真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「したがるかあさん 若い肌の火照り」(2008/製作・配給:国映・新東宝映画/製作協力:Vパラダイス/監督:堀禎一/脚本:佐藤稔/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・臼井一郎/協力プロデューサー:坂本礼/音楽:神尾光洋/撮影監督:清水正二/助監督:永井卓爾/監督助手:田山雅也・森孝幸/撮影・照明助手:海津真也・種市祐介・広瀬寛巳/スチール:牛嶋みさを/編集:有馬潜/美術協力:若林将平・中川大資・伊藤一平、他/ロケ地協力:牛久フィルムコミッション、他/協力:小山田勝治・サトウトシキ、他/出演:かなと沙奈・速水今日子・青木りん・杏ののか・吉岡睦雄・下元史朗・飯島大介・水沢萌子・川瀬陽太・元井ゆうじ・伊藤猛)。出演者中伊藤猛は、本篇クレジットのみ。元井ゆうじが、ポスターには元井祐治。
 本倉摩耶(かなと)は通つてゐた短大の講師・周治(元井ゆうじ/遺影としてのみ登場)と結婚するも、結婚後一年、周治は脳溢血で急逝する。そのまゝ周治の連れ子・周平(吉岡)と二人一軒家に同居する摩耶は、同い年の義息と、さして罪悪感を感じさせるでもなく易々と一線を越える。インモラルといへば確かにインモラルではあるのだが、人間といふ生き物の姿として血肉を通はせぬでもないので、ここは一旦通り過ぎる。最早バランス、といふかデッサンすら失してオッパイの大きな周平の彼女・三輪佳織(青木)は、そんな彼氏の同居する義母が若過ぎるのに臍を曲げ、周治の兄・周市(飯島)は、独身の末弟・周造(下元)との再婚を摩耶に促す。次弟の寡婦と、未婚の末弟とを纏めて片付けてしまはうとする周市の、いい加減に調子の良さもそれはそれとして現実的であるとはいへようが、今作中視点としては一切出て来ない、摩耶の実家はその場合黙つてゐようか。摩耶が大量に貰つた素麺を友人の杉山由梨(杏)にお裾分けに行くと、今は由梨と同棲するかつては摩耶の交際相手・森野時男(川瀬)は、由梨の目前であるにも関らず、摩耶に復縁を迫る。それもそれで如何なものよといふ衝撃が、その後特に回収されることはない。
 速水今日子は、周治の前妻、といふことは即ち周平の母親でもある高野千紗子。周治とは、千紗子の方が男を作り別れた。小娘のやうな芸名の水沢萌子は、周市の妻・友子。伊藤猛は摩耶が桃を買ひに行く沼尻青果の大将、然しこの人は八百屋の店先がよく似合ふ
 木端微塵の前作「色情団地妻 ダブル失神」(2006/ダブル主演:葉月螢・冴島奈緒)後一般映画に進出してもゐた、堀禎一のピンク帰還作。さうなると、城定秀夫や羽生研司にも往生際の悪い期待を抱いてゐてもいいのであらうか。因みに、その一般映画「妄想少女オタク系」(2007)、「憐 Ren」(2008)の二作は、何れも小屋でしか映画を観る習慣がないゆゑ憚りながら未見。対一般層装備かと思はれる青木りんと杏ののかの演技力の不足は微妙に響くが、基本線としては、憤懣やるかたなかつた「色情団地妻」ほどの惨状を呈してはゐない。濡れ場には非ざる周市と友子の絡み、濡れ場含めての周造と千紗子との絡みは豊かに見させる。とはいへ、最終的には堀禎一と佐藤稔は又しても仕出かしてみせる。コンビとしての破壊力でいふならば、国映の新田栄&岡輝男か。摩耶を中心に据ゑた男と女の相関図は周平・時男、そして一応周造にも繋がり、一方周平のそれは、摩耶と佳織に繋がる。ドラマ・パートのクライマックス、摩耶は周平に感謝を伝へ、それに対し周平は了解した旨を叫ぶ。そこから結局、その件からは確かに現状を捨て歩き始めるかのやうに思はせた、摩耶が何処に向かつて行くのかが皆目判らない。それまで劇中に鏤められたものと、それから締めの一戦で相変らず安寧と体を重ねる摩耶と周平の姿からは、明示的なものは何一つ導き出し得ないやうにしか見えない。良きにつけ悪しきにつけ、主人公の下した決断を、その作品に触れる者に納得させる。その強度こそが、作劇上の勘所の、最たるものではないのか。雰囲気だけ漂はせておいて暗示すら避けるかういふ態度を、当サイトは単なる無為無策、乃至は唾棄すべき怠惰として排するものである。詰め切ることが最も困難な段取りであるとするならば、敢て詰め切らないといふことは、要は詰め切れなかつたことと変りはしないと見做されても仕方あるまい。

 意図的にか不作為にか見事にあつさりスルーされてしまつたが、少なくとも個人的には戦慄の走つたワン・カット。摩耶は由梨宅へ、時男に詰め寄られた勢ひに負け置いて来た自転車を回収しに出てゐる中、周平が留守番する家に摩耶を訪ねて来た周造と、周治に線香をあげに来た千紗子とが揃ふ。その流れで酒席を三人で囲み、周平も夜になつても未だ帰らぬ摩耶を迎へに出た隙に、周造と千紗子は懇ろになる。それも、周市兄貴としてはどうなのよ。そこに、摩耶が行き違ひで一人帰宅する。素直に結合、あるいは「釣りバカ日誌」風にいふならば“合体”を解けばいいものを、千紗子と繋がつたまゝ八足歩行でもするかのやうにユーモラスに身の隠し場を求め右往左往する周造の裸の尻を、摩耶は「周平君なの?」、と義息のものと誤認する。周造が周平からパンツを借りる伏線も置いてあるものの、男の裸の尻を前にしながら、摩耶はそれが周平のものかと、周平の尻ならば一欠片も狼狽しないのだ。論理的には、この時点で二人の触れた禁忌は露顕してしまつてゐる筈であらう。


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