真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「熟母の本能 一滴残らず欲しい」(2001『股がる義母 息子の快感』の2009年旧作改題版/製作:IIZUMI Production/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》・業沖球太/製作:北沢幸雄/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:北沢幸雄/助監督:城定秀夫/監督助手:伊藤一平/撮影助手:長谷川卓也/照明助手:原康二/ヘアメイク:成田幸子・藤野育美/スチール:佐藤初太郎/音楽:TAOKA/録音:シネキャビン/ネガ編集:酒井正次/タイトル:道川タイトル/現像:東映化学/効果:東京スクリーンサービス/出演:美波輝海・山咲小春・笹原りな・小泉博秀・樋口大輔・なかみつせいじ)。
 東大医学部を目指す竹中渉一(小泉)ことハンドルはショウが、ハンドル・ムーン女史に近況をメールで綴る。のちに渉一がムーンを図々しくも彼女であるだなどと称するものの、映画を観る限り精々メル友程度にしか見えない。渉一の父親で経済評論家の渉蔵(なかみつ)は、新しい母親が三人目といふことは、久美(美波)と少なくとも四度目の結婚をする。渉蔵の女癖の悪さを知る渉一は、そんな男と結婚しようといふ女は頭がおかしいとムーンに嘯(うそぶ)きつつ、二十八とまだ若い久美に、当然一番見境ない盛りの性欲を刺激されなくもない。ひとまづメールを送信してタイトル・イン、渉一は夫婦生活の真最中の、片方は義理とはいへ一応両親の寝室の様子を窺ひに行く。
 完璧にそれらしく見える樋口大輔と笹原りなは、渉蔵の同級生でヤンキーの小泉純一と、彼女でギャルの森島千景。それにしても、東大医学部を本気で狙へる生徒から、コッテコテのヤンキーなりギャルまで机を並べるとなると、なかなか振り幅のデカい高校ではある。貧しくホテル代に欠く二人に、渉蔵が自室を要はヤリ部屋に提供する件は、三番手の裸見せといふ方便に止(とど)まらず、強者の論理とやらの有体な新自由主義を振り回す父親への反抗心も込みで、アフリカでの医療ボランティアを将来の目標に据ゑる、渉一の弱者への眼差しを補完する一手として地味に秀逸。竹中家の風景を綴る中、お義理で久美を後ろから突く渉蔵の欠伸共々、長いキャリアが伊達ではない北沢幸雄の侮れぬ地力を感じさせる。そして山咲小春が、矢張り病気は治らない渉蔵の愛人・中田真紀子。
 この頃大変だつたらしい北沢幸雄の2001年唯一作、といふよりは、美波輝海のピンク映画初陣といふ点を寧ろ重視したい。これで大貫あずさと二度の小山てるみ、計三回となるカンバック含め、都合六本の美波輝海出演作をひとまづ網羅した格好となる。別に嬉しくないといふのは兎も角、流石に、今からもう次はあるまい。閑話休題、真紀子の存在を察知し、胸を痛める久美に渉一が徐々に距離を近づけて行く展開は、よくいへば手堅く、悪くいへば平板。派手に壊れるでない反面、別に深まりもしない。ただ、最終的に一線を超える一手が、ソファーに座り終に泣き出した久美に対し、歩み寄つた渉一が立つたまゝハンカチを差し出す。そんな渉一の両足に思はず縋りついた久美が、フと面(おもて)を上げると義息の愚息はギンギンにフル勃起、といふのは実に腰も砕けるお茶目である。渉一に続き渉蔵ともヤることはヤッておいて、しかも別れ際には渉一から指輪まで受け取つておきながら、それでも久美が渉蔵―と渉一も―を捨て姿を消すラストは、逆に渉蔵的には好都合でもなくね?と下衆いオッサンの考へ方としては勘繰れなくもない。それに加へ、返信すら着弾するでもないムーンが、一貫してネットの向かう側に留まつてゐるのも奇異に思へる。普通思はぬ正体が明らかとなり渉一が吠え面をかくのが、ありふれた“意外な真相”といふ奴なのではなからうか、実はネカマで渉一に世間を教へてやるとか。表面的にはとりあへずスムーズに着地しながら、案外ツボは器用に外して行つたやうにも思へ微妙に居心地の悪さを残す、絶妙な一作ではある。

 ところで、エアロビに軽く汗を流した久美が見る昼メロ、といふ方便と思しきテレビ画面が、まづ間違ひなく北沢幸雄自身の高校教師ものの授業風景カットではないかと思はれるも、特定には至らず。


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