ髪が残る佐野も、女も双方スッカラカンに軽い。進次は露悪的か手荒に一ノ瀬まみを抱きかけ、わざと怒らせるかの如く帰らせる。杏子とかつて男女の仲にあつた進次に、早瀬から連絡が入る。テレビ畑で活躍してゐた進次が“飼ひ慣らされた豚に飽きた”だとか称して足を洗ひ、目下は制作される予定もない映画のシナリオに尽力だか執心する一方、不能の早瀬は男ですら、杏子の求めるものは何でも与へてゐた。再会を果たすや脊髄で折り返して進次と寝た杏子は事後、「私の幸せがあの人の幸せなの」の一点張りで進次と一緒になると決める。
ex.DMMことFANZAよりも幾分安いとはいへ、にしても今時あり得ないくらゐに画質の低い素のDMMで正調
国映大戦
。第二十三戦は佐野和宏1990年第二作、商業通算第三作。第三回ピンク大賞に於ける戦績はベストテン二位と、佐野の監督賞に岸加奈子の女優賞。ついでになほ一層信じ難いベストテン一位が、佐藤俊喜=サトウトシキの「
ぐしよ濡れ全身愛撫 BODY TOUCH
」(脚本:小林宏一=小林政広/主演:杉本笑)。直截に結論を急ぐと、どうかしてやがつたとしか思へない。
山内大輔
が
城定秀夫
の―最低でも―今世紀最強の痴漢電車を抑へた、第三十回(2017年度)よりも酷いのではなからうか。
いはゆる四天王と括られる四人の中で、少なくとも当時最も上手かつたのは普通の量産型裸映画もその気になれば撮れた佐藤寿保。但し佐藤寿保のキャリアは、残りの三人を四年先行してはゐる。瀬々敬久とサトウトシキはグダる際には何れ劣るとも勝らないほどグダりつつ、入る時の一撃の威力は断然瀬々が上。最もダサく不格好で、下ッ手糞な映画を撮るのが佐野和宏。といふ大雑把極まりない概観をこれまで、あるいは現時点に於いては持つてゐたものだが、いよいよその感を強くした壮絶な一作。
杏子と進次の蜜月時代の、ヘボピーみたいな佐野のフラワーな髪型にも
それはないだろ
と頭ないし腹を抱へたが、一旦完膚なきまでに映画がブッ壊れるのは、早瀬の招きに進次が軽く途方に暮れてからの一頻り。後々モデルの杏子が出演したPVである旨語られる、ダンスカダン糞よりダサい打ち込みが爆音で鳴る中、コマを飛ばした粗いビデオ画像で杏子が延々延々延ッ延踊り倒す、よもやまさかの三分十八秒といふ途方もない長尺。幾らグルッと一周しかねないダサさがある意味持ち味あるいは最大の武器ともいへ、岸加奈子をこんなにダサく撮つてどうすんだと、佐野はバカかと本気で呆れた。
スタイリッシュかつ情熱的でなくもないものの、頻繁に遮る早瀬のインサートは煩はしい杏子と進次の濡れ場は、中盤の確かな見せ場。更なる問題が、絡みといふ本義もしくは退路を事実上断つてしまつた後半。進次が劇中五年前に撮影した、杏子の8mmフィルムの上映を早瀬と進次の二人でホケーッと見る、超展開には唖然とするのも通り越して度肝を抜かれた。オッサン二人で、ブルーフィルムでさへない動くポートレートを淡々と観てるんだぜ、そんな画期的な構成のピンク見たことねえよ。荒木太郎は北沢幸雄よりも寧ろ、佐野の影響を強く受けてゐたのではあるまいかといふのと、映画に8mmを挿入するのは、死刑にしてしまへと改めてか重ねて本気で思つた。どうしやうもない木端微塵はどうしやうもない木端微塵のまゝで、臆しもせずに駆け抜けてみせる一種の鮮やかさといふ奴もあるにせよ、生半可な作家性とやらが、大御大や珠瑠美をも捻じ伏せる凶悪もとい強大な空疎に突つ込む問題作。ダンスカダンに止(とど)まらず、開巻即際立つ非力な本篇と合はせると尚更、無闇に饒舌な劇伴も耳に障る。キャイキャイ輝く岸加奈子を永遠に眺めてゐたい御仁にとつては陶酔なり珠玉たり得るのかも知れないが、女の裸に安然とうつゝを抜かしに小屋の敷居を跨いだ素面のオッサン客には、これはそつぽを向かれても仕方がない。
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