真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「乱交の門 むさぼり調教」(2014/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本・出演:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英/編集:酒井正次/音楽:宮川透/撮影助手:海津真也・伊藤尚樹/助監督:三上紗恵子・増田秀郎・光永淳《じゅん》/タイミング:安斎公一/出演:花穂・愛田奈々・海老名まゆ・淡島小鞠・津田篤・久保田泰也・太田始・那波隆史・稲葉良子)。ポスターにある協力の花道プロとロケサポートのMAiZUと更に出演者の西村晋也が、本篇クレジットには載らない。
 結構おつまみも拡げてる割に腹ぺこだといふ夫(西村)に急かされ、管マヤ(花穂)が食事の支度をする。一旦居間のテーブル上の雑誌を片付けるかとしたマヤは、『THE BIG ISSOW』誌の野垂れ死んだアル中の記事に目を留める。煮立つ鍋、クレジットが先行し俎板の両面にタイトル・イン。てことは作中現代時制は近未来なのか、五年前、詳細は軽やかにスッ飛ばし3.11に関連して恋人を喪つたマヤは、全てを失ふ。声だけ聞かせる大家(三上紗恵子)に追ひ出され相模原の地でホームレスとなつたマヤを、興奮すると鋏で自らの頭髪を切るギミックがドラゴン気取りなチンピラ(荒木)率ゐる愚連隊が犯す。辛うじて逃げ出したマヤはボンバーズ(凄え仮称)に追ひ詰められるも、聖子=せい(稲葉)をリーダーとする、安井花江=六(淡島小鞠/脱ぎはしない)・乾美乃(愛田)・菊島真知子(海老名)ら地産地消売春グループに匿はれる。そんなある日、掟を破り生島(津田)と金を取らないセックスをしてゐるらしき美乃に六とマヤが猜疑を募らせてゐると、泥酔した伊吹新太郎(那波)が限りなく入水に近い勢ひで川に落ち、一味のアジトに担ぎ込まれる。
 配役残り、アジトに文字通り飛び込んで来る久保田泰也は、真知子を喰はうとして返り討たれる客。一人だけクレジットが手書きで添へられる形の太田始は、状況が全く未整理なのだが放逐後の美乃と再会―ここのロケーションがMAiZU?―し寝る伊吹を、半殺しにする男。それと六がほぼ常時抱くなり連れてゐる子供は、今や首が据わり、二足自立も可能、その内台詞を喋りだすぞ。忘れてた、アジトに出入りする三河屋は広瀬寛巳。描写は割愛し六に尺八を吹いて貰ふ、金は取られようが。
 2014年作九州初着弾は、正月第二段の荒木太郎第一作。『肉体の門』なのかそれとも『堕落論』なのか、はたまたその何れでもないのかな始終は兎も角、開巻とラストで五年間の回想を挿む構成―くらゐ―はビシャリと決まる。それだけに、口跡も佇まひも何もかも同じく新顔の三番手に劣る、精々杉原みさおの現代風リファイン程度の主演女優が最大の大穴。ここに美泉咲がゐたならばと思ふと、重ね重ね惜しいところではある。何度観ても正直映画向きには思へない稲葉良子の、誰よりも筋骨隆々とした二の腕の衝撃はさて措き、もうひとつ気になつたのは、2011年以降殊更に顕著な、箇条書き風の不用意な時代性。荒木太郎の気持ちは酌める程度の時事意識は、線の細い叙情性にせよ脆弱な物語の構築力の上でも劇中世界の中で決して実を結ぶものではなければ根を張るでもなく、所詮は余計か薮蛇な意匠に過ぎまい。となると一昔前は世間の片隅を風靡した、荒木調ならぬ荒木臭―だから濡れ場を早送るな、アホか―の、両義的に現代的な展開ともいへるのではなからうか。

 それと今作に始まつた話でもないのだが、覚束ない本篇を易々と凌駕する宮川透の劇伴は、荒木太郎にとつては諸刃の剣でしかないやうに聞こえる、負けてどうする。


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