真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 中がいいは」(1989/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:カサイ雅弘/脚本:五代響子/撮影:下元哲/照明:白石宏明/編集:酒井正次/助監督:小原忠美/監督助手:小泉玲/撮影助手:片山浩/照明助手:林信一/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:南崎ゆか・伊藤清美・芳村さおり・山本竜二・池島ゆたか)。惜しくも、VHSジャケには監督がサカイ雅弘、惜しいのか?
 ハプニングバー的な物件、女二人にチップをビキニに挟ませて、モッコリを触らせる筋肉質のストリッパー(三人ともクレジットレス、背中しか見せない女二人は南崎ゆかと芳村さおりかも)の画から入り、少し離れたカウンターでは、ヨーコ(伊藤)が一人カクテルを傾ける。会議が長引いちやつてと、ヨーコの夫・村上(池島)が何某か贈物を持参して到着。ヨーコが欲しがつてゐた物とする結婚記念日(三回目)のプレゼントが、意表を突くバイブレーター。促されその場で付属するピンクローターを使ひ始めたヨーコが、店員(も不明)にやんはり注意されるほど上半身裸で乱れるや、メスブタと罵倒した村上はカクテルをブッかけ退席。ヨーコが服を上手く着られず村上を追ひきれない繋ぎで、都心の夜景にタイトル・イン。ヨーコと村上が車内でもプレイに興じるのが、最初の痴漢電車。互ひに秘部を弄(まさぐ)る激しい攻防戦、伊藤清美の高速舌嘗めずりに、カサイ雅弘クレジット。jmdb準拠で、今作が初のカサ弘名義作となる。
 帰宅した村上夫妻の夫婦生活は、縛りこそ緩いものの洗濯バサミから熱ロウ、鞭まで繰り出す本格的なSM。翌朝、出勤がてらゴミを出す村上に、ホットパンツから美脚も露な隣家の橋本(南崎)が御挨拶。村上家がアシッドに円満な一方、一作年配偶者に他界された橋本は早速ゴミ袋を漁り『SMスピリッツ』誌(昭和59~不明)とロープを発見、嫉妬心で拗らせた欲求不満を滾らせる。
 配役残り、一流企業の課長である村上の職場要員、画面向かつて右側が笠井雅裕につき、左の軽く長髪は定石だと小原忠美か。推定小原忠美が村上への電話を取り次ぐ山本竜二は、村上の弟・トオル。芳村さおりが、トオルが兄貴に結婚を報告しようとするカオル。
 国映大戦第二十四戦、といつて、面子的にも獅子プロ作くらゐにしか見えないカサイ雅弘=笠井雅裕1989年第二作、通算商業第四作。配信された新東宝ビデオ版ではフラッシュでボカシを入れつつ、現に放尿してゐるやうにしか見えないのがピンクではどうなつてゐたのか激しく興味を掻きたてられる、洗面器排尿の末に村上は誤つてヨーコを死なせてしまふ。死なせてしまつた魔展開を、欲求不満伏線を大輪の百合の花で加速した橋本を飛び込ませ更なる超展開に繋ぐ構成が圧巻。橋本女王様が恣(ほしいまゝ)に村上兄弟とカオルを虐げる、終始ノッペリと明るい撮影は幾分趣を欠きながらも、後年に毒された目からは凡そ国映作らしからず映る、堂々とした裸映画を構築する。ヨーコのマゾ性に絡める小技も心憎い、三撃目のダイナマイト展開が爆裂するトリプルクロスで、ブラックでないあくまで陽性の娯楽映画にハードランディング。糞カレーの件でカオルがトオルに惚れ直すのは、山竜らしい見せ場込みで力技の大団円を補完する地味な妙手。ついでにアバンから全篇を通して、鄧麗君系の中華歌謡と、大胆不敵な伊福部サウンドの丸パクリを豪快に使用する劇伴も特色。強ひて難点を論ふならば―当然の如く実車輌撮影につき―周囲の目を引くほどの無茶を仕出かしつつ、電車痴漢があくまで繋ぎに過ぎない一抹の弱さ。とまれ一人も殺めない爽快なパンチラインを経て、見事な富士のショットに叩き込まれる“劇終”が、良質の娯楽作を清々しく締め括る。当時笠井雅裕が傾倒してゐたのか、鄧麗君系のトラック以外には香港映画のエッセンスは特にも何も見当たらないけれど。


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