真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「未亡人診察室 潤み放し」(1995『会員制クリニック 女医は未亡人』の2002年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・村川聡/照明:秋山和夫・渡部和成/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:西海謙一郎・今泉裕美子/制作:鈴木静夫・津田修一/スチール:岡崎一隆/効果:時田滋/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:中山美緒・リョウ・小川真実・久須美欽一・甲斐太郎・青木こずえ)。
 時雨が亡くなつてもう三年云々と、ビリング頭二人の睦事の音声にタイトル・イン。スマイル財団の援助を受け会員制不妊クリニック「スマイル・クリニック」を開業する寡婦・時雨祐子(中山)に、祐子・時雨共々勤務医で、時雨の親友であつた江田コーサク(リョウ)はそろそろ再婚をと口説くも、祐子はクリニックに生き甲斐とやんはりと断り、中出しも拒絶する。当然当時旦々舎のスマイル・クリニックに、久須美欽一・小川真実夫妻が来院。人工授精を促された小川真実は、どうせならと精子バンクを利用しての、ノーベル賞受賞者やオリンピック選手の種で身ごもらうと勝手に盛り上がる。
 配役残り甲斐太郎は、配偶者には無断でスマイル・クリニックの検査を受けた、会社社長・木戸雄三。若過ぎて首から上が未完成な青木こずえは、どうしても自分の子供に事業を継がせたい木戸が、そのためだけに再婚した若い後妻・ナツミ、前妻には慰謝料を幾ら積んだのか。
 在りし日の夫婦生活回想の形での濡れ場はおろか、亡夫が遺影すら見切れないのがある意味清々しい、浜野佐知1995年薔薇族込みで全十三作中第十作、ピンク限定だと第九作。DMMの中に残る未見の旧作が―全てエクセスで―三本しか残されてゐないのは、地味に切実な問題ではある。無論、新作ならばなほのこと絶対大歓迎。ラストピンク・スタンディングを本気で目指して欲しい浜野佐知には後生だからデジエクを再起動させるか、あるいは大蔵とヨリを戻して頂きたい。ある意味の清々しさに話を戻すと、そもそも、これで中山美穂とのソックリさん路線で売つてゐたのか否かが今となつては判別に甚だ難い、中山美緒自体―なり祐子の造形―に未亡人らしさがまるで見当たらなかつたりもする。さうはいへ、どんな女が、もしくはどうすれば未亡人らしいのからしくなるのかと問はれるならば、元々後家属性を持ち合はせぬ無粋な輩につきよく判らないけれど。
 久須りんにせよ木戸にせよ、個別で呼んだ旦那を祐子はわざわざチャイナドレスでお出迎へ。対久須りん戦の事前には珍しいマイルーラ装着シーンも噛ませての、華麗に女医が患者を喰ふセックス療法の底の抜け具合は、如何にもな量産型娯楽映画感がこちらはストレートに清々しい。旦々舎的には滅法尻の軽さと同義で積極的とはいふものの、土台中山美緒が前に出る圧力を感じさせない祐子は何処までも借りて来られたエクセスライクもとい猫に止(とど)まり、ナツミに至つては折角乗つた玉の輿に汲々とする単なる在り来たりな女。エリートの精子での人工授精をガツガツ目指す小川真実が、僅かに自身の性を主体的に追及する旦々舎ヒロイン像にそぐつてゐなくもない、随分俗つぽくはあれ。といふか、余程硬質の演出で捻じ伏せでもしない限り、俗つぽさが小川真実最大の持ち味であるやうな気もする。
 薄味の旦々舎テイストに加へて、地味に驚いたのが要は嫁に虚仮にされた格好の久須りんに跨つた祐子は、「貴方の遺伝子はこの世に残すだけの価値があるのよ」、「子孫を残すことは生存競争なの」、「貴方が貴方だけでお終ひになつてはいけない」と久須りんを励ますだか慰撫する。素朴な肯定、ないしは根拠のない承認がシニックな思想人の相を自身からも窺はせる山﨑邦紀方面から、チンコの甘やかしぶりが浜野佐知方面から、双方何気に激しく意外な展開。その後も女達がバカタレの男供を袖に自由に羽ばたいて行くでなく、気紛れなスマイル財団に梯子を外された祐子はスマクリを畳んだ後、江田と矢張り不妊治療専門の「時雨+江田クリニック」を新規開業。久須りん夫妻と木戸夫妻はどちらも目出度く授かつた子宝の誕生を待つだなどと、捻りも何もないラストには一見棒弾かとバットを出しかけて、私は度肝を抜かれた。妻を男女を問はないどころか霊長類以外にさへ寝取られ、眉根に頭蓋まで到達する勢ひの深い皺を刻み込み、暗い部屋―か旦々舎の縁側―にて「どうしてかうなつた」と徒に難渋に苦悩する十八番で御馴染のリョウ(=栗原良=ジョージ川崎=相原涼二≠栗原一良)の、恋路が普通に成就してる!改めて探してみれば別に珍しくはないのかも知れないが、一見他愛なくすらなさげにみせての、まさかよもや驚天動地のリョウ・ハッピー・エンドには如何とも形容し難い感興を覚えた。


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