真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「イヴちやんの花びら」(昭和59/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:中原俊/脚本:木村智美/プロデューサー:沖野晴久/企画:半沢浩/撮影:米田実/照明:内田勝成/録音:中山義広/美術:沖山真保/編集:奥原好幸/助監督:村上修/選曲:山川繁/色彩計測:小川洋一/現像:東洋現像所/製作担当:高橋伸行/出演:イヴ・太田あや子・木築紗絵子《新人》・金田明男・長江洋平・掛田誠・花上晃)。配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
 蝉の音開巻、“縁は異なもの 近きにあり”とする大吉の御神籤を握り捨てた、見るから暑さうに大荷物を背負つた山男が石段を上らうかとしてゐると、ヒールを脱いだ素足のイヴちやんがヒョイヒョイ下りて来る。流石に若え!と興奮するのは2016年の感覚で、素面でイヴちやんを見初めた男は、踵を返し後を尾けてみる。明らかに不審な長嶋東吉(金田)を一旦は撒いたものの、待ち伏せられたイヴ(大体ハーセルフ)が、通りがかつたユタカ(掛田)のジープに飛び乗つてタイトル・イン。イヴが喉の渇きを訴へると、ユタカは後部座席のビールを示す。官憲を鑑み結局飲まないとはいへ、イヴが普通にユタカにもビールを渡す大らかさが清々しい。
 絶妙に含みを持たせるユタカがイヴを連れ帰つた先は、ケンジ(長江)とジル(太田)が、どうやら三人で一山踏んだ風情でケンジの戻りを待つ山荘。何やら三角関係が拗れてゐさうな雰囲気の中、イヴをケンジにカッ浚はれたユタカと、ケンジをイヴに寝取られた格好のジルとが二人して逃げる踏ん切りに一戦交へてゐる隙に、ここが正直強力に不自然な件なのだが、イヴは二人から見える位置に置いてあつた、重要なブツらしきサーフボードを勝手に拝借、一人海を目指しプラッと捌ける。
 配役残り花上晃と木築紗絵子は、再会した長嶋を再度撒くべく、イヴは海辺の屋敷を自宅と偽る。花上晃が屋敷の主・岡原で、木築紗絵子がお手伝ひの喜美子。
 中原俊昭和59年第二作は、ロマポ四本と一般映画三本といふ本数以上に、ピンク映画デビュー作「人妻不倫 夫にばれなければ!」(1992/脚本・監督:珠瑠美)から遡ること八年といふ歳月により大きな意味があらうかと思はれる、イヴちやんの銀幕デビュー作。因みにイヴちやんは三本目の一般映画から「人妻不倫」までの間、六年映画から離れてゐる。
 もう一本の「後ろから前から」(監督・脚本:増本庄一郎/主演:宮内知美)は結構以上にマシであつたのに、一撃でロマンポルノRETURNSに企画単位で止めを刺した2010年版「団地妻 昼下がりの情事」(脚本:山田耕太/主演:高尾祥子)にあつては完全に映画の撮り方を忘れてしまつたのではあるまいかと目を疑ふか頭を抱へさせられた中原俊も、未だこの頃は俊英と持て囃される程度には鍍金が剥がれてゐなかつたらしく、ユタカらの拗れたトライアングルや、岡原と喜美子の意外な関係にイヴが判断に窮するなり、衝撃を受けるシークエンス。下手に台詞を与へるのではなくイヴちやんの表情を上手く切り取る戦法に徹した結果、それ以外の場面では概ね終始キャッキャしてゐるだけのイヴちやんが、後年芝居を覚えた―つもりの―イヴさんよりも余程女優として普通に輝いて見えたのには、正直複雑な心境を覚えた。恐らく、ただ単に若いからといふ訳ではない筈、俺は小娘よりは適度な年増が好きなんだ。

 知るかタコ

 といふツッコミはさて措き、珠組を主戦場に戦つてゐる内に、変な癖がついたものやも知れないといふ可能性も戯れか偶さかに想起するに、ますますモヤモヤした心持ちにもなつて来る。
 物語的には劇中終にイヴの素性はおろか旅、乃至は放浪の目的さへ明らかにはならないまゝに、イヴちやんがキラッキラしながらプラップラするだけの、ある意味潔い一作。一点歴史的に度肝を抜かれかける勢ひで感銘を受けたのが、エンド・クレジットが起動する直前の一幕。道行くイヴに声をかけた軽トラが、洒落で済む範囲の自損事故。その場から離れ何処へと歩き始めるイヴちやんが今でいふテヘペロを、本当にテヘッと肩をすくめペロッと舌を出す完璧な形で披露したのには、遅くとも昭和59年には既に完成されてゐたメソッドなのかと驚嘆した。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« ザ・ペッティ... セックスサス... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。