真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「獣欲魔 ちぎれた報酬」(1993/製作:旦々舎?/配給:大蔵映画/監督:水元はじめ/脚本:秋津瑛/撮影:田中譲二・稲吉雅志・松本治樹/照明:秋山和夫・永井日出雄/音楽:薮中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:広瀬寛巳/制作:鈴木静夫/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:森山美麗・早乙女じゅん・新島えりか・杉本まこと・須藤信伸・水元はじめ・甲斐太郎)。
 タイトル開巻、事そこに至る子細は軽やかにスッ飛ばし、実業家の白馬仁(杉本)が陽子(森山)を自宅で犯す。肉棒だ牝犬だと下卑たといふよりは安い台詞を無闇に振り回した事後、白馬は陽子にポンと札束を寄こし、親爺の借金の棒引きと、月々のお手当での愛人契約を迫る。所変つて旦々舎がよく使ふ公園、そんなところに魚がゐるのか、噴水に釣糸を垂らす栗村東(甲斐)に、川田ケン(須藤)が接触する。川田はかつて“列車集団レイプ事件”で名を馳せた栗村に、実業家の愛人から持ちかけられた本妻をレイプし証拠のビデオを撮影すると五百万といふ仕事を持ちかけるも、アル中であつた頃の昔話だと、栗村は取り合はない。一方白馬家、愛人である陽子をお手伝ひのやうな形で家に入れることを承諾した本妻(早乙女)は、夫婦生活がてら今日も恣に高額のお強請り。持つ者と、持たざる者。実はサラ金で首が完全に回らない栗村は、結局別れ際渡された川田の電話番号に、自宅の電話なんて当然繋がる訳がないゆゑ公衆電話から連絡を取る。
 配役残り新島えりかは、白馬と本妻と愛人である陽子が暮らす白馬邸こと要は旧旦々舎に、更に同居する白馬の妹で学生のマミ。捌けたといふか何といふか、奇々怪々な家庭環境ではある。ここで、寧ろこの期に及ぶまで知らなかつた己の不明を恥づべきなのだが、新島えりかとは林田ちなみ(a.k.a.本城未織)と同一人物。林田ちなみと本城未織を併用しやがて林田ちなみに一本化する以前に、使用してゐた名義が新島えりかといふ次第になるらしい。御大将自ら出陣水元はじめは、後ろ髪を縛つた白馬邸ボディガード。強敵には手も足も出ない代りに、雑魚には強い。そして一年後―川田以外の―それぞれを描くラスト・シーン、正直殆ど無駄に飛び込んで来る広瀬寛巳は、マミが家に招き兄に紹介する川上君。これこの人御馴染みの一張羅を、一体何時から着てゐるのか。
 水元はじめ1993年第二作、といふよりも、山﨑邦紀ピンク映画―山崎邦紀名義で薔薇族が一本先行する―大蔵第二作。水元はじめといふのは山﨑邦紀の編集者時代からのペンネームで、脚本の秋津瑛も変名。といつた辺りは、奈良の九武虎男氏との遣り取りの中で明らかとなつた、あるいは思ひ出された事柄である。映画本体に話を戻すと、手篭めにされた女の復讐心が、リタイアした伝説の強姦魔を呼び覚ます。といふと如何にも出鱈目に聞こえつつ、たとへば強姦魔を殺し屋なり傭兵なり特殊部隊隊員に置き換へてみると、案外ありがちな物語に思へなくもない。それはそれとして、潤沢な濡れ場の尺に反比例して陽子の造形は綺麗に宙に浮き、締めも粗く、ドラマの全体的な完成度は決して高くはない。但し兎にも角にも見所は、獣性を発露し暴れた雄、もとい暴れ倒す甲斐太郎。川田を潰され、止めた筈の酒をカッ喰らつた栗村が再び白馬邸に突撃する件が今作の白眉。聞くからに確かに只事ではない“列車集団レイプ事件”に関して、女の子から老婆まで犯したと驚愕の内実を白馬から投げられた栗村は、怯みも悪びれもせずに「子供でも動物でも、動くものなら何でも犯した」!わはははは、ムチャクチャだ。挙句にその場に―旅先から予定を早めて―帰宅したマミを、兄の眼前犯す。火に油を注いでダイナマイトを焼べる正しく極悪非道ぷりながら、やりかねないとさへ思はせる馬力と迫力、重低音が歪んだビート感は役者甲斐太郎一流。トゥー・ワイルドさがあまりにもカッコいい、後年こちらは一転好々爺的な真逆のベクトルからの「変態体位 いやらしい性生活」(2005)共々、甲斐太郎を語る上で欠くべからざる一作といへるのではなからうか。膨大なキャリアを、何処まで追へてゐるのかに自信はないが。

 ひとつ可笑しなツッコミ処は、栗村の第一次白馬邸襲撃。川田が宅配便を装ひ誘き寄せた山﨑邦紀に、隙を突いて栗村が背後からスリーパー・ホールド。そこから締め落とすといふよりは、そのまま首の骨をヘシ折つたやうにしか見えないカット。うわ、殺したのか!?と明後日に驚いた(笑



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