真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 とろける夢タッチ」(2010/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典・山口大輔/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/助監督:山口大輔/監督助手:小山悟/撮影助手:丸山秀人・酒村多緒/音楽:與語一平/協力:加藤映像工房・有限会社TOHOO・エキストラのみなさん/出演:和葉みれい・かすみ果穂・山口真里・倖田李梨・毘舎利敬・石川ゆうや・岩谷健司・岡田智宏・サーモン鮭山・津田篤・久保田秦也・井尻鯛・葵うさぎ)。出演者中、津田篤がポスターには津田敦、この期に及んであんまりだろ。井尻鯛は、本篇クレジットのみ。
 混み合ふ、ほどでもない電車の車中。画面手前から並んで立つ「島野探偵事務所」所長代理のハニー倖田(倖田)、一応人妻の白井あゆみ(山口)、そして痴漢要員の葵うさぎ―抜かれる順は葵うさぎから―に、奥のドア付近に立つタキシード姿の見るからに怪しげな男・西村修、に少し色をつけた西村修身(石川)が鋭い視線を注ぐ。いきなり形式的な特徴としては、カメラ位置のフットワークを狙つたものであるのやも知れぬが、通して電車シーンは―と、後の和葉みれいとかすみ果穂のファースト・コンタクトの直前に於いても―キネコを使用。この点に関しては、判り辛ければピントが合はせられてゐない箇所の、“荒れ”を注視して頂きたい。話を戻して、歩道橋の上で、白衣姿の男が通過する電車を見下ろす。歩道橋の男がストップ・ウォッチで計測を始め、三人の女と正対する座席に座る、矢張り白衣を着た藤波辰爾もとい藤並竜也(岩谷)が電車の中なのに傘を拡げるや、西村起動。葵うさぎから順々に痴漢、次々と防御する藤並の傘に潮を―ハニー倖田は失禁―噴かせる。女達を昏倒させた西村の決め台詞が「南無阿弥陀仏」、安い外連が堪らない。電車組の二人はストップ・ウォッチの男・吉江、ならぬ吉川豊(毘舎利)と合流、三人で合はせた人差し指と中指を卑猥にヒクつかせ、「ビバ、痴漢!」と素頓狂な気勢を上げたところでタイトル・イン。振り切れた底の抜け具合が、逆に強靭な娯楽映画を予感させる。
 タイトル明けると主演女優の後背位、如何にもピンク映画的な繋ぎの大胆さが麗しい。西村知美もといもとい西村知世(和葉)と、恋人の畠田理恵もといもといもとい畑田理雄(津田)の情事。ところが一旦一段落ついたところで、女探偵である知世に呼び出しがかかる、知世の在籍事務所は終に不明。再び大胆なカット明け、今度は“元”人妻探偵の志村香(かすみ)登場。島野探偵事務所の表で、今作が不発気味のスタイリッシュ探偵物語「人妻探偵 尻軽セックス事件簿」(2009)の続篇であることを華麗に宣言した香は、ちやうどその時依頼に訪れて来た、しがなくないサラリーマンの白井丈二(サーモン)と出くはす。所長の島野奈美と沼倉英二(AYAと松浦祐也/共に壁に掲げられた写真のみ)は出張中につき、ハニー倖田と香が白井を応対。白井は、電車の中で痴漢されたことによる快楽が忘れられなくなり、失踪した妻・あゆみを探してゐた。羽振りの良さげな白井の風情に香が俄然ヤル気を出すことは兎も角、ハニー倖田には職業柄、その当のあゆみと今しがた同じ車輌に乗り合はせてゐたことを覚えておいて欲しかつた。一見探偵といふよりは概ね漫才師に近い、香とハニー倖田に不安を隠せない白井が、別の探偵事務所を併用することを思ひたつ一方、香は目下抱へる浮気調査をチャッチャと片付けるべく浮き足立つて飛び出す。
 岡田智宏は、奈美が自分の留守中何かあればと事務所に残して来た、普段は寝るか本を読んでばかりの、カーキの繋ぎに首から上はほぼ金田一耕介、首からはシド・ビシャスのやうに、では別になく大きな南京錠をぶら提げた、鍵師と呼ばれる矢張り探偵。その他特徴としては、古畑任三郎のやうな口跡も使ふ。登場順に井尻鯛(=江尻大)と久保田秦也は、前作を踏襲するマッチポンプ式ハニートラップの、香と知世それぞれの標的。ラブホテルに強制的に連れ込まれるに際し、かすみ果穂に殴り飛ばされる井尻鯛のしばかれ芝居は、短いカットながら地味に完璧。それと、もしかすると江尻大は、35mm商業映画で世界一女優と絡んだ助監督、でギネス申請すれば通るのではなからうか。エキストラのみなさんは、当然乗客のみなさん、他に小松公典も勿論見切れる。互ひに井尻鯛と久保田秦也を文字通り篭絡し、改めてあゆみ捜索に奔走する香と知世は、高校以来、久方振りに今度は商売敵といふ形で再会する。二人は当時、城定秀夫の「デコトラ☆ギャル奈美」第二作の吉沢明歩と亜紗美夜露死苦よろしく、界隈最強の座を賭け、香に知世が挑んだ因縁にあつた。
 遠く大蔵時代から連なる、オーピー例年通り正月番線痴漢電車は新年を賑々しく飾るに相応しい、奇想天外にして呵々大笑かつ一気呵成、滅法面白い娯楽活劇の大快作。謎の痴漢氏を誘き寄せんと、電車内で明後日な露出合戦を繰り広げる知世と香を霞ませるほどの、吉川・藤並と西村の正体は。吉川が、痴漢時の背徳感と高揚感のエネルギー転用を目指すだなどといふ、頓珍漢な研究テーマを掲げた末に案の定学会を追はれ、失意の裡に自死を図つたマッド・サイエンティストで、藤並はその時蘇生もした助手。ひとつ通り過ぎることの許されない細部が、吉川の回想中に再登板する葵うさぎの黒縁メガネは実にエクセレント。西村は有数の拳法家であつたものが、痴漢の冤罪をかけられ同じく失墜、吉川らから指と男根に改造手術を施された、痴漢とカンフーのハイブリッド・メソッド“チカンフー”の使ひ手!チカンフーて、偉大な発明だ。丘尚輝(=岡輝男)がユン・ピョウ改めウンピョウに扮する、助監督を竹洞哲也が務めた「痴漢電車 快感!桃尻タッチ」(2003/監督:加藤義一/主演:佐倉麻美)でもその発想は出て来なかつた。西村のチカンフーで日本中の女をイカせ、痴漢に関する認識を覆す。僅か三人ばかりのプチ秘密結社が巻き起こし、破廉恥な桃色女探偵が掻き回す大騒動の、正しく鍵を握る鍵師は挙句に、胸元の錠前は実は自身の能力を抑へるリミッターである、人外なテレパス能力を誇る超能力探偵Z、Zは余計だ。「尻軽セックス事件簿」では鼻についた、瑣末で半端なエモーション志向は潔く一切排し、余らせた細かな且つ膨大な手数は驚異的な打率を発揮する丁々発止の遣り取りに傾注。途切れを知らぬ弾幕がバラ撒かれ続ける中を、何れも主砲級の飛び道具が苛烈に交錯する展開は、松岡邦彦が湿り気味の近年にあつては稀に見る完成度。全篇に間断なく敷き詰められた馬鹿馬鹿しさの、結果最終的な情報量の甚大さと、抜群のテンポは絶品である。鍵師と西村の最終決戦を頂点に、シリーズではなく竹洞哲也自身の前作ではまるで形にならなかつたアクション描写が、今回は何れも有効。第一作をスマートに引き継いだ上で、吉川一派は倒したものの、あゆみといふ新たなモンスターの誕生―結局、知世も香も実は白井の依頼自体は果たせてゐない―に事件の継続も爽やかに予感させるオーラスに際しては、どさくさ紛れに第三作の可能性も匂はす、シリーズ作ならではの小技も生命力豊かに光る。フと気付くと愚息を勃てた覚えの殆どないやうな気もするが、この際瑣末とさて措け。カテゴリー自体の命脈が絶たれてしまふ前に、是が非とも更なる強力な進化を遂げた次作を観たい一作。卒業生を復学させるが如き無理を承知でいふが、その暁には、どうにか松浦祐也も引張つて来ては貰へまいか。


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