真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「悩殺若女将 色つぽい腰つき」(2006/製作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典/撮影監督:創優和/助監督:山口大輔/監督助手:伊藤一平/撮影助手:原伸也/照明助手:宮永昭典/題字:吉沢明歩/音楽:與語一平/挿入歌:『LIFE』作詞・作曲・唄:ニナザワールド/協力:菊屋うどん・加藤映像工房・小山悟・安達守・津田篤・膳場岳人・小松のヨメ、他多数/出演:吉沢明歩・青山えりな・倖田李梨・柳東史・松浦祐也・サーモン鮭山・岡田智宏・甲斐太郎・なかみつせいじ)。『PG』誌主催による2006年度ピンク映画ベストテン、作品部門第一位の受賞作である、因みに封切られたのは十二月。
 デリヘル嬢の北村花子(吉沢)は、自称青年実業家の高田信雄(サーモン)に、なけなしの全財産百万円を結婚新居の建築資金と偽り持ち逃げされる。帰る家も持たないのか、当て無く彷徨ふ花子は終に空腹に力尽き行き倒れてしまふ。箕輪一義(なかみつ)に助け起こされうどんを振舞はれた花子は、恩返しと称して半ば強引に一義のうどん屋に住み込みで働き始める。
 コメディ・タッチの鶴ならぬ蛙の恩返しは、一義の幼馴染・五味隆(柳)のドラマの深化から、夫婦、親子、そして男と女。通ひ合ひ結び合ふ心と心とを描いた、オーソドックスな人間ドラマへとシフトする。といふと、実は同日に小屋をハシゴして観てゐる、加藤義一の「混浴温泉 湯けむりで艶あそび」(2006/主演:上原空)と、全く似たやうな感想になつてみたりもするのだが。勿論決して悪くはなく、要素要素のバランスのよく取れた良質の娯楽映画ではあるものの、正直なところ2006ピンク映画ベストテン第一位といふのは、些かながら如何なものかと首を傾げぬでもない。全体的な構成の緩み、あるいは求心力の欠如が見られなくないこともあり、それだけの決定力を有する映画にはあまり思へない。とはいへひとまづ、加藤義一+竹洞哲也のオーピー若手ツートップが担ふ、王道娯楽映画路線への強い支持、とここは好意的に捉へておかう。叩かなくてもよいのを通り越し叩かぬ方が望ましい憎まれ口を矢張り叩くと、あれだけ木端微塵であつた2005年の竹洞哲也に監督賞を受賞させてゐる時点で、そもそも件のベストテン自体に、個人的にはあまり重く信頼を置いてはゐなくもある。
 登場順に松浦祐也は一義のうどん屋の、頭の弱い店員・番田礼。志村けんとコントに興じる際の柄本明ばりの怪演で、コミック・リリーフを好演。同時に、さりげなくも松浦祐也の必殺が今作火を噴くのは、幸(後述)からの久々の手紙を、一義が受け取る場面。一義に手渡す前に勝手に封を開けてみせるテンポの良い小ネタを挿みつつ、生き別れた娘から不意に届いた手紙を、半々の期待と不安とを胸に一義は繙く。そんな主人を心配さうに固唾を呑んで見守りながら、一義にとつて喜ばしい中身であつたことを看て取るや「大将バンザーイ!」と歓喜を爆発させる、ところまでを背中で演じ切る。松浦祐也の確かな地力が、威力を発揮した一幕である。倖田李梨は、夫の隆と商店街で書店を営む茜。劇中登場する書店は、松浦祐也の実家であるとのこと。出前に書店を訪れがてらエロ本を立ち読みする番田の妄想の中では、倖田李梨見参!を銀幕に刻み込む剛腕のエロ女ぶりがクリーン・ヒット。明るい書店内で堂々と、茜は倖田李梨十八番のエロダンスを披露。扇情的に男に跨る、ところで「ダメーッ!」と番田が自らのエプロンを引き上げ下から結合部を隠すアクションは、規制を逆手に取つた小気味良いギャグである。
 餞別が泣かせる、店を潰し町を去る隆と茜の件から、家を出て以降生き別れの状態にある一義の娘に物語が流れるやうに移行する件は見事の一言。青山えりなは、一義の娘・幸。真心をぶつきらぼうに包み隠した不器用な青年に扮する岡田智宏は、結婚を一義に反対され、幸と駆け落ちする若い料理人・須藤憲二。青山えりなの充実は映画に強い力を与へはするのだが、これでもう少し、同時に軽目の役柄もこなせるやうになつたならば、いよいよ手のつけられなくなる最強に、手が届きもすると思ふのだが。ハリばかりでメリハリが、無いといへば無い。一方主演の吉沢明歩も、2003年のAVデビューから、ピンク出演も「人妻の秘密 覗き覗かれ」(2004/監督:竹洞哲也/脚本:小松公典・竹洞哲也)を始め何だカンだで足掛け三年五作目ともなる。正しくアイドル的な魅力がその間全く損なはれてゐない点は素晴らしいが、その分といふか何といふか、お芝居の方も相変らずアイドル然としてゐるといへなくもない。
 今回一日で小倉、八幡と小屋をハシゴして計五本のピンクをこなして来た中、竹洞組、加藤組、山内(大輔)組のそれぞれ新作三本共で正しく八面六臂の大活躍を見せるのは、いづれも“撮影監督”としてクレジットされる創優和。構図へのこだはりを見せる山内組での撮影に比して、店を畳み困難を共にする決意の上での茜と隆の濡れ場に際して、今作では映画的色調への追求を感じさせる。妄想シーンの雑な紗の掛け具合には、再考の余地が窺へなくもないが。一方加藤組での仕事にあつては特段何がどうといふこともありはしないのだが、それは実は同時に、大多数の観客に対し決して緊張を強ひることもない、大いなる安定を意味してもゐる。多彩且つ何れも高水準の仕事ぶりには、2006年度ピンク映画ベストテンの技術賞受賞も大いに肯けるところである、筆の根も乾かぬ内にいふやうだが。同じく青山えりなの女優賞は兎も角新人女優賞受賞に関しては、最早さて措く。ヒントとしては、涼樹れんて誰だつけ?
 
 前々作「乱姦調教 牝犬たちの肉宴」からの恒例か、女性ヴォーカルによる挿入歌は、前作「親友の母 生肌の色香」から引き続いて起用のニナザワールドの『LIFE』。ハマッつてゐるのか邪魔なのかが、個人的には物凄く微妙なところである。とりあへず、無くても別に困らないやうな気はする。繁盛する一義の店(ロケ先:菊屋うどん)の客役で、台詞と濡れ場もままある甲斐太郎他、多数見切れる、協力勢であらう。花子の胸の谷間に鼻の下を伸ばし一義にどやされるアツシは、実は今作が竹洞組初参戦の津田篤。小松公典の隣でうどんを喰ふ中上健次のやうな強面は、現在脚本家・港岳彦として活躍する膳場岳人。姿を消した筈の高田まで含めて、一度は別れた者も全て一義の店に再び集ふラスト・シーンは、映画の締め括りとしては正しく百点満点。その上で。創優和の撮影に関して触れた中で、青味を充溢させた隆と茜との濡れ場は、それまでの積み重ねも踏まへて身震ひさせられる程の決定力を有してゐる。反面、花子と一義とではなく、隆と茜のシーンで映画が頂点を迎へてゐるところに、今作が最終的には全般的な構成の勘所を取り逃がしてしまつてゐはしまいか、と感ずるものである。良くも悪くもアイドルアイドルした主人公の弱さに、全ては集約されるといつてしまへば実も蓋も無いが。なかみつせいじは兎も角、柳東史や青山えりなと吉沢明歩とを並べて比較した場合、勝敗は自ずと明らかであらう。そこを挽回出来るだけのシークエンスは、残念ながら竹洞哲也も小松公典も用意出来なかつた。


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