真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 いけない夢旅行」(2014/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/助監督:小山悟/監督助手:小鷹裕/撮影助手:酒村多緒/照明助手:小松麻美/音楽:與語一平/スチール:阿部真也/現像:東映ラボ・テック/出演:辰巳ゆい・大城かえで・倖田李梨・小林愚太郎・岡田智宏・津田篤・久保田泰也・丸橋まき・北野智美・根本隆彦)。出演者中、北野智美と根本隆彦は本篇クレジットのみ。
 殺風景なタイトル開巻、電車内で原友美(辰巳)がクシャミをする毎に、股間から胡瓜二本・玉葱・大蒜・茄子と大量の野菜がボロボロ落ちる。周囲の乗客が好奇に目を丸くする一方、赤面至極の友美は野菜挿入マニア・風間健吾(岡田)に対し、最終的には菊穴に大ぶりの玉蜀黍を捻じ込み反撃した一戦を回想する。一息ついた流れで、友美は痴漢に被弾。エクスタシーに達した友美は、陰のある二枚目痴漢師・上田真樹雄(小林)と何故か、といふか何と十年前の鎌倉の海岸に放り込まれる。ここで小林愚太郎とかいふ人を喰つた名義の正体は、二年ぶりに帰還した藤本栄孝。閑話休題、事態を呑み込めぬ友美に、上田は新聞の日付を示し二人がタイムスリップ(面倒臭いので以下TS、ミュージックか)した旨納得させる。TSする先は、女の思ひでの場所、鎌倉は友美が幼少期を過ごした土地だつた。上田はかつて恋人・藤田美紀(大城)と痴漢プレイの最中、初デートした池袋にTSする。その後美紀と離別した上田は、美紀に辿り着くTSのために、電車での痴漢に明け暮れてゐた。さうかうしつつ、上田に協力する格好の友美、のみならず、如何なる次第か恐らく上田も標的に、風間が二人の行く先々に出没する。尻にはもろこしが植わつたまゝ、内股のヨチヨチ歩きで。
 配役残り丸橋まきは、幾ら敵がイケメンとはいへ電車で痴漢されたところで当然絶頂には至らず、上田が空振りに終る女。二度目のTSを経て、友美は上田のとある異変に気づく。倖田李梨は、その時雷鳴のやうなSEとともに全裸で文字通り飛び込んで来る、劇中もう一人のタイムスリッパー・高田美奈江。津田篤は、美奈江の情夫で命を粗末にするヤクザ者・杉野清孝。高田美奈江が高田みづえで、杉野清孝は杉山清貴からといふのは容易に看て取れるとして、残りの面子にも名前の元ネタあるのかな?根本隆彦はオープニング・シークエンスから参戦、北野智美は締めの痴漢電車パートに見切れる乗客。その他、上田が美紀と彷徨ふTS後の池袋に貼られた―イイ出来の―政見ポスターには、日本酒党の井尻鯛(=江尻大)先生が。思ひつきで友美が上田に仕掛けた逆痴漢に際しては、小松公典が顔射を秀逸に浴びる。
 竹洞哲也2014年第一作は、自身二度目となる伝統の栄えある正月大蔵痴漢電車。後半回収されるまで展開上そもそも件そのものが画期的に判り辛い、上田と美紀が別々の時間に飛ばされた理由。別に薄くもならずに、普通に背後の塀に落ちる影。これは思ふに、辰巳ゆいと藤本栄孝の立ち位置を逆にすれば回避可能な気がする。そして完全に消滅した筈―それもそれで、また別のパラドックスは発生しないのか―なのに、友美も上田も忘れてゐないあの女(ひと)の記憶。真田幹也の爪の垢でも飲ませたい、藤本栄孝の老けメイクの綺麗な甘さ。さて措き、離れ離れとなつた恋人を捜し求め、男は電車痴漢と時空移動とを繰り返す。痴漢電鉄に昨今隆盛のタイム・ループものを大胆に直結した物語は、散見されるツッコミ処にも関らず、丁寧に練られた脚本と効果的な配役とに支へられ瑣末は薙ぎ倒さんばかりに面白い。昔はハンサムな好青年と戯画的なツッパリ程度しか満足な自前の抽斗は持ち合はせなかつた、あの不器用な岡田智宏が何時の間にか中性的な変態役を十八番に。ビリングの頭を十分に張れる大城かえで―残念ながら今作がラスト・アクト―が持ち前の決定力で、初陣の主演女優をサポートする布陣は勿論磐石。凝つた設定の外堀をやさぐれた風情で埋める倖田李梨と、ハッピーエンド要員で穏やかに満を持す久保田泰也。工夫を欠いた津田篤―但し雨中のカーセックス、助手席の美奈江が脱ぎ始めるとワイパーを回すタイミングは完璧―を除けば、隙のない三番手・四番手の起用法も地味に素晴らしい。充実した展開に撮影部も呼応、都合二度火を噴く、友美と上田の背後に大きく鎌倉の海を背負つたロングの映画的な美しさには溜息が洩れた。カットの構図と緊迫感が抜群な、友美が消滅効果をも増幅させるクライマックスは「ルーパー」の二、三百倍エモーショナル。足りないものは如何にも正月映画らしいベタベタな王道さ程度の、諸々丹念に積み重ねた上でのラスト・シーンが清々しい2014年先制作。これは今年は幸先がいゝ、といふことでよろしからうか。

 哀しい実相を隠す仮面か、序盤へべれけに過ぎると思はれた友美の所作と口跡に、その内既視感が。「悩殺若女将 色つぽい腰つき」(2006)に於ける、初期竹洞組のミューズ・吉沢明歩演ずる北村花子とほぼ全く同じ造形である。


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