真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「淫乱なる一族 第一章 痴人たちの戯れ」(2004/制作:セメントマッチ/配給:新東宝映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:佐藤吏/監督助手:氏家とわ子・茂木孝幸/撮影助手:岡部雄二・前田賢一/スチール:山本千里/ネガ編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/現像:東映ラボ・テック/出演:矢崎茜・酒井あずさ・山口玲子・牧村耕次・華沢レモン・本多菊次朗・神戸顕一・しのざきさとみ・梅沢身知子・小川隆史・田中サブロー・モテギタカユキ・平川直大)。
 「僕は、結婚したかつた」、四年付き合つた彼女と別れて半年、当人いはく途轍もない寂しさに耐へかねたサラリーマンの一ノ瀬たかし(平川)は、取引先も交へた合コンに人生初めてで参加する。場慣れぬたかしに声をかけて来た、社長令嬢の山崎涼子(矢崎)とたかしが話に花を咲かせてゐると、話の腰をヘシ折らんばかりの勢ひで、たかしを間に挟んで涼子と逆隣の三好さくら(山口)が出し抜けな自己紹介で割つて入つて来る。幾ら合コンとはいへ、流石にザックリ、あるいはザクザクに過ぎる。とまれ“タイプが全く違ふけれども両方ともタイプ”とたかしはときめく、節操の欠片もない男ではある。酔つたフリしてたかしをサシの状況に持ち込まうとした、さくら常套の手洗ひ作戦を阻止した涼子は、たかしを別の店に誘ふ。生ひ立ち諸々たかしを知りたいと涼子が怪しげに投げると、フォントも処理も下品なタイトル・イン。アバンで御役御免の神戸顕一と梅沢身知子からモテギタカユキ(当然イコール茂木孝幸、田中サブローは田中康文)までは、居酒屋のその他要員。手前のテーブルに見切れる、パッと見今野元志に見えるのは誰?
 タイトル明けるとたかしと涼子はディープ・キス、そのまゝサクサク絡み、半年後に二人は結婚する。ミサトニックな山崎邸にたかしは同居、山崎家の成員は輸入会社を経営する涼子の父・順三(牧村)と、順三の三人目の後妻・ますみ(酒井)に、涼子の腹違ひの妹だけれども暫くたかしとは顔を合はせない、レオナルド・ディカプリオの写真と花々に埋め尽くされた部屋に引きこもる美奈(華沢)。順三とますみの、見るから腹に一物含んでゐさうなファースト・カット。順三のといふか恐らく牧村耕次私物の、襟にまで英字プリントが施されたドレスシャツが頭がクラクラ来さうな凄まじいセンスを爆裂させる。ところでデビュー当初、未だ表情に硬さを窺はせなくもない華沢レモン扮する美奈とたかしのミーツ。鼻歌と顔を照らす水面の反射光に気づいたたかしが庭に出てみると、美奈が水のないプールの底で人形を乗せた乳母車を押したり引いたりしてゐた。斯様に奇怪なシチュエーションにも関らず、初対面の美奈にたかしが普通に爽やかに自己紹介してみせる―依然一ノ瀬を名乗るので、入り婿ではないみたい―のも大概素頓狂なシークエンスである以前に、そもそもたかしを照らしてゐたのは全体何の光なんだ
 配役残り、後述する第二章共々遺影役のしのざきさとみは、息子共々ますみの勧めで二億の生命保険に入つた直後、不自然な転落死を遂げるたかし母。因みにその写真は二年後の田中康文デビュー作に於いても使用したのと同じ品、宣材か。キメッキメの男前で三枚目の変態を怪演する本多菊次朗は、順三の部下・徳永、何故だか各種資料には高橋とある。
 池島ゆたか2004年第二作は、二ヶ月後公開の次作「淫乱なる一族 第二章 絶倫の果てに」(主演:山口玲子)と対をなす一作。要は冒頭の合コンでたかしが涼子とさくらのどちらを捕まへるだか捕まるかで、何れにせよ酷い目に遭ふ。五年前の「痴漢電車 開いて濡らす」(1999/主演:水原かなえ)同様、「スライディング・ドア」(1998)とかいふ洋画の翻案らしいが、さういふことは俺は知らん。
 四番手にして華沢レモンが大股開きまでは義兄に披露しておいて、以降の顛末は豪快にスッ飛ばしてのける雑な繋ぎなり、レオ様を神と仰ぐ美奈のみならず、カラスとハトを正しく病的に恐れる順三のいはゆる電波系造形の清々しい藪蛇具合。所々に穴が開きつつ、重ねて精々怪しげではあつても決して妖しくはない主演女優も、そこはかとなくエクセスライクなスメルを漂はせる。第一章と二章を単純に比べてみた感想としては、山口玲子が豪快な濡れ場の牽引力で満開のピンク映画らしいピンク映画を咲き誇らせる第二章の方が断然優れてゐるともいへ、第一章も第一章でたかしが洒落にならない地獄に叩き落される案外ハードな展開は、二章との対比で逆に映える。各々単品でも完全に完結する趣向は、気紛れに小屋の敷居を跨ぐ観客の存在を当然想定して然るべき量産型娯楽映画的に実に麗しく、主人公の―といふかある意味標準的な―無節操さをも上手く開巻の分岐に盛り込んだ、スマートで秀逸な二部作である。

 順にますみと涼子が足を運ばずにスーッとたかしに近づく、細山智明をパクッた演出のほかに一点目を引いたのが、背後の幽霊に気づかない志村感覚で迂闊なたかしに、ますみは生命保険を勧める。酒井あずさが如何にも、あるいは軽やかな胡散臭さを表現するメソッドに覚えた既視感の、源は杉原みさお。積もつて山になるでもなく撮つては捨て撮つては捨てられて行くポップ・カルチャーの極北の中で、杉原みさおが人知れず残してゐた功績なり痕跡に触れた際には、少しだけグッと来た。
 締めはクソの話、結構リアルな脱糞描写は、何気に新東宝がよく首を縦に振つたやうな気がする。


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